モスが「おぼんdeごはん」を112億円で買収。その理由とM&A戦略を読み解く
- 三輪大輔

- 7月23日
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更新日:7月25日
三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
外食業界でM&Aが相次いでいる。日本KFCホールディングスはカーライルの傘下に入り、すかいらーくホールディングスは資さんうどんを買収。さらにコロワイドは、カフェ・ベローチェなどを展開するC-Unitedを完全子会社化した。
そうした流れの中で、モスフードサービスも「和食・酒 えん」「おぼんdeごはん」などを展開するビー・ワイ・オーを約112億円で買収すると発表。一見すると、ハンバーガーチェーンが和食企業を買ったというニュースに見える。しかし、その背景には、モスが次の成長段階へ進むための戦略がある。

モスが買収に動いた二つの理由
今回、モスフードサービスがビー・ワイ・オーの買収に動いた理由は、大きく二つある。
一つ目は、利益の振れ幅が大きいことだ。モスフードサービスは2026年3月期に連結売上高が初めて1000億円を突破した。一方で、2023年3月期には最終赤字へ転落している。モスは国産食材や品質にこだわってきた。その強みはブランドへの信頼につながる反面、原材料価格が上昇した際には利益への影響を受けやすい。
人件費やエネルギーコストも上がる中、モスバーガーという単一業態への依存度が高ければ、他業態の利益で補うことも難しい。売上が伸びていても、コストの上昇によって利益が大きく変動する。バーガー一本足の収益構造は、モスにとって大きな課題だったといっていいだろう。
二つ目は、ハンバーガー業界の競争が激しくなっていることだ。国内のハンバーガー市場は伸びており、2024年度には初めて1兆円を突破した。2025年度も1兆300億円前後と、過去最高を更新する見通しである。しかし、市場が拡大しているからといって、モスが簡単に成長できるわけではない。
業界首位のマクドナルドは、低価格商品から高価格帯の商品、朝食、カフェ、デリバリーまで全方位で需要を取り込む。バーガーキングは店舗数を急速に増やしている。さらに、ゼンショーホールディングスはロッテリアを買収し、「ゼッテリア」への転換を進めている。
もちろん、モスも今後店舗を増やしていくだろう。ただし、モスは店舗数だけを追うブランドではない。商品の品質を保ち、調理や接客の水準を維持しながら、コストも抑える必要がある。無理に店舗を増やし、不採算店舗を抱えれば、その損失がグループ全体の業績に与える影響も大きい。
その意味で、モスバーガーを必要以上に広げるのではなく、別の成長領域を持つ必要があったのだ。そして、モスが過去最高水準の業績にある今だからこそ、次の成長に向けた買収に踏み切る好機だったといえる。
ビー・ワイ・オーを選んだ二つの理由
では、なぜ買収先がビー・ワイ・オーだったのか。その理由も二つある。
一つ目は、客層やブランドの価値観が近いことだ。ビー・ワイ・オーは「和食・酒 えん」「おぼんdeごはん」「だし茶漬け+肉うどん えん」などを展開している。
中でも「おぼんdeごはん」は、女性客やファミリーの利用が多く、健康感や安心感を重視するブランドである。モスも女性客や家族連れから支持され、品質や安全性、手づくり感を強みにしてきた。価格の安さだけを前面に出すのではなく、多少高くても品質や居心地に納得してもらう。両社は、狙っている客層も、ブランドの方向性も近い。そのため、モスが全く異なる企業を買収する場合と比べて、ブランド同士の親和性が高く、グループに加えた際の違和感も小さい。
二つ目は、商業施設への出店に強いことだ。ビー・ワイ・オーは、PARCOをはじめとした商業施設や駅ビルへの出店実績を持つ。こうした施設への出店には、デベロッパーとの関係や、施設ごとの客層、営業時間、運営条件に合わせるノウハウが必要になる。一方、モスは路面店やロードサイド店の印象が強い。商業施設にも出店しているが、ビー・ワイ・オーを取り込むことで、これまで十分に開拓できていなかった施設や立地に接点を広げられる可能性がある。
