2024年2月19日、厚生労働省が「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を発表した。その背景には、飲酒に伴うリスクに関する知識の普及の推進を図るのはもちろん、国民それぞれの状況に応じた適切な飲酒量・飲酒行動の判断に役立つ狙いがある。なお、厚生労働省が、飲酒に関するガイドラインを発表するのは、今回が初となる。ただ多くの飲食店が飲み放題は続ける予定だが、外部環境の変化によっては、今後見直しを迫られる可能性も高い。
数年前、アルコール市場を席巻していたのは、いわゆる「ストロング系酎ハイ」だ。しかし、アサヒビールやサッポロビールなどは、新規商品の発売はしない旨を公表している。その決定には、21年3月に厚生労働省から発表された「アルコール健康障害対策推進基本計画 (第2期)」の影響が大きい。その中の「基本的施策」で「いわゆるストロング系アルコール飲料の普及など、近年の酒類の消費動向にも留意した普及啓発が必要である」と明記されたことが撤退の決め手になったとメーカーもあるそうだ。
アルコール規制の流れが日本だけで起きていることではない。10年5月に開かれた世界保健機関(以下、WHO)総会において「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」が採択された。この世界戦略において、WHOは「有害な使用」について、健康に有害な結果をもたらすという面と、周囲の者の健康や社会全体に影響を及ぼすという面について言及し、アルコール関連問題を低減するための、国の行動として取り得る政策の選択肢を10 の分野に分類。
その後、WHOは13年に、循環器疾患、がん、慢性呼吸器疾患、糖尿病などの非感染性疾患の予防コントロールのため、「Global Action Plan 2013-2020」を発表し、九つの自発的世界目標の一つとして、「アルコールの有害な使用の少なくとも10%の削減」を掲げている。そして22年5月には「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略を有効に実行するための アクションプラン(2022-2030 年)」が採択され、アルコールに対する風当たりが年々強くなっている。
同じような道をたどり、規制が強くなったものがある。それがタバコだ。飲食店でタバコが吸えるのが当たり前だった。しかし、20年4月に改正健康増進法が全面施行されて以降、公共施設や公共交通機関は原則屋内禁煙となった。ただ03年にWHOで成立した「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」には、屋内全面禁煙が定められた公共空間の8施設(医療施設、学校、大学、官公庁、事業所、レストラン、バー、公共交通機関)が記されている。そのうち、日本で屋内全面禁煙が法律で規制できている施設は5施設(医療施設、学校、大学、官公庁、公共交通機関)で、WHOの評価は4段階評価の下から2番目にとどまっている。これに含まれないレストランでは、厳しい分煙のルールが設けられ、吸う人も吸わない人も心地よい環境づくりにつとめている。なお公共空間の8施設が全て屋内全面禁煙となっている国は22年時点で74カ国ある。
こうした流れを踏まえて、次に規制されるのではないかと見られているのが「飲み放題」だ。飲み放題を廃止する背景にも、適正飲酒を求める世界的な動きが深く関係している。実際、世界的に適正飲酒の動きは進んでいて、アルコール飲料のテレビコマーシャルが放送できない国も少なくない。日本でもコロナ禍の21年3月に、キリンホールディングス株式会社傘下の「キリンシティ」がいち早く飲み放題をやめて、大きな話題を呼んだ。
14年8月1日にマクドナルドが全店舗で屋内禁煙を発表したとき、失敗するという声が多かった。また、1996年に日本に上陸したスターバックスも当初は分煙の店舗もあったが、後に屋内に関しては完全禁煙を実現している。そして今では、禁煙の方が当たり前となった。それと同じように、今後、アルコール規制も進み、適正飲酒の下、飲食店のメニューから飲み放題が消える日が来るかもしれない。そもそも日本は、飲酒に対して寛容な社会だ。路上で飲んだり、酔っ払って寝たりする姿は日本だけでしか見られないという声も聞く。
一方で、飲み放題に対する社会的なニーズが高いのも事実だ。飲食店にとっても、原材料費の高騰が進む中、原価率の低いドリンクを多く売って利益を残したいという思いもある。今後、飲み放題に対する風当たりがどのように変わっていくのか、十分に注視していく必要がある。
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