外食DX2.0の幕開け。なぜ今、ベンダーの再編と「All-in-One」への統合が加速しているのか
- 三輪大輔

- 7 時間前
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三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
はじめに:外食DXは「統合」のフェーズへ
今、外食DXを支えるベンダー界隈で、かつてない規模の統合や提携が相次いでいる。
2024年9月、貨幣処理機器大手のグローリー株式会社が、次世代店舗創出プラットフォーム「O:der Platform」の提供を行う株式会社Showcase Gigを子会社化。2025年9月には、ともにデリバリー注文一元管理サービスを手掛ける株式会社tacomsと株式会社モバイルオーダーラボが経営統合するなど、統合や提携の動きは静かに、でも確実に起きていた。
そしてここ最近、その動きはさらに活発化している。2026年1月には、LINEヤフー株式会社が、飲食店向け予約管理サービス株式会社トレタを買収。2026年2月には、三井物産流通グループ株式会社は、飲食店の仕込み工程の代行や食材調達を支援する株式会社シコメルフードテックと資本業務提携を締結した。

これらは決して偶然の重なりではない。大袈裟ではなく、私たちは今、「外食DX2.0」という新たな時代の入り口に立っている。DXが本来目指すべき「全体最適」への回帰が始まったということもできるだろう。
外食DX1.0とは何だったのか
そもそも「DX」という言葉が日本で一般化したのは、2018年9月に経済産業省が公表した「DXレポート」が契機だった。企業が既存システムに依存し続けることのリスク、いわゆる「2025年の崖」が指摘され、デジタルによる構造転換が叫ばれた。
その流れの中で始まった、いわば「外食DX1.0」は、機能特化型SaaSの乱立期だったといえる。現に、クラウド型POSをはじめ、予約管理やキャッシュレス決済、受発注システム、デリバリー注文一元化、そしてモバイルオーダーと、それぞれの分野で優れたベンダーが登場し、特定の業務をデジタル化することには成功した。その結果、紙の台帳は消え、伝票はハンディやスマホに置き換わり、売上データはクラウドに蓄積されていく。
確かに、業務単位では大きく前進した。人手不足の中、業務効率化を実現し、生産性を向上させた飲食店も少なくない。しかし、その代償として現場に残されたのは「分断」だ。店舗には管理画面が溢れ、スタッフは必死に複数の端末を使い分ける。だが、ツールごとにデータ形式は異なり、売上と顧客の情報はつながっているようで、実際には分断されたままだ。在庫や原価情報は別のシステムに眠り、横断的な分析をするには手作業が発生してしまう。つまり、部分最適の積み重ねが、結果として管理業務の複雑さを増幅させたといっていいだろう。この矛盾は、多くの現場が肌感覚で抱えてきた現実だ。
API連携の限界
こうした状況を前に、各ベンダーも手をこまねいていたわけではない。API連携と呼ばれる仕組みを構築し、データや機能を相互に共有・活用する試みは進められてきた。しかし、それによって手作業が完全になくなるわけではない。データの粒度や定義はサービスごとに異なり、反映タイミングにも差がある。仕様変更のたびに連携が崩れることも珍しくない。つまり、API連携の限界である。
非常に良い。論旨は通っています。あとはリズムと論理の接続を整えるだけです。推敲版を提示します。API連携がスムーズに機能しないことの本質的な問題は、手作業が発生すること以上に、データ活用が滞る点にある。原材料費の上昇が利益を圧迫しているのか。売上構成の変化が粗利率を押し下げているのか。特定時間帯の客層変化が客単価に影響しているのか。こうした要因を突き止め、現場レベルで迅速に手を打つには、売上、原価、在庫、顧客データが横断的に統合されていなければならない。
とりわけ現在はコスト高局面にある。売上の拡大以上に、利益の確保が問われる時代だ。その際、統合されたデータがなければ有効な打ち手は導き出せない。環境変化が激しいからこそ、本部の判断を待つのではなく、現場で即座に最適解を選択する力も求められる。データが分断されたままでは、分析も意思決定も断片的にならざるを得ない。だからこそ今、統合そのものを前提とする動きが加速している。これが外食DX2.0である。
外食DX2.0:3つのキーワード
これからの外食DX2.0は、単なるツールの導入ではない。前提そのものが変わる。DXが本来目指していた全体最適へと舵を切り直す局面に入ったと言っていいだろう。そのキーワードが、All-in-One DXだ。その特徴は大きく三つに整理できる。
第一に、統合。バラバラに導入されたツール群を、一つのプラットフォームへと再編する動きである。
第二に、データ基盤。予約、注文、在庫、売上、原価といった情報を横断的に扱える土台の構築だ。
第三に、AI前提設計。蓄積されたデータを、需要予測やシフト作成、価格最適化などへ自動的に活用する設計思想である。
この三点から導き出されるのは、もはや便利な道具を増やす時代ではないという事実だ。勝負は、データを一気通貫で扱える環境をいかに構築するかへと移っている。
加えて、店舗側の受