外食売上ランキングの地殻変動——「ビッグ4」へと再編された勢力図。ゼンショーの帝国、すかいらーくのDX、スシローの世界戦略、マックの超利益
- 三輪大輔

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三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
外食産業の勢力図は大きく変わるのだろうか。
日本の外食産業において、売上高ランキングの顔ぶれは長年、不動のものだった。株式会社ゼンショーホールディングス、株式会社日本マクドナルド、株式会社すかいらーくホールディングス。いわゆる、この「ビッグ3」は2010年以降、ほぼ固定化されており、アベノミクス、インバウンドバブル、そしてコロナ禍と、幾度もの荒波を乗り越え、時に乗りこなしながら、外食業界の成長を牽引してきた。
不祥事が起きてもなお、その序列は不動だった。例えば、2014年から15年にかけ、日本マクドナルドは食の安全を揺るがす深刻な危機に直面。2015年度には過去最大となる347億円もの純損失を叩き出した。だが、それでもランキングは動かない。むしろサラ・カサノバ氏(当時社長)の下で鮮やかなV字回復を遂げ、ビッグ3の地位をいっそう盤石なものにした。
しかし、2025年。ついに決定的な地殻変動が起きた。不祥事があったわけではない。それどころか過去最高益を更新したにもかかわらず、日本マクドナルドが売上順位で4位へと転落してしまう。ビック3に割って入った会社は、回転寿司チェーン「スシロー」を展開する株式会社FOOD & LIFE COMPANIESだ。これは単なる順位の入れ替わりではない。外食産業の構造そのもの、そして戦い方のルールが根本から変わったことを示唆している。
それぞれの戦い方を分析しながら、これからの外食業界の行方を占う。
ゼンショーの独走:1兆円の「帝国戦略」
現在、首位を走るのはゼンショーホールディングスだ。2011年にトップへ躍り出て以来、その勢いは独走状態にある。2025年3月期決算では、日本の外食企業として史上初となる連結売上高1兆円を突破。2位のすかいらーくに約2.5倍もの差をつける、文字通りの「一強」である。
ゼンショーの成長構造は、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)の視点で見るとよく分かる。PPMとは、複数業態を「市場成長率」と「市場シェア」の2軸で位置づけ、経営資源を戦略的に配分する手法を指す。事業は一般に、「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」の4類型に分類され、それぞれに応じて投資、維持、育成、撤退といった判断が下される。
同社の「金のなる木」が「すき家」だ。国内の牛丼市場は約5,000億円規模で成熟しており、すき家、吉野家、松屋の大手3社で約8割を占める寡占状態である。その中でも、店舗網で頭一つ抜けているのがすき家だ。2008年に吉野家を追い抜いて以降、快進撃が続く。実際あ、2025年3月期の店舗数は「すき家」が1996店。「吉野家」は約1259店、「松屋」は1169店と、その差は明確だ。
圧倒的な店舗網を武器に、同社は規模の経済を最大限に生かす。さらに、コスト高騰による値上げラッシュの中でも、戦略的な価格維持や一部値下げを断行。価格競争力を保ちながら支持を拡大した。この安定したキャッシュ創出力こそが、ゼンショー全体を支える基盤である。
その恩恵を受けて成長軌道に乗ったのが、「花形」に位置づけられる「はま寿司」だ。回転寿司市場はロードサイドを中心に競争が激化しているものの、なお拡大基調にある。2023年の市場規模は7829億円と前年比108%。2024年も約8300億円規模へと伸長する見通しだ。
そうした中、はま寿司は他社が100円寿司からの撤退を進める中でも、100円(税別)メニューを維持。価格訴求力を武器に存在感を高め、長年2位だったくら寿司を上回った。さらに、グループで蓄積した物件情報を活用し、出店戦略をロードサイド中心から都市型へと拡張。立地選択の自由度は他社に比べて高い。
