高市氏の「食品消費税ゼロ」で外食は不利になるのか。煽り論が見落とす仕入税額控除と付加価値の本質
- 三輪大輔
- 3 時間前
- 読了時間: 5分
高市政権の「食品消費税0%」で外食離れは起きるのか?
8日に投開票が行われ、自民党の圧勝で終わった衆議院選挙。選挙戦を通じて大きな争点となったのが「食品消費税0%」である。各党が消費税率引き下げを打ち出す中、高市氏は「食品消費税0%」を掲げた。
消費税の是非そのものについては、ここでは論じない。その政策議論を受け、ネット上では「スーパーの惣菜(0%)と外食(10%)の差で、飲食店から客が消える」といった悲観論が目立つ。外食は不利になる、価格競争で勝てない、という声も少なくない。
確かに、単純な税率差だけを見れば、その懸念は理解できる。しかし、この議論には二つの重要な見落としがある。一つは「仕入税額控除」の仕組みであり、もう一つは、外食が本来売っている「付加価値」という視点である。そもそも外食は、単なる食品の再販業ではない。価格比較だけで語ること自体が、ビジネスの前提を取り違えている可能性がある。
こうした前提を踏まえて、「食品消費税0%」が実施された場合の影響を、根本的な仕組みから整理してみたい。
煽り論が見落とす仕入税額控除とは
まず前提として、消費税は「売上にかかった税金」をそのまま納める仕組みではない。飲食店が納めるのは、客から預かった税額から、仕入れ時に支払った税額を差し引いた差額である。これが「仕入税額控除」の仕組みだ。
例えば、食材を1000円で仕入れたときを考えてみよう。軽減税率8%がかかる場合、飲食店は1080円を取引先に支払う。その後、2000円のメニューにして客に提供し、消費税10%を上乗せして2200円を受け取ったとする。この場合、店が納める税額は次の通りだ。
・仕入時に取引先に支払った税額 80円・売上時に客から預かった税額 200円
飲食店が国に納める消費税は、差額の120円だ。言い換えれば、消費税は原材料そのものではなく、調理やサービスといった付加価値部分に対して課税される仕組みになっている。
なぜ納税額が増える可能性があるのか
もし食品の税率がゼロになり、仕入れに消費税がかからなくなった場合を考えよう。以前のように1000円の食材を仕入れた場合、取引先への支払額は1000円となる。しかし、メニューを提供する時の税率が10%のままであれば、売上にかかる消費税は200円のままだ。この場合、店が納める税額は次のようになる。
・仕入時に取引先に支払った税額 0円
・売上時に客から預かった税額 200円
つまり、従来は飲食店が国に納める消費税は120円だったが、食品の税率がゼロになると200円に増える。これが「仕入税額控除がなくなると納税額が増える」と言われる理由である。
ただし重要なのは、これは税負担が新たに増えるというより、仕入れ時に立て替えていた税額を差し引けなくなるという構造変化である点だ。消費税は本来、事業者が負担する税ではなく、最終消費者が負担する税であるという建付けは変わらない。
つまり、納税額が増える可能性はあるものの、それは外食が突然不利な産業になることを意味するわけではない。問題は税率差そのものよりも、外食の価値設計にある。
外食は本来「付加価値」を売る商売である
確かに、食品消費税0%は、飲食店にとって逆風にもなり得る。しかし同時に、自らの付加価値を問い直す機会でもある。
そもそも飲食店は、付加価値のビジネスだ。例えば、トマトを100円で仕入れ、300円で提供する。これが飲食店のビジネスの本質だ。重要なのは原価ではない。その差額200円をいかに設計できるか、すなわち付加価値の設計こそが経営の核心である。その200円の差額は、単なる利幅以上の意味を持つ。そこには調理技術、時間短縮、空間、接客、ブランド、物語といった要素が含まれている。顧客は「トマト」を買っているのではない。その店で過ごす時間や体験を買っているのである。もし税率差だけで選ばれるのであれば、それは付加価値ではなく、価格のみで競争しているといっていいだろう。つまり、価格以外で選ばれる設計ができているかどうかが、外食の本質的な競争力を決めているのだ。
真に影響を受ける業態とは
外食は本来、価格競争産業ではない。外部環境である税率に大きく揺さぶられるようなら、少し厳しい言い方だが、内部の競争力に課題がある可能性が高い。
ただし、全ての外食が同じ条件に置かれるわけではない。影響が出る業態もあるが、その範囲は限定的になるだろう。とりわけ、低価格帯のファストフードやテイクアウト中心業態は、価格感度の高い市場に身を置いている。スーパーの惣菜と比較されやすく、心理的な税率差の影響を受けやすいのは事実だ。
もともとファストフードは価格訴求型の業態である。デフレ期には過度な価格競争に陥り、例えばかつての日本マクドナルドではハンバーガー69円やワンコインのバリューセットが話題になった。牛丼チェーンでも激しい値下げ競争が繰り広げられた。しかし、その結果は消耗戦であった。利益率の低下、ブランド価値の毀損、オペレーション負荷の増大。多くの企業はその反省を経て、安さ一辺倒からの転換を図ってきた。
価格感度が高い市場では、心理的な税率差が一定の影響を与える可能性は否定できない。ただし、それが直ちに再び過度な価格競争へ回帰することを意味するわけではない。むしろ現在の外食企業は、付加価値や商品力の強化によって客単価を引き上げる方向へ舵を切っている。
ラーメン業界も象徴的である。いわゆる「1000円の壁」はすでに崩れつつある。原材料高や人件費上昇を背景に価格改定が進む一方、大手資本の傘下に入ることで仕入れや物流の効率化を図り、コスト構造を改善する動きも見られる。価格が上昇しても、体験価値やブランド力で選ばれる店は増えている。
つまり、税率差が一定の心理的影響を与える可能性はある。しかし、それは外食全体を直撃する構造変化というよりも、業態ごとの付加価値を再確認させる材料になるだろう。その意味で、専門店やブランド価値が明確なチェーン、体験型業態では、税率だけで選択が左右されるとは考えにくい。
税率よりも問われる付加価値の強さ
コロナ禍では、常連客を抱える店が選ばれた。その過程で顧客体験価値の重要性が改めて認識され、多くの店が自店ならではの価値を磨いてきた。
食品消費税0%は、外食を直撃する政策なのか。外食にとっての本質的課題は税制ではない。問われているのは、これまで積み重ねてきた付加価値の強度である。税率差という外部環境の変化は、その成果を測る試金石にすぎない。