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トリドールが「DX注目企業2026」に選出された理由。「心的資本経営」を支えるDXと、その先にあるAX

  • 執筆者の写真: 三輪大輔
    三輪大輔
  • 4月10日
  • 読了時間: 7分

更新日:6 時間前

                         三輪大輔|外食ビジネスアナリスト


外食DXの本質を教えてくれたトリドール

外食業界のDXの進め方については、トリドールホールディングスを見ておけば間違いない。実際、私自身も過去に何度か同社のDX推進の取り組みを取材させていただき、そのたびに多くの示唆を得てきた。特に、DXがまだ一般化していない段階で取材の機会をいただき、外食におけるDXの本質を学ばせてもらった。それが拙著『外食業DX』のベースにもなっている。


そのときにDXの本質を教えていただいたのが、同社のDXを牽引する存在である執行役員CIO/CTOの磯村康典氏だ。同氏は富士通を経てソフトバンクに入社し、小売業のECシステム開発などに従事。その後、ガルフネット執行役員へ就任。2012年にはOakキャピタルの執行役員として、事業投資先であるベーカリーやFMラジオ放送局などの代表取締役を務めながら、ハンズオンでの経営再建に携わってきた。


こうした実務と経営の両面を横断してきたキャリアが、現在のDX推進の礎となっていることは間違いない。また、『飲食店経営』6月号のDX特集でもお話を伺っており、DXの先にあるAXについては、ぜひ本誌をご覧いただきたい。


そのトリドールホールディングスが、「DX注目企業2026」に選定された。本銘柄は、経済産業省、東京証券取引所、情報処理推進機構が共同で選定するものであり、特に優れた企業は「DXグランプリ企業」として位置付けられる。一方、「DX注目企業」は、DX銘柄には選定されていないものの、特定領域において先進的かつ示唆に富む取り組みを行っている企業として評価される枠組みだ。その中で、外食企業であるトリドールホールディングスが名を連ねた意味は大きい。


トリドールが「DX注目企業2026」に選出
DX注目企業2026(業種順 証券コード順)/ 出典:経済産業省

「DX注目企業2026」で評価された三つのポイント

評価のポイントは大きく三つに整理できる。


第一に、DX実現能力である。中期経営計画と連動したDXビジョンを明確に掲げ、経営トップの関与のもとで全社的にデジタル施策を推進している点が評価されている。また、デジタル人材についても、人材像の定義から確保、育成まで一貫して取り組んでいる。


第二に、独自の経営思想との接続である。従業員の幸福と顧客の感動が好循環する「ハピカン繁盛サイクル」を、データドリブンで強化する仕組みを構築。「手間暇をかける」と「効率的に展開する」という、本来は両立しにくい二律を同時に成立させるための基盤としてDXを位置付けている。


第三に、実装と成果である。データ活用基盤の整備、定性的データの定量化、業務直結型AIの導入などが進められており、実際に出店リードタイムの半減(360日から180日)、売上予測分析時間の大幅短縮(20日から5分)といった具体的な成果を生み出している。


加えて、IRサイトにおける情報開示の分かりやすさや、ステークホルダーへの説明責任の果たし方も評価されている点は見逃せない。


「心的資本経営」を支えるハピカン繁盛サイクル

こうしたDX推進の根底にあるのが、同社が掲げる「心的資本経営」という思想である。

心的資本経営とは、「従業員の“心”の幸せ」と「お客様の“心”の感動」を共に重要な資本と捉え、両者を満たし続けることで持続的な事業成長を実現する経営思想だ。


従業員が幸福感(ハピネス)を持って働ける環境が整うことで内発的動機が育まれ、その力によってお客様に感動(カンドウ)体験を生み出す。そして、感動体験は店舗の持続的な繁盛へとつながり、その成果を従業員に還元することで再び幸福度が高まり、感動体験がさらに深化していく。この好循環を同社では「ハピカン繁盛サイクル」と定義している。


その象徴が「丸亀製麺」の手づくりである。粉から麺を打ち、目の前で茹で上げるライブ感は、顧客にとって強い来店動機となる。同時に、従業員にとっては単なる作業ではなく、技術を発揮する場となり、内発的動機を生む。こうして生まれた感動が繁盛につながり、再び従業員に還元される。この循環が、同社の成長を支えてきた。


