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ちゃん系焼肉は一過性のブームではない? 牛角、焼肉ライクの先にある「第三の焼肉革命」

  • 執筆者の写真: 三輪大輔
    三輪大輔
  • 6月11日
  • 読了時間: 5分

更新日:7月3日

                         三輪大輔|外食ビジネスアナリスト


「ちゃん系」と聞くと、ラーメンを思い浮かべる人も多いかもしれない。しかし近年、焼肉業界でじわじわと存在感を高めているのが「ちゃん系焼肉」だ。店主を「〇〇ちゃん」と呼ぶことに由来するとされる焼肉店のスタイルで、カウンター越しに肉を切り分けるライブ感のある提供方法を特徴とする。2016年に大阪で生まれたこのスタイルは、徐々に東京へ広がり、現在では首都圏や地方都市へも浸透し始めている。


人気の理由は三つある。一つ目は、ライブ感だ。目の前で肉を切り分ける様子そのものがエンターテインメントとなり、寿司や天ぷらのカウンターのような体験価値を焼肉にもたらした。二つ目は、分かりやすさである。近年の焼肉はブランド牛や希少部位など選択肢が増えた一方、「何を頼めばいいのか分からない」という声も少なくない。ちゃん系焼肉は店ごとに看板商品が明確で、初めてでも楽しみやすい。三つ目は、安心感だ。産地や肉の特徴を目の前で伝えながら提供することで、価格だけではない納得感が生まれている。こうした特徴から、ちゃん系焼肉は単なる流行ではなく、新しい焼肉の楽しみ方として支持を広げている。


なお、このテーマについては、私もテレビ取材を受け、ちゃん系焼肉が支持される背景や、焼肉業界における「ライブ感」「体験価値」の重要性について解説した。記事とあわせてご覧いただくと、ちゃん系焼肉の魅力や可能性をより立体的に理解できるはずだ。


人気の「ちゃん系焼き肉」 カウンター越しの“魅せる接客”とアットホームな雰囲気が魅力 業界に逆風も「体験、ライブ感」でにぎわい(2026年6月11日)


牛角、焼肉ライクに続く西山知義氏の挑戦

しかし、この流れは突然生まれたものではない。ちゃん系焼肉を語る上で欠かせないのが、ダイニングイノベーション代表の西山知義氏である。


西山氏は1996年に牛角を創業し、それまで「特別な日のごちそう」という印象が強かった焼肉を、日常的に楽しめる外食へと変えた。さらに2018年には焼肉ライクを立ち上げ、「一人焼肉」という新しい市場を創出した。焼肉は家族や仲間と囲むものという常識を覆し、一人でも気軽に焼肉を楽しめる文化を築いたのである。


そして現在、西山氏が新たに取り組んでいるのが、ちゃん系焼肉だ。


焼肉店を取り巻く三重苦

今、焼肉店を取り巻く環境は厳しい。家賃、原材料費、人件費。その全てが上がっている。東京商工リサーチによると、2025年度の焼肉店の倒産は57件となり、2年連続で過去最多を更新。背景には輸入牛肉の高騰、人手不足、物価高、大手チェーンの参入による競争激化がある。特に中小・零細店にとっては、値上げをすれば客離れを招き、値上げしなければ利益が残らないという厳しい状況が続いている。


この三重苦に対して、ちゃん系焼肉は一つの回答になり得る。家賃については、目的来店が期待できるため、必ずしも駅前一等地に出店する必要がない。路地裏やビルインでも、わざわざ行きたい店になれば成立する。原材料費については、単に安く肉を売るのではなく、目の前で切り分けるライブ感や、産地・部位の説明によって付加価値をつけられる。価格競争に巻き込まれにくい。人件費については、カウンター主体の小型店として、一人の職人が肉を切り、説明し、接客するモデルをつくりやすい。人手不足の時代に、大人数のスタッフを前提にしない点は大きい。


「肉」ではなく「体験」を提供する時代へ

ちゃん系焼肉が提案しているのは、新しい部位でも、新しい肉でもない。価値の中心にあるのは、「体験」である。目の前で肉を切る。おすすめを聞く。店主と会話を楽しむ。肉が商品になるまでの時間も含めて楽しむ。これまで寿司や天ぷらでは当たり前だったカウンターのライブ感を、焼肉へ持ち込んだのである。焼肉は、「何を食べるか」だけではなく、「どう食べるか」を楽しむ時代へ入りつつある。


もう一つ見逃せないのは、ちゃん系焼肉が焼肉人材のキャリア形成にもつながる可能性があることだ。チェーン化が進む外食では、作業の標準化が重視される。一方で、ちゃん系焼肉では、肉を見極め、切り分け、説明し、客と向き合う力が価値になる。


つまり、人が前に出る業態である。人件費が上がる時代に、人を減らすだけではなく、一人の職人の価値を高める方向で業態を設計している点は興味深い。焼肉に携わる人にとっても、技術と接客力を磨けば、自分自身が店の魅力になれる可能性がある。


もちろん簡単ではない。肉を切り分け、説明し、その魅力を伝えられる人材が必要になるため、誰でも同じように展開できる業態ではない。だからこそ急拡大するというより、品質を保ちながら着実に広がっているのである。


数年後には「当たり前」になっているかもしれない

牛角は焼肉を日常食へ変えた。焼肉ライクは一人焼肉という市場をつくった。そしてちゃん系焼肉は、「体験する焼肉」という新しい価値を提案している。


現時点では、まだ一部の焼肉好きや業界関係者の間で語られる存在かもしれない。しかし、数年後に振り返ったとき、「目の前で肉を切り分けるカウンター焼肉」が当たり前になっていたとしても不思議ではない。


派手なブームではなく、じわじわと市場に浸透する。ちゃん系焼肉は、そんな息の長い業態へ成長する可能性を秘めている。



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