インバウンド需要も追い風となる中、中国をはじめとする海外展開の成否が各社の明暗を分ける。くら寿司は中国市場で苦戦を強いられた。一方、スシローとはま寿司は中国での業績が好調だ。海外戦略は回転寿司各社の成長力を左右する重要な分岐点となる。今後、上位2社と3位との間で差が広がる可能性は否定できない。回転寿司市場は依然として拡大基調にあり、その中核を担うはま寿司は、ゼンショーの次なる成長エンジンとして存在感を高めていくだろう。
すき家やはま寿司が価格競争で疲弊しにくい背景には、食材の調達から製造、物流、販売までを自社で一貫して担う独自の「MMD(マス・マーチャンダイジング・システム)」がある。この垂直統合モデルが、他社の追随を許さないコスト競争力の源泉となっている。
その強みは、ゼッテリアでも生かされていく。ゼッテリアは、ゼンショーにとって「問題児」に位置づけられる存在だ。苦戦していたロッテリアを買収し、ブランドを刷新した。単一ブランドで勝負するモスバーガーやバーガーキングとは異なり、グループ全体の調達力や物流網というリソースを背景に戦える。バーガー市場の勢力図を書き換える可能性を秘めている。
このようにゼンショーは複数の魅力的なブランドを擁し、ポートフォリオ経営の強みを最大限に生かして拡大してきた。プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの視点で見れば、「負け犬」に位置づけられるのがビッグボーイだろう。店舗の閉鎖が進む一方、その跡地に「オリーブの丘」を出店するケースもある。縮小業態から成長業態へ資源を再配分する。この循環こそ、ポートフォリオ経営が機能している証左である。同社が掲げる「世界から飢餓と貧困を撲滅する」という理念。その延長線上にあるのは、世界一の外食企業という通過点だ。
すかいらーくの変革:DXと「人的資本」の融合
2位に位置するのは、すかいらーくホールディングスだ。同社の強みは、「人的資本経営」と「DXの推進」にある。実際、すかいらーくグループは2027年12月期を最終年度とする中期経営計画で、「人的資本の充実」「DXの推進」「ESGの推進」の3つを重要な経営課題として掲げている。
すかいらーくの経営思想を象徴するのが「店舗中心経営」だ。人をコストとして削減することで利益を生むデフレ型経営ではなく、店舗を主体とした運営へと舵を切った。店長やマネジャーが地域特性や顧客の声に応じて意思決定し、現場に裁量を持たせることで生産性を高め、付加価値を生み出す。そして各店舗の成功事例はグループ全体で共有され、組織全体の能力向上につなげていく。
この店舗中心経営を支えているのが人的資本経営だ。とりわけ人的資本経営は、人手不足が深刻化する外食業界全体でも関心が高まっている。誤解を恐れずに言えば、これまでの外食業界には、人材を無尽蔵にある資源のように消費してきた側面があった。しかし人手不足の時代には、そのモデルは通用しない。人材を資産と捉え、投資を行いながら企業価値を高める経営への転換が求められている。
すかいらーくでも「職場環境・働きがい」を重要な価値観の一つに掲げ、従業員一人一人への投資に力を注ぐ。働きがいを高めると従業員満足度が向上するため、サービスの品質は自ずと高まる。それが結果として、顧客満足を向上させ、企業収益の増加につながるという考え方だ。実際、直近決算では売上高4578億円(前年比14.1%増)、営業利益300億円(同23.9%増)と業績を大きく伸ばしている。
ただ、人的資本経営は理念を掲げるだけでは実現しない。そこで同社が重視しているのがDXの推進だ。すかいらーくではコロナ禍以降、店舗オペレーションのデジタル化を加速させてきた。配膳ロボットの導入をはじめ、セルフレジやテーブル決済、座席案内システム、新POSレジなどを整備。人手不足の中でも効率的な店舗運営を可能にする基盤を築いている。
こうした仕組みは、多様な人材が働きやすい環境づくりに結び付く。現に、従業員の女性比率が約35%であることをはじめ、40〜50代の子育て後のセカンドキャリア層や高齢者、外国籍人材など、幅広い人材が現場で活躍している。DXによって業務負担を軽減することで、多様な人材を戦力化できる体制が整ったといってもいいだろう。
