2026年に旋風を巻き起こすか。天ぷら業態に訪れた第三の波。
- 三輪大輔
- 2025年12月25日
- 読了時間: 5分
2026年、天ぷらが一大ブームになるかもしれない。それを予感させる動きが、今、外食業界で静かに、しかし確かに進んでいる。その背景を解説する前に、天ぷら業態がこれまでたどってきた流れを整理しておきたい。
第一の波:天丼の大衆化が外食を変えた
そもそも天ぷらには、これまで二度の拡大期があった。一度目は1990年前後だ。ロイヤルホールディングスの「天丼てんや.」に象徴されるチェーン化による大衆化である。天丼を専門店の世界から切り離し、駅前などの日常立地で手軽に食べられる外食へと発展させた。
この流れの終着点に位置づけられるのが、オイシーズの「金子半之助」だろう。「天丼てんや.」が主に駅前立地で展開する一方、「金子半之助」は商業施設を主戦場とし、「天丼てんや.が進出していなかった空白」を天丼専門店として埋めた。実際、同店が展開しているのは「コレド室町」や「大丸東京」など、都市型で客層の広い商業施設が目立つ。両ブランドがそれぞれ異なる立地で店舗網を広げたことで、天丼は日常食から施設内外食までカバーする存在となった。こうして、天丼を軸とする第一の波は、ここで一つの完成形を迎えたといえる。
第二の波:天ぷらが専門業態として成立した時代
続く第二の波は、2010年代に訪れる。ここでに主役は天丼ではなく、天ぷらそのものに他ならない。象徴的なのが、トリドールホールディングスの「天ぷらまきの」だ。2006年に誕生し、揚げたてを一品ずつ提供するライブ感を前面に打ち出し、現在、全国で17店舗を展開している。
この流れの中で、近年とくに存在感を高めているのが、博多発の天ぷらチェーンだ。「天麩羅処ひらお」や「博多天ぷら たかお」「天ぷらの博多だるま」といった存在が、専門業態としての天ぷらを面で広げていった。中でも勢いが際立つのが「博多天ぷら たかお」だ。同店は「博多辛子めんたいこ ひろしょう」を展開する株式会社弘商が運営し、卓上で楽しめる昆布明太など、出自を生かした提案で差別化を図ってきた。福岡県内にとどまらず、「渋谷PARCO」や「ルクア大阪」など都市型商業施設への出店を進め、その存在感を高めている。
いずれの店にも共通するのは、注文ごとに揚げるライブ感と、出来たてをテンポよく提供するスタイルだ。天ぷらを「特別な料理」から、「外食として成立する専門業態」へと押し上げた点で、第二の波は確かに存在していた。2025年には、FOOD & LIFE COMPANIESが天ぷら定食 あおぞらを立ち上げ、この流れに加わった。専門性を保ちつつ、定食業態としての汎用性を高めたモデルである。
第三の波のヒントは「うなぎの成瀬」にある
しかし、いま起きている動きは、この第二の波とも少し違う。職人技の再評価でも、単なる低価格化でもない。私はこれを、天ぷら業態の第三の波と捉えている。そのヒントになるのが、「うなぎの成瀬」の急拡大だ。
従来の鰻業態は、明確な二極構造だった。接待や記念日に使われる高級鰻店。そして、夏場など限られた時期に提供される、比較的安価な鰻重。「うなぎの成瀬」が狙ったのは、その間である。通年で食べられ、価格は抑えめ。それでいて、「鰻を食べた」という満足感はきちんと残す。これまで本格的に掘られてこなかった価格帯と提供価値のゾーン。いわばブルーオーシャンに切り込み、オペレーションの標準化と再現性によって、一気に店舗網を広げた。結果として、「鰻は特別な日の料理」という前提そのものを書き換えてみせた。
なぜ今、天ぷらで第三の波が起きているのか
この現象は、天ぷらにも当てはまりつつある。その間隙こそ、町場の天ぷら業態だ。では、なぜ天ぷらで「第三の波」が起きつつあるのか。背景には、三つの構造変化がある。
第一に、フライヤーの進化だ。近年のフライヤーは、油温管理や揚げ時間の自動制御が高度化し、誰が調理しても安定した品質を保てるようになっている。従来は職人の経験に大きく依存していた工程を、アルバイトや外国人材でも補えるようになった。例えば、クールフライヤー株式会社が開発した業務用フライヤーのように、油の劣化や油ハネを抑え、作業負荷やコストを下げる機器も登場している。これは単なる調理機器の進化ではない。天ぷら業態の参入障壁そのものが下がったことを意味している。
第二に、原価コントロールのしやすさである。天ぷらは、野菜と魚介という原価帯の異なる食材を組み合わせやすい。そのため、メニュー構成によって原価率を調整しやすく、食材価格の変動にも対応できる。さらに、最新フライヤーの導入によって油の劣化が抑えられ、交換頻度や使用量を減らすことができる点も見逃せない。油コストの負担が軽くなることは、物価高が続く環境下で、運営会社にとって大きなメリットとなる。
第三に、業態の広がりを許容する市場環境が整ったことだ。参入障壁が下がり、原価管理もしやすい。この条件がそろえば、新規参入は増え、メニューや業態のバリエーションも広がっていく。定食型、専門店型、新しい天ぷらメニューを提案する店など、多様なスタイルが生まれる余地がある。
天ぷら業態に訪れた第三の波の行方
こうした動きが重なった結果、天ぷらは「限られた立地・人材でしか成立しない業態」ではなくなった。小さな坪数でもフライヤーを設置でき、複雑な職人技に頼らず、アルバイト中心の体制でも営業できる。商業施設だけでなく、駅前や町場といった生活動線の中でも成立する条件が整いつつあるということだ。
もちろん、「天丼てんや」という成功例がある。天丼を日常の外食として成立させた、その功績は大きい。しかし、だからこそ、天ぷら業態も成り立つともいえるだろう。調理の標準化、オペレーションの効率化、人材依存の低減など、「天丼てんや」が切り開いた環境の延長線上で、今、天ぷらそのものを主役にした業態が現実的な選択肢になっている。
2026年、天ぷらの第三の波が外食業界で旋風を巻き起こすか、その動向を注視したい。