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日本上陸の『Too Good To Go』がフードロス削減を加速。「安売り」を「社会貢献」へ再定義する外食産業の革命

  • 執筆者の写真: 三輪大輔
    三輪大輔
  • 2 日前
  • 読了時間: 5分

2026年4月、再び訪れた「値上げラッシュ」

2026年4月、食品の値上げは2798品目にのぼり、年内初の値上げラッシュが起きている。原材料費や人件費の上昇が続く中、外食や食品の価格は上がり続けており、消費者にとって「安く買える機会」はこれまで以上に大きな価値を持つ。


一方で、飲食店にとって値引きは簡単な手段ではない。単純な値下げは、ブランド価値の毀損や利益率の悪化につながるリスクを伴う。特に近年は、価格戦略そのものがブランドのポジショニングと強く結びついており、安易な値引きは長期的な競争力を損なう可能性すらある。そのため、多くの企業は値引きを「やりたくてもできない」状況に置かれてきた。


このジレンマに対して、今、新たな解が生まれつつある。それがフードロス削減を軸にした「条件付きの値引き」だ。「クリスピー・クリーム・ドーナツ」で導入が進む「Too Good To Go」や、「丸亀製麺」「エクセルシオールカフェ」などが活用する「TABETE」といったサービスを通じて、余剰商品や売れ残りがアプリ経由で販売される仕組みが広がっている。


北欧発「Too Good To Go」が日本で爆発した理由

特に2026年1月に満を辞して上陸した「Too Good To Go」の存在は大きい。北欧発の同サービスは世界20カ国以上で展開し、累計5億食以上のフードロスを削減してきた実績を持つ。日本はグローバルで21カ国目、アジア初の展開国として参入し、正式ローンチからわずか1週間で登録ユーザー数が25万を突破するなど、大きな関心を集めている。


『Too Good To Go』がフードロス削減を加速

日本市場への参入背景には、「もったいない」という文化との親和性がある。味の価値、価格の価値、社会的価値という三つの要素を同時に満たす「おいしい選択。」を掲げ、消費者・企業・社会の三方にメリットをもたらすビジネスモデルとして拡大を図っていく。そうした理念に共感し、「クリスピー・クリーム・ドーナツ」や「ファミリーマート」、「NewDays」などの大手ブランドに加え、地域の人気店とも連携しながら展開を広げている。


一方で、こうしたフードロス削減型の値引きは、コロナ禍において一度広がりを見せた過去がある。外出自粛や来店客数の減少によって売れ残りが増加する中、余剰商品を効率的に販売する手段として注目された。ただし当時は、需要の急減に対する応急対応の側面が強く、持続的な仕組みとして定着したとは言い難い。実際、定額制の「Reduce GO」は利用頻度の偏りや公平性の維持といった課題から、2021年にサービス停止に至っている。


従来の値引きを覆す3つの構造

そうした課題に対し、「Too Good To Go」は時間や内容に制約を設けた「条件付き販売」という仕組みによって解決を図っている。中身が選べず、受け取り時間も限定される代わりに価格を下げることで、「不便さと引き換えの安さ」という納得感を生み、公平性と収益性の両立を可能にしたのだ。この動きが注目される理由は、単なる“安売り”ではない点にある。そこには、従来の値引きが抱えていた課題を解消する三つの構造が存在している。


第一に、「社会性」という意味づけだ。これまでの値引きは「売れ残りの処分」という側面が強く、どこかネガティブな印象を伴っていた。しかしフードロス削減という文脈が加わることで、同じ行為でも意味が変わる。消費者は「安く買えた」という経済的な満足に加え、「廃棄を減らすことに貢献した」という心理的な満足も得られ、値引きに対する抵抗感を和らげている。


さらに重要なのは、この取り組みがブランド価値にも寄与している点だ。廃棄削減に取り組む姿勢そのものが企業のスタンスとして評価され、消費者の好感につながる。結果として、単なる値引き施策ではなく、競合との差別化要因を生む。


第二に、「不公平感」を生まない設計である。値引きが嫌われる大きな理由の一つは、「同じ商品なのに価格が違う」という不公平感だ。しかし、これらのサービスでは受け取り時間が限られ、中身も選べない。あえて制約を設けることで、価格差に対する納得感を生み出している。この“選べない不便さ”と引き換えに安さが提供されることで、正規価格との違いに納得感も生む。つまり、単なる値引きではなく、「条件付きの別商品」として成立しさせることで、ブランド毀損を抑えながら廃棄予定の商品を現金化しているのだ。


第三に、「新規顧客」との接点を生み出している点だ。これらのサービスを利用する消費者の中には、これまでその店舗を利用したことがない層も多い。割安な価格で試せることで来店のハードルが下がり、「お試し利用」として機能する。ここでの体験が良ければ、その後の通常利用につながる可能性もある。


つまり、フードロス削減は単なるコスト削減ではない。廃棄ロスの削減、売上の確保、新規顧客の獲得という三つの効果を同時に実現する、戦略的な仕組みである。


「ついで買い」と「好感度向上」の相乗効果

Too Good To Goの利用企業からは、こうした効果を裏付ける声が届く。アプリユーザーの61%が未訪問の店舗を選択し、92%が再購入を希望している他、41%が追加購入を行うなど、客単価向上にも寄与している。また、83%のユーザーがブランド好感度の向上を実感しているという。


もちろん、このモデルが万能というわけではない。利用頻度の偏りや公平性の維持、店舗オペレーションとの整合など、解決すべき課題は少なくない。それでも、値引きを単なる価格調整ではなく、「社会性」や「体験」と結びつけて再設計する動きは確実に広がっている。物価高の時代において、ブランドを守りながら売り切る。この難題に対する一つの解として、フードロス削減型の値引きは今後の外食における重要な戦略となっていくだろう。




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