人生の「停滞感」の正体とは?40代で効いた、思考の霧を晴らす『Think clearly』という処方箋
- 三輪大輔

- 2025年11月6日
- 読了時間: 4分
更新日:1月5日
中年の危機に使える自己啓発書
ここ一年ほど、個人的な課題は「中年の危機にどう向き合うか」であった。
この仕事にいったいどんな意味があるのか。
自分はこの先、何を目指して生きていけばいいのか。
そうした問いは、放っておけば存在そのものを揺るがしかねない。実際、この一年はその問いと正面から向き合う必要があった時期である。いまはひとまず結論が出て、具体的にやりたいことも見えてきたが、振り返ると、自分の思考はかなり凝り固まっていた。年齢とともに頑固になり、考え方のバランスが悪くなっていたのかもしれない。
その「こり」をほぐすひとつの糸口として、自然と手に取るようになったのが認知科学や行動心理学の本である。うまく言葉にできず、処理しきれていなかった感情や違和感に名前が与えられ、少しずつ整理されていく。その感覚が心地よかった。本書『Think clearly』も、そうした文脈で選んだ一冊である。読んでいるうちに、曖昧だった感情やモヤモヤにラベルが貼られ、頭の中の棚が整っていく。タイトルの通り、思考が明瞭になっていく体験があった。まさに中年の危機に使える自己啓発書といっていいだろう。
思考の道具箱としての『Think clearly』
本書は、行動心理学・認知科学の知見をベースにした「思考の道具箱」である。行動経済学でおなじみのトピックも多いが、「読み物」としてさらっと流し読みするのではなく、日々の意思決定にそのまま持ち込める「道具」として提示されている点が特徴だ。
例えば、こんな概念が登場する。
・確証バイアス自分の信念に合う情報ばかり集めてしまう傾向。対策として、あえて自分の意見を否定する材料を三つ探してメモすることを勧めている。
・生存者バイアスうまくいった成功例だけを見て、「努力すれば自分も同じようになれる」と考えてしまう罠。成功の影には膨大な「うまくいかなかった例」があることを忘れてはならない。
・アンカリング最初に提示された数字に引きずられてしまう現象。自分なりの見積もりを先に書き出しておく、というシンプルな対処法が紹介されている。
・サンクコスト(埋没費用)すでに費やした時間やお金に縛られ、合理的な撤退ができなくなる問題。意思決定は「過去」ではなく「未来の期待値」で行うべきだと繰り返し強調される。
こうした話は『ファスト&スロー』や『予想どおりに不合理』など、これまで多くの名著で取り上げられてきた。ただ、過去にそれらを読んだときの自分は、どこか「面白い読み物」として受け止めていただけで、日々の判断に落とし込むところまで踏み込めていなかった。
特に刺さった二つの教え
本書が違ったのは、各章のヒントが「明日からこうやって使える」と具体的な行動レベルで書かれている点である。
例えば、個人的に刺さったのは、「11 自分の感情に従うのはやめよう」というメッセージfs。若い頃の自分は、感情をエンジンにして走ってきたところがある。「熱量があるかどうか」を最重視し、J-POPの歌詞のような言葉に励まされながら、感情に背中を押されるままに選択をしてきた。もちろん、それが悪いわけではない。一時的なモチベーションを高めたり、新しいチャレンジに踏み出したりするには、感情の力が必要である。ただし、本書が指摘するように、「自分の感情は思っているほど当てにならない」という側面も確かにある。気分は天候のように移ろいやすく、そのときどきの感情に人生の舵取りを全面的に委ねるのは危うい。
もう一つ印象に残ったのが、「13 ものごとを全体的にとらえよう」という章で語られるフォーカシング・イリュージョンである。特定のテーマについて集中的に考えているとき、そのテーマが人生全体においても極めて重要であるかのように錯覚してしまう現象だ。
仕事、年収、人間関係、住む場所。何かひとつの要素ばかりを凝視していると、それさえうまくいけばすべて解決するように思えてくる。しかし、実際には人生はもっと多層的で、どの要素も全体の一部に過ぎない。その当たり前の事実を、改めて冷静に思い出させてくれる。
こうした指摘は、言われてみれば当然のことである。しかし、自分の言葉だけで同じところまで到達するのは案外難しい。だからこそ、本を読む意味があるのだと思う。著者の言葉をそのまま借りるのではなく、ヒントとして受け取り、自分の体験や課題と照らし合わせながら咀嚼していく。その積み重ねが、いつのまにか自分の思考や行動の「癖」を変えていく。
読み返すべき一冊として
この数年、同じ本を読み返すことはあまりしてこなかった。社会人になると、読書に使える時間は限られる。読めても月に二、三冊で、その中にはどうしても「ハズレ」も混じる。だからこそ、心に刺さった本は繰り返し読む方がいい。『Think clearly』は、まさにそういう一冊である。
中年の危機に向き合いながら、自分の思考を点検するための「定期健診」のような本として、これからも折に触れて読み返すことになりそうだ。そして、その読み返しのプロセス自体が、ブログや文章を書くことにもう一度力を入れてみようと思えたきっかけの一つでもある。

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