これは「おぼんdeごはん」などの既存ブランドだけの話ではない。モスは近年、新業態の開発にも取り組んでいる。ビー・ワイ・オーが築いてきた商業施設との関係をグループ内で生かせれば、モスの新業態を出店する機会も広がる。今回の買収によって、モスは新たな客層を獲得するだけでなく、グループ全体の出店戦略を広げることができる。
共同調達とFC展開にも可能性
買収による効果は、客層や出店立地の拡大だけではない。両社が持つ食材の調達網や商品開発のノウハウを共有できれば、品質を維持しながらコストを抑える効果も期待できる。原材料費の高騰が利益を圧迫しやすいモスにとって、グループ全体の調達規模が広がる意味は小さくない。
さらに、モスは長年にわたってフランチャイズチェーンを運営してきた。加盟店の開拓や店舗運営、教育、物流などの仕組みをビー・ワイ・オーのブランドに活用できれば、「おぼんdeごはん」などの出店スピードを高められる可能性もある。また、ビー・ワイ・オーは近年、「だし茶漬け+肉うどん えん」の展開に力を入れてきた。比較的小規模な店舗でも運営しやすい業態であれば、立地や商圏によっては、既存のモスバーガー店舗から転換する選択肢も考えられる。モスのFC網に複数の業態を加えることができれば、不採算店の立て直しや、出店余地の拡大にもつながるだろう。
ビー・ワイ・オーを取り込むことで、モスはバーガー以外の日常外食へ進出できる。モスバーガーはランチや軽食で利用されることが多い。一方、「おぼんdeごはん」は定食や夕食、「和食・酒 えん」は酒場や会食、「だし茶漬け+肉うどん えん」は短時間の食事需要に応える。同じグループの中で、昼食、夕食、定食、軽食、酒場まで利用シーンを広げられる。モスバーガーだけでは接点を持てなかった消費者にも、別のブランドで接触できるようになる。
モスは単に和食企業を買ったのではない。自社のブランドイメージを大きく崩さずに、日常外食の領域を取り込んだのである。
海外展開でも選択肢が広がる
今回の買収は、将来的な海外戦略にもつながる可能性がある。
モスは台湾やシンガポールなどで海外展開を続けてきた。一方、中国本土では二度の撤退を経験している。海外のハンバーガー市場では、マクドナルドやKFCなどの世界的大手に加え、店舗展開の速い現地チェーンとも競わなければならない。日本らしい品質や商品を打ち出しても、ハンバーガーという同じ土俵で規模を広げることは簡単ではない。
その点、「おぼんdeごはん」や「和食・酒 えん」は、定食、米、だしといった日本の食文化そのものを打ち出せる。モスバーガーとは異なる客層や利用場面を狙えるだけでなく、日本発の和食ブランドとして海外へ展開する選択肢も持てるようになる。
今回の買収で、すぐに海外展開が進むとは限らない。まずは国内で第二の収益の柱を育てることが中心になるだろう。ただし、モスが持つ海外の店舗運営基盤と、ビー・ワイ・オーが持つ和食業態を組み合わせれば、将来的な可能性は広がる。ハンバーガーだけを海外に展開する会社から、複数の日本食ブランドを持つ外食グループへ変わる余地が生まれる。
「MOS BURGER」から「MOS」へ
モスは新中期経営計画で、“「MOS BURGER」から、さまざまな価値を発信するブランド「MOS」に進化する”という方針を掲げている。今回の買収は、その方針を具体化する一手といえる。モスバーガーの店舗数を無理に増やすのではなく、客層や価値観の近い和食ブランドを取り込む。さらに、商業施設への出店、新業態の展開、共同調達、FC展開、そして海外市場という新たな可能性も広げる。
モスは、モスバーガーを捨てようとしているのではない。モスバーガーで築いた品質や安心感という価値を、別の業態へ広げようとしている。今回の112億円の買収は、モスがハンバーガー会社から日常外食グループへ進化するための一手なのである。