トリドールが「DX注目企業2026」に選出
手づくりのライブ感が、丸亀製麺への強い来店動機になっている

「手づくり」と「チェーン展開」を両立させるDX

しかし本来、「手づくり」と「チェーン展開」は両立が難しい。規模を追えば、効率化や標準化に寄らざるを得ないからだ。


トリドールはこの矛盾を乗り越えてきた。その基盤となっているのがDXである。同社のDXは、粟田社長の掲げるビジョンを実現するための手段として一貫して推進されてきた。スタートは2019年。外食企業としては異例のスピードで取り組みが始まり、その後「DXビジョン2022」を策定。「業務システムのモダナイズとオフバランス」を軸に変革を進めてきた。


トリドールが「DX注目企業2026」に選出

その中核となったのがSaaSへの移行である。レガシーシステムに依存したままでは、変化の激しい環境に対応できない。従来のように自社開発したシステムを長期運用するモデルでは、減価償却の制約もあり、柔軟な入れ替えが難しい。その結果、経営判断のスピードや現場の変化にITが追いつかなくなるリスクがある。こうした課題を乗り越えるために、同社は全体最適の視点でシステムを再構築してきた。


「AIレディ」な環境がAXを支える

そして現在、「DXビジョン2028」において、さらに踏み込んだ取り組みが進められている。

「DXビジョン2028」の中には、「ビジネス基盤」「データマネジメント基盤」「情報セキュリティ基盤」と並び、AI活用が重点項目として位置付けられている。その中で注目されるのが、AI活用を前提にした次のステージだ。


SaaSの活用によってレガシーシステムからの脱却を進めた結果、データを活用できる状態、いわゆる「AIレディ」な環境が整った。AIレディな環境とは、各業務システムがつながり、売上や仕入れ、在庫、従業員シフトなどのデータが蓄積され、いつでも活用できる状態を指す。


AIは大量のデータをもとに学習し、予測や判断を行う。そのため、そもそもデータが整備されていなければ機能しない。従来のように個別最適のシステムが乱立し、データが分散している状態では、AIを十分に活用することはできない。


AIで生み出した価値を「人」へ再投資する

重要なのは、それがトリドールの掲げる「心的資本経営」の実現にどこまで寄与できるかである。店舗に人と手間をかけ、「手づくり」によって従業員のハピネスと顧客のKANDOを生み出す一方で、チェーンとして規模拡大も追求していく。この二つを両立させることは簡単ではない。さらに、人手不足の時代にあって人材を確保するためには、賃金や福利厚生の充実も不可欠である。それを実現するには、相応の原資が必要になる。


同社では2021年6月からAI需要予測サービスの実証を段階的に進め、2023年2月には「丸亀製麺」国内全店舗へ導入。同サービスでは気象データやPOSデータをもとに、店舗ごとの客数や販売数を高精度に予測し、スタッフ配置や発注、仕込み量の最適化を実現している。食品ロス削減や業務効率化にもつながっている。また、2025年7月には、「丸亀製麺」「コナズ珈琲」「肉のヤマ牛」など約1000店舗で、iPadを活用した顔認証打刻システムを導入した。


しかし同社が目指しているのは、単なるAI活用ではない。重要なのは、その前提となるデータの蓄積と活用である。どれだけAIが進化しても、活用できるデータ基盤がなければ意味はない。だからこそ同社は、2019年からDXを推進し、業務システムのモダナイズや全体最適を進めてきた。


DXの先にある「AX」という次のステージ

その延長線上にあるのがAXである。AIによって業務を効率化するだけではない。店舗以外の領域を徹底的に効率化し、そこで生み出した時間や原資を、成長の源泉である「人」へと再投資していく。従業員がお客様と向き合う時間を生み出し、より高い感動体験へとつなげていく。テクノロジーを通じて「心的資本経営」をさらに深化させようとしているのだ。


外食業界では今、AI活用への注目が一気に高まっている。しかし、その本質は単なるツール導入ではない。データを蓄積し、現場と経営をつなぎ、ブランド価値へと還元していく。その積み重ねこそが重要である。そういう意味でも、外食業界のDX、そしてAXの進め方については、トリドールホールディングスを見ておけば間違いないだろう。



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