「店都合」のスマホオーダーはもう限界。これからは消費者が「使うメリット」でサービスを選ぶ時代になる理由
- 三輪大輔

- 1月13日
- 読了時間: 5分
店主導のDXが行き詰まった先にあるもの
スマホオーダーをめぐる議論は、ここ数年、繰り返し炎上と沈静化を繰り返してきた。便利だという声がある一方で、「面倒」「押し付けがましい」「店都合だ」という不満も根強い。
この賛否は、単なる使い勝手の問題ではない。背景にあるのは、スマホオーダーが誰のためのサービスとして設計されてきたのかという、より根深い構造である。
率直にいうと、これまでスマホオーダーは、飲食店側の課題解決を起点に進化してきた。人手不足への対応。人件費高騰への対策。オーダーミスの削減とオペレーションの効率化。いずれも、経営上は極めて正しい。しかし同時に、これらは消費者にとって直接のメリットではない。
「正しい思想」が支持されなかった理由
象徴的だったのが、スマホオーダーサービスにおけるチップ機能を巡る議論である。
良い接客をしたスタッフが報われる仕組みをつくりたい。努力が可視化され、評価される世界観を実装したい。思想としては理解できるし、私自身もとても共感したのも事実だ。むしろ、業界に長く身を置く人間ほど、その切実さは分かるだろう。
しかし消費者から見れば、それは別の顔を持つ。賃金が上がらない。値上げもできない。だからチップで補ってほしい。そう受け取られた瞬間、この構想は「共感」ではなく「負担」に変わった。思想の是非ではない。誰の課題を、誰に引き受けさせているのかという順番の問題である。
LINE登録が嫌われる理由も同じ構造にある
スマホオーダーに付随するLINE登録も、同様の反発を招いてきた。
一度きりの来店かもしれないのに、登録を求められる。その後、プッシュ通知が届く。再来店を促される。飲食店側から見れば、顧客の囲い込みであり、ファン化である。コロナ禍を生き残った店の多くが、ファンを持っていたのも事実だ。
だが、消費者の視点に立つと話は変わる。なぜ一度の食事のために、そこまで追われなければならないのか。これもまた、飲食店側のストーリーが前に出過ぎた結果である。
転換点は、確実に近づいている
ここまでスマホオーダーは、「店が選ぶもの」だった。導入するかどうかは店の判断であり、客はそれに従うしかなかった。しかし、この関係は長く続かない。今後は、消費者が「その店のスマホオーダーを使いたいかどうか」を選ぶ時代に入る。
使いにくい。不快だ。やらされている感が強い。そう感じるサービスを導入している店は、静かに選択肢から外されていく。大きなクレームは起きない。ただ、再訪されなくなる。
ヒントは「グルメサイトとつながるスマホオーダー」にある
この流れの中で注目すべきなのが、グルメサイトを母体に持つスマホオーダーである。「Airレジオーダー」や「食べログオーダー」「ぐるなびFineOrder」は、それぞれバックにグルメサイトを持つサービスたちだ。
なぜ注目すべきか。現時点ではまだ十分に実現できていないものの、各社はいずれもグルメサイトとの連携を目指しているからである。もしそれが実現すれば、消費者のオーダー履歴から、レコメンドが可能になるだろう。
「このメニューをオーダーした人は、別の店では何を選んでいるのか」
「この嗜好なら、次に行くべき店はどこか」
消費者は、これまでとは異なる角度で店探しができるようになるのでメリットは大きい。SNSをはじめとしたこれまでの店探しのやり方では出会えなかった一軒に出会える可能性も高まる。
その予兆はすでに見えている。 楽天ぐるなびが提供するAIを活用した新しいグルメアプリ UMAME! だ。 同サービスでは、AIエージェントがユーザーの気分や目的を読み解き、最適な店舗を提案する。そのベースにあるのは、ぐるなび が保有する40万店舗以上のデータベースである。
この考え方が、スマホオーダーに降りてくる可能性は高い。現に外食各社はDXを推進し、さまざまなテクノロジーを導入している。重要なのは、それらが単体ではなく、連携することで初めて価値を生む点である。 スマホオーダーがPOSと連携するのは、もはや当たり前になった。 次にグルメサイトと接続しても、何ら不思議ではない。
「個人情報が嫌」から「使うと得」への反転
現在、スマホオーダーに対する抵抗感の多くは、「やらされている感」に起因している。登録を求められる。情報を預けさせられる。店側の都合に付き合わされているように感じる。
ここで重要なのは、スマホオーダーそのものが嫌われているわけではない点である。嫌われているのは、使う理由が消費者側に存在しないことだ。しかし、もし前提が変わったらどうだろうか。スマホオーダーを使うことで、店探しが楽になる。自分の好みが蓄積され、次の選択が洗練されていく。オーダーという行為が、「記録」として次の体験に還元されるとしたらどうか。
個人情報は、店に管理されるものではなく、自分自身の食体験を良くするために蓄積されるデータになる。このとき、スマホオーダーは負担ではなくなる。義務でもない。自分の体験をアップデートするための、主体的な選択になる。スマホオーダーが初めて「消費者側のDX」と呼べる存在になる瞬間である。
店が選ぶ時代は、終わりつつある
スマホオーダーの成否を分けるのは、効率化ではない。顧客との接点を、誰のために設計しているかである。
これまでスマホオーダーは、店が選ぶものだった。導入するかどうかは店の判断であり、客はそれに従うしかなかった。しかしこれからは、消費者が「その体験を使いたいかどうか」で店を選ぶ。不快な体験を強いる店は、目立った批判を受けることもなく、静かに選択肢から外されていく。一方で、使う価値を感じさせる体験を提供できた店は、自然と選ばれる。
スマホオーダーは、まだ進化の途中にある。ただ一つ、はっきりしていることがある。顧客との接点だからこそ、そこを最も丁寧に、消費者起点で設計したサービスが、最後に勝つ。



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