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アルコール規制の核心は社会保障費の防衛である

  • 執筆者の写真: 三輪大輔
    三輪大輔
  • 4月16日
  • 読了時間: 3分

世界的な潮流を見ると、アルコール規制は「文化戦争」でも「道徳的な議論」でもない。本質は、国家が抱える 医療・介護を中心とした社会保障費の増大を抑えるための政策である。厚生労働省が2020年以降に公表した資料を参照すると、日本におけるアルコール関連の社会的コストは、大きく三つに分類できる。


第一に、アルコール起因の疾病に対する医療費である。肝疾患、がん、循環器疾患など、長期的に医療費を押し上げる疾患の多くに飲酒が関与している。国立がん研究センターは、飲酒が複数の主要ながんの明確なリスク要因であると報告しており(2020–2022年更新)、これらが国民医療費を圧迫している現状は明らかである。


第二に、救急搬送や暴力・事故など、治安維持に関連する社会コストである。酩酊に伴う急性アルコール中毒、転倒事故、交通事故、暴力事案は、救急医療と警察の負担を増大させる。厚生労働省の「アルコール健康障害対策推進会議」(2020–2023年)では、これらを含むアルコール関連の社会的損失は 年間4兆円規模 に達すると推定されている。


第三に、労働生産性の低下である。欠勤や遅刻、作業効率の低下など、飲酒がもたらす「目に見えにくい損失」は経済全体に影響を及ぼす。2021年度の厚生労働科学研究では、過度飲酒者は一般人口に比べて医療費が高く、飲酒量の削減が医療経済に明確な効果をもたらすことが示されている。これら三つの要素が合計されることで、国家財政に対して看過できない負担が生じているのである。


こうした背景があるため、多くの国が採用しているアプローチは明快である。「飲む前の段階を絞る」 という政策である。広告を規制し、公共空間での飲酒を制限し、酒類の提供・入手機会を合理的にコントロールすることで、医療費や社会コストの増加を未然に防ぐ。これは“消費抑制”というより、むしろ “財政の持続可能性を守るための施策” と位置づけられている。


対して日本は、世界基準で見れば異例の緩さを維持している。テレビCM、SNS広告、屋外広告、公園や路上での飲酒、飲み放題文化、さらには地域に根づく“はしご酒”まで、自由度がきわめて高い国は少ない。しかし、人口構造と社会保障費の推移を踏まえると、この寛容さがいつまでも続くとは考えにくい。


今後、広告、公共空間、飲み歩きなど、複数の領域で規制議論が進む可能性が高い。その背景には、海外と同様に “社会保障費の防衛”という避けられない合理性 が存在しているためである。アルコール規制を語るうえで、この認識が出発点となる。日本がどのようなルールを採用し、外食産業はどのような対応を求められるか──。今後の議論を読み解くためには、この“財政の論理”を押さえておく必要がある。

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