と、簡単に書きましたが、お店に表札はありません。正確には小さな、本当に小さな表札があるだけ。建物も築100年以上の古民家を改装しており、外観は当時のまま。だから、一目見ただけでは、そこが飲食店だとは分かりません。
目黒銀座商店街を5分ほど歩くと、中目黒にあるとは思えない古民家にたどり着く
表札は小さく扉の横にあるだけ。近づいてみないと分からない
驚くのは、その外観だけではありません。扉を開けると、さらにびっくり! 外観からは想像できない、大人な雰囲気が漂う落ち着いた雰囲気が広がっています。
内装を手掛けたのはスタジオムーンの金子さん。カウンターのライトはあえて電球にして天井に絵柄が映し出されるようにしたとのこと。遊び心がオシャレ過ぎて堪りません。
カウンターだけでなく、個室も一部屋用意されている
ふと天井を見上げたときに飛び込んでくる、光が描き出す鮮やかな模様
メニューは坂本和樹さんと望月将さんという、二人の若手寿司職人が提案する「おまかせコース」のみ。握り15貫と3品の小皿料理が出るコースが、なんと9000円という驚愕の価格で食べられます。
若手寿司職人の坂本和樹さん。手に握るのは、後ほど触れるシグネチャーメニュー
9000円って、安すぎない? 大丈夫?
……そう不安を感じた方もいるかもしれませんね。でもご安心を! 「鮨おにかい」は若手寿司職人の修行の場としてオープンした背景があるんです。
きっかけは、MUGENさんの大人気寿司店「鮨 つきうだ」の存在。鮨つきうだは月生田さん(月生田光彦氏)が大将を務めていて、現在、8席と一室の個室で、月商が1100万円を超えています。めちゃくちゃ人気店です!
だけど、オープンから3年が経ち、人気店がゆえのジレンマが襲いかかってきます。お店には、大将の月生田さんが握る寿司を食べたいがお客様が続々とやってきます。だけど、そうしたお客様が多くなれば多くなるほど、裏方の出番がなくなってしまうのです。その裏方の一人こそ、坂本和樹さんだったのです。
ちょうどその頃、「鮨おにかい」の前身の「くずし割烹おにかい」が曲がり角を迎えます。くずし割烹おにかいと天婦羅 みやしろは一つのキッチンで営業していました。だけど、「くずし割烹おにかい」が人気となり、「天婦羅 みやしろ」もミシュランを獲得して、そのスタイルに限界が生じていたのです。ならば、若手の寿司職人が挑戦できる舞台をつくろうと、「鮨 おにかい」としてリニューアルオープンさせました。
その背景について、MUGENの代表取締役社長、内山さんは「月刊飲食店経営2月号」のインタビューでこう語っています。
「鮨おにかいは坂本と銀座久兵衛から来た、望月将の二人の店です。鮨つきうだの役割は、若い人材を育て続けることです。とはいえ、坂本と望月も、いつまでも鮨おにかいにいるわけではありません。腕を磨き、ファンが付いたら、より単価の高い彼らのための新しい店をつくる予定です。彼らのために新しいステージを用意できたら、鮨おにかいに鮨つきうだの若手が入る。その後、鮨つきうだにはさらに若いスタッフが入ってくるという流れが生まれます。現在、名店にいるけれど寿司を握れないから辞めてしまう若手が少なくありません。僕らにとっては大きなチャンスです。鮨おにかいを起点にし、新しいキャリアステップをつくっていきたいと考えています」
ちょっと説明が長くなってしまいました。つまりは、こうした背景があるからこそ、9000円という驚愕の金額で、クオリティの高い寿司を楽しむことができるのです。
この日頂いたのは、中トロやハタ、サワラ、ホッキガイ、ブリの塩締め、煮鮟肝の軍艦、スミイカ、アジ、赤身の漬け、コハダ、サバの醤油漬けスモーク、スジコ、アナゴなど。
順不同で寿司の写真をご紹介しましょう!
そして、さきほど坂本さんのご紹介写真で登場した「海老天のり巻き」も、もちろん絶品です。みやしろさんの天ぷらとのコラボメニューなので、ミシュラン獲得店の実力も堪能することができてしまいます。なんてお得!!
現在、寿司職人が不足しています。一方で、海外からは日本の寿司を学びたいと多くの人がやってきています。寿司文化が世界に広がっている中、日本の寿司文化だけが人材不足のため伸び悩んでいるのです。
修行期間の長さや師弟関係など、問題はさまざまあります。だけど、MUGENさんの取り組みが、閉塞感溢れる寿司業界に風穴を開けたのは確かです。坂本さんも「 『鮨さかもと』ができるように、これからまだまだ頑張っていきたい」と話していました。
美味しいのは当たり前。それ以上のかけがえのない価値がある鮨おにかい。同店出身の寿司職人が、新しい寿司業界、引いては日本の外食産業をリードしていく。
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