なぜデリバリーは「お店価格」になったのか? 出前館・Uber Eats・ロケットナウの新戦略が目指す「日常化」
- 三輪大輔

- 4月28日
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更新日:1 日前
三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
コロナ禍で爆発的に普及したデリバリー。しかし、お店より高い価格設定がネックとなり、利用を控える人も少なくありません。実際、国内市場は2019年の約4200億円から2025年には約8240億円へと拡大する見込みですが、ここ数年は成長が鈍化しています。
こうした中、米Coupangグループの日本法人が運営する「ロケットナウ」が、配送料・サービス料無料というモデルで存在感を高め、「出前館」や「Uber Eats」も「お店価格(店頭同等価格)」へと舵を切りました。
これは単なる価格競争ではありません。「高いから時々使うサービス」だったデリバリーを、「日常的に使うもの」へと変えるための競争です。なぜ各社は、収益を削ってまで踏み込むのか。そこには、デリバリーを「便利なサービス」から「生活インフラ」へと変えようとする構造転換があります。
「お店価格」競争の引き金となったロケットナウ
日本のデリバリー市場における2026年の激変。その引き金を引いたのが、韓国発の「ロケットナウ」でした。韓国では、デリバリーはすでに水道や電気のような「生活インフラ」として定着しています。日常利用が前提となっているため、日本のように「店よりかなり高い」という状態が起きにくいです。

ロケットナウは、送料・サービス料無料を武器に急速に存在感を高めています。累計500万ダウンロードを突破し、日本でもエリア拡大を進めています。そこで培われたのが、「薄利でも圧倒的な利用頻度とシェアで市場を取る」というモデルです。ロケットナウは、そのノウハウを日本市場へ持ち込みました。その結果、出前館やUber Eatsも「お店価格」へと踏み込まざるを得なくなった事情があります。つまり今起きているのは、単なる価格競争ではなく、“ゲームのルールそのもの”が書き換わる局面ともいえるでしょう。
「三方よし」の裏側にある戦略的メリット
この動きは、三者それぞれに新しい価値をもたらします。
プラットフォーマー:「損して得を取る」戦略で、圧倒的なシェアとユーザーの「利用習慣」を獲りにいく。
店舗:自社配送(マクドナルドやすかいらーく等)では届かなかった「広域」のユーザーに対し、店頭と同じ価格でアプローチできる。注文数が増えるほど掲載の投資効率は上がり、実店舗への送客(認知拡大)を含めた巨大なサイクルが回り始める。
消費者:店と同じ価格で、複数の店舗から選べる自由を得る。家族でバラバラの店の味を頼むといった、これまでの心理的・金銭的ハードルが消えていく。
では、それぞれにとって、具体的にどのような変化が起きているのでしょうか。
なぜプラットフォーマーは「お店価格」に踏み込むのか
従来のデリバリーは、店舗が売上の約30〜35%の手数料を負担する構造でした。そのため価格上乗せは不可避で、「便利だが高い」という状態にとどまっていました。しかし、デリバリー業界は以前から赤字を抱える企業も多く、現在の構造のままで成長を続けることが難しくなっていたのも事実です。「店より高い」という価格差によって利用頻度が伸びず、市場成長も鈍化し始めていた影響が大きいといえるでしょう。
そこで各社は、1件ごとの配送で利益を出すフェーズから、市場そのものを拡大するフェーズへと舵を切り始めました。今回の「お店価格」は、この手数料の一部をプラットフォーム側が引き受けることで成立しています。つまり、1件あたりの利益を削る代わりに、注文数を増やし、市場そのものを広げ、その結果として業績向上を狙うモデルへの転換です。
ここで重要なのは、「単価」ではなく「頻度」を取りにいっている点です。これまでのデリバリーは、「雨の日だから頼む」「疲れた日だから使う」といった、“少し贅沢なサービス”でした。しかし各社が狙っているのは、「店と同じ価格なら日常的に使う」という状態です。
実際、今回の「お店価格」施策は利用拡大にもつながっています。出前館によれば、「お店価格で出前館」に参加した加盟店のオーダー数は、参加前と比較して平均2.9倍に増加。さらに、新規ユーザーや1年以上利用していなかった復帰ユーザーも、2月比で2.1倍超となりました。

つまり各社は、単純な「安売り」をしているわけではありません。価格差という心理的ハードルを下げることで、利用者数と利用頻度を引き上げ、市場そのものを拡大しようとしているのです。
自社配送とプラットフォームで異なる戦略
ここで興味深いのが、大手チェーンの動きです。マクドナルドやすかいらーくなどは、自社配送や独自のデリバリー網を強化しています。これは配送手数料を外部プラットフォームに依存せず、自社でコントロールしたいという狙いもあります。
自社配送の強みは、QSC(品質・サービス・清潔さ)を自社基準で維持しやすい点にあります。一方で、配送効率を優先するため、配送距離を絞る傾向があり、広域配送には限界があります。
対して、出前館やUber Eatsのようなプラットフォームは、より広範囲をカバーする配送網を持っています。つまり、下記のような役割分担が起きつつあるのです。
・自社配送=既存客との関係強化
・プラットフォーム=新規顧客への認知拡大
「お店価格」によって利用頻度が高まれば、店舗にとってデリバリーは単なる追加売上ではなく、「広域への販促チャネル」としての意味合いをさらに強めていくでしょう。
消費者に起きる変化
消費者にとってのメリットも大きいです。これまでデリバリーは、「便利だが高い」というイメージが強く、頻繁には使いづらいサービスでした。しかし「お店価格」が広がれば、店頭と同じ価格で複数の店舗から選べるようになります。さらに配送料ゼロ施策が重なれば、家族で別々の店を頼むといった使い方も現実的になっていくでしょう。つまり、デリバリーが「特別な日」ではなく、「日常の食事」の選択肢へと変わり始めているのです。
DXが問われる時代へ
ただし、注文数が増えれば、それだけ現場負荷も高まります。店頭営業を維持しながら、大量のデリバリー注文を同時にさばくことは容易ではありません。現在、外食業界では慢性的な人手不足が続いています。さらに特定技能外国人の新規受け入れ停止などもあり、その深刻さは増しています。店長負担も重く、「これ以上デリバリーを増やすのは難しい」と感じる店舗も少なくないでしょう。
しかし、人材を確保するためには、賃上げや福利厚生など待遇改善も必要になります。そのためには、利益を確保しなければなりません。ここで重要になるのが、モバイルオーダー、キッチン連携、データ活用などを含めた外食DXです。
単なる省人化ではありません。店内営業だけではなく、テイクアウトやデリバリーも含め、店舗全体をどう設計し直すのか。注文増加を前提に、「回せる店」をつくれるかどうか。
デリバリーのインフラ化は、店舗側の経営力をより厳しく問う段階に入ったといえるでしょう。
戦いのフェーズは変わった
もちろん、この構造は理想論だけでは成立しません。Woltの撤退に象徴されるように、この市場は依然として消耗戦でもあります。配達員確保、収益性、配送コストなど、課題は山積しています。
それでも各社が踏み込む理由は明確です。インフラを取った企業が、最終的に市場を支配するからです。出前館、Uber Eats、ロケットナウ。いま起きているのは単なる価格競争ではありません。デリバリーが、「便利なサービス」から「生活に組み込まれた基盤」へ変わる。その転換点に、私たちは立っています。



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