トリキバーガーが2026年3月に完全撤退。なぜ鳥貴族は「焼き鳥一点突破」を選んだのか?――「Global YAKITORI Family」が描く、世界制覇へのシナリオに迫る。
- 三輪大輔

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更新日:4 時間前
三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
トリキバーガー撤退は「失敗」ではない。勝てる領域への戦略的資源集中
「トリキバーガー」が2026年3月をもって完全撤退する。焼き鳥チェーン「鳥貴族」を展開する企業の新規業態として注目を集めた挑戦は、数年で幕を閉じることになった。

しかし、この決断を単なる失敗と見るのは早計である。今回の撤退は、多角化から「焼き鳥一点突破」へと舵を切る明確な戦略判断だ。以前、本ブログの「経営者の肖像」で大倉社長を取り上げた。そこで強く印象に残ったのは、「理念を掲げるだけでなく、構造を変える」という姿勢である。今回の社名変更とバーガー撤退は、その思想の延長線上にある。
縮小ではない。勝てる領域への資源集中だ。その先にあるのは、焼き鳥によるグローバル展開という構想である。
「Global YAKITORI Family」が目指す第2の創業
鳥貴族は2024年5月、社名をエターナルホスピタリティグループへ変更した。大倉忠司社長は以前、『月刊飲食店経営』のインタビューで、その理由をこう語っている。
「一番大きな理由は海外展開を本気で目指していくという思いを、社内外に発信したいと思ったからです。今年は第2の創業と位置付け、本社の移転も行いました。今後、海外が主戦場になるのは間違いありません。そこで社名も創業の頃の「イターナルサービス」から取ってエターナルスピタリティグループとし、海外でもしっかりと戦っていけるものに変更しました」

それに合わせ、従来の長期ビジョン「グローバルチキンフードカンパニー」を「Global YAKITORI Family」へ刷新した。英語圏では「チキンフード」がペットフードの印象を持たれやすいことも理由の一つだが、より本質的には、焼き鳥を世界に広めるための連合モデルへの転換である。
大衆からミシュランまで。「焼き鳥連合」で構築する最強のポートフォリオ
大倉さんは、世界視察を通じて大衆価格帯の「鳥貴族」単独では海外の多様な需要に応えきれないと感じたという。価格帯の二極化が進む海外市場では、高級焼き鳥への需要も大きい。そこで、志を同じくするブランドと連携し、焼き鳥文化を世界へ広げる体制を「Family」という言葉で表現した。
目指すのは、焼き鳥で世界に勝つこと。単一ブランドの拡大ではなく、複数ブランドによるポートフォリオ型の成長である。2030年までに海外500店舗、将来的に国内外合計2,000店舗という目標は、その本気度を示す。
実際、その動きは加速している。2023年に「やきとり大吉」を買収。24年には「焼とりの八兵衛」と資本業務提携を締結し、ロサンゼルスの人気店「HASU」の事業を譲り受けた。25年にはミシュラン一つ星「焼鳥 市松」と合弁会社を設立。大衆から高級までを網羅する焼き鳥ポートフォリオが形成されつつある。
海外展開を加速させる「一風堂」出身・清宮氏の参画
ブランドだけではない。人材もまた、グローバル展開を見据えた布陣だ。韓国では現地法人TORIKIZOKU KOREA INC.を設立し、韓国市場を知り尽くす人材に一任している。さらに象徴的なのが清宮俊之氏の参画である。一風堂を展開する力の源ホールディングスで海外展開を主導し、ラーメンを世界ブランドへ押し上げた実績を持つ。アメリカ進出が本格化する局面で取締役COOに就任したことは、焼き鳥の世界展開を本気で推進する意思の表れだ。
現在、香港、台湾、韓国、アメリカ、フィリピン、ベトナムへ進出し、トリキバーガー撤退と同時にシンガポール出店も発表した。特に韓国では、Z世代の若者からのウケがいい。かつて韓国は「日本の外食チェーンの墓場」と呼ばれた。スシロー、丸亀製麺、ミスタードーナツ、一風堂なども苦戦した歴史がある。しかし市場環境は変化している。それについて、大倉さんはこう話す。
「鳥貴族の客層の中心はZ世代です。音楽やドラマ、ファッション「などカルチャーを通じて互いに親近感を持っている世代です。過去のような軋轢は起きづらい。日本で鳥貴族に来店している韓国の若者も多く、土壌は変わっていると見ています」
バーガー撤退は、焼き鳥を「世界標準」へ押し上げるための合理的な一歩
一方、コロナ禍で各社が参入したチキンバーガー市場は激戦区となった。差別化は容易ではない。トリキバーガー撤退は縮小ではない。多角化から一点突破へ。ただしその一点は、焼き鳥連合というポートフォリオで構成されている。
ハンバーガーではなく、焼き鳥で世界を狙う。勝てる土俵を選び直すという意味で、それは極めて合理的な経営判断である。



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