現在、同社では既存業態の再構築と並行して、新たな成長エンジンの育成も進めている。その一つがM&A戦略だ。2024年に買収した「資さんうどん」は、2026年には年間30店舗の新規出店や台湾進出を控えるなど、凄まじい勢いで全国展開を進めている。新業態の「イタリアン リゾート ペルティカ」も好調で、既存のファミリーレストランの枠を超えた「非日常の体験」を武器に、ポートフォリオを強化している。
「人的資本経営」をベースにした「店舗中心経営」で、同社の勢いはまだまだ続いていきそうだ。
スシローの躍進:アジアを制する世界戦略
今回、日本マクドナルドを抜き去り3位に浮上したのが、スシローを展開するFOOD & LIFE COMPANIESだ。同社の最大の特徴は、海外事業の成長にある。特に中国市場での躍進は目覚ましい。
2024年12月には中国・蘇州に初出店となる「スシロー蘇州中心店」をオープン。続いて2025年4月には杭州に初出店となる店舗を、大型商業施設「銀泰in77・D館」に出店した。さらに同年12月には、中国大陸で最大級の都市である上海に初進出。大型ショッピングモール「上海環球港」と「龍之夢購物中心」に同時出店した店舗には長蛇の列ができ、最大で14時間待ちとなるほどの人気を集めた。
中国大陸では過去最高の日次売上を更新する店舗が相次ぐなど、全拠点で業績は大きく伸長している。日本と同水準の品質を再現しながら、1皿10元(約210円)からという価格設定を実現。デフレ傾向が続き、コストパフォーマンスが重視される中国市場において、「高品質な寿司を手頃な価格で楽しめる」ブランドとして支持を広げている。
かつて私は、中国市場のカントリーリスクをどう見るかと質問したことがある。当時社長だった水留浩一氏はこう答えた。「リスクは折り込み済み。その上でどう最適解を打つかだ」。その言葉の重みを、いまになって痛感している。鳥貴族の大倉忠司氏も同様のことを語っていた。どの国にもリスクは存在する。重要なのは、それを避けることではなく、どう向き合い、どう手を打つかである、と。
成長は中国にとどまらない。インドネシアやマレーシアなど東南アジアでも出店と業績拡大が同時に進む。さらに北米では2026年度中の1号店出店に向けた準備が進んでおり、海外事業は「拡大フェーズ」から「持続成長フェーズ」へと移行しつつある。中東市場への布石も打たれている。ドバイ万博ではハラール対応店舗の展開にも成功した。もしこの市場を本格的に攻略できれば、中国市場以上の大きなインパクトを持つ。
こうした海外展開の成果は数字にも表れている。2025年9月期の連結決算で、海外スシロー事業の売上収益は1314億円と前期比42.6%増、営業利益は203億円と同105.1%増と、売上・利益ともに大幅な成長を遂げた。売上構成比も30%を超え、同社の成長ドライバーが国内から海外へと明確にシフトしていることが数字から読み取れる。
ただ、同社の勢いを支えているのは海外だけではない。国内事業に目を向けると、主力のスシローは既存店売上が通期で前年同期比110.1%と高水準を維持。創業40周年施策の反動があったにもかかわらず、商品力の強化やIPコラボなどの販促が奏功し、安定した集客力を示した。加えて、小型モデル店舗の導入により、都市部・駅前立地での出店余地を広げている点も今後の成長余地として注目される。
2025年9月期の連結業績は売上収益4295億円(前年比19.0%増)、営業利益361億円(同54.4%増)と、売上・利益ともに過去最高を更新した。さらに2026年2月発表の第1四半期決算でも最終利益は前年同期比39%増と好調な滑り出しを見せている。直近の2026年2月の国内スシロー既存店売上高も前年比12.4%増と、高い成長性を維持している。
FOOD & LIFE COMPANIESは中期経営計画で海外売上比率35%を掲げ、将来的には55%まで高める方針だ。さらに2035年には売上高1兆円という構想も打ち出している。スシローは、もはや単なる国内の回転寿司チェーンではない。アジア発のグローバルブランドへと進化しつつある。
マクドナルドの矜持:効率を極めた「異常な利益率」
売上順位こそ4位に落としたものの、日本マクドナルドが負けたと考えるのは早計だ。同社の真価は、その圧倒的な収益力にある。2025年12月期の売上高は前期比2.7%増の4166億200万円、営業利益は同10.9%増の532億5700万円、経常利益は同9.8%増の520億5100万円と、4期連続で過去最高益を更新した。営業利益率は12%超。薄利多売が常識の外食産業において、この数値は「異常値」に近い。
この数字を実現できているのが、朝・昼・カフェ・夜という全時間帯の需要を掌握し、店頭・テイクアウト・デリバリーという全チャネルを最適化している点にある。もっとも、その強さは単純な販売モデルだけでは語りきれない。徹底的に効率化された店舗オペレーション、人材育成の中核を担う「ハンバーガー大学」、そして1971年の日本上陸以来積み上げてきた出店ノウハウ。こうした仕組みが長い年月をかけて積み重なり、現在の高収益体質を支えている。
コロナ禍では、単一業態だけでは成長できないとの見方が広がり、外食各社はポートフォリオ経営へと舵を切った。新業態の開発やM&Aが相次ぎ、多業態化が一つの潮流となった。確かにコロナ禍では、テイクアウトやデリバリーのニーズに応えやすいハンバーガーをはじめとしたファストフードが強かった側面はある。こうした環境を踏まえ、「ブルースターバーガー」のように鳴り物入りで参入したブランドもあった。しかし結果として、多くの新規ブランドは撤退を余儀なくされている。ハンバーガー市場は参入障壁が低いように見えて、実際には極めて競争の激しい市場なのだ。
だからこそ、日本マクドナルドはあえて事業を広げることなく、ハンバーガーという単一業態に集中し続けているとも言える。この一点突破の戦略こそが、同社の高い収益力を支えている。
これからマクドナルドの新たなライバルとなる可能性があるのが、外食売上ランキング1位を走るゼンショーホールディングスが展開する「ゼッテリア」だ。ここで思い出されるのが、かつての価格戦争である。デフレ期、マクドナルドはハンバーガーを59円まで値下げした。ロッテリアも追随し、同様の低価格バーガーで対抗した。極端な価格競争はブランド価値を毀損し、市場全体を疲弊させた。マクドナルドはその後、ブランド戦略を立て直し、再成長を果たした。一方、ロッテリアは長く低迷し、最終的にはゼンショーホールディングスによる買収へとつながっていく。
20年以上の時を経て、両者は再び向き合うことになる。ただ、改めて強調しておきたいのは、日本マクドナルドの強さだ。売上順位では4位。連結売上高は4166億円にとどまる。しかし視点を全店売上高に移せば、約8886億円規模の巨大な経済圏を動かしていることが分かる。この水準は実質的に業界2位クラスに相当する。ランキングだけでは測れない絶対的な強さ。それを持っているのが、日本マクドナルドなのである。
外食トップ3の再編は、産業の衰退ではなく、成長モデルが「規模」「DX」「海外」「利益」へと四極化したことを意味している。この「ビッグ4」の背後には、丸亀製麺で世界を席巻するトリドールホールディングスや、圧倒的な低価格と中国市場での高収益を両立させるサイゼリヤが虎視眈々と上位を狙っている。
かつてバラバラの個店経営だった外食は、今や高度な産業化の時代へと突入した。2025年以降の外食産業を読み解く鍵は、この再編された四極構造、そしてそれを追う新興勢力との「付加価値」を巡る戦いの中にある。
結論:外食「新三極」が示す未来
外食トップ3の再編は、産業の衰退ではなく「成長モデルの多様化」を意味している。
規模の帝国(ゼンショー): 垂直統合で全てを飲み込む圧倒的な力
DXと人的資本(すかいらーく): 効率と人間性をデジタルで繋ぐ進化
世界戦略(スシロー): 国境を越えてアジアの胃袋を掴むスピード
極限の利益(マクドナルド): 磨き抜かれた単一業態の収益美
この「ビッグ4」の背後には、丸亀製麺で世界を席巻するトリドールや、圧倒的なコストパフォーマンスで中国を制するサイゼリヤが虎視眈々と上位を伺っている。2026年以降の外食産業を読み解く鍵は、「ビッグ4」への戦い、それを追う新興勢力による「付加価値」の再定義にある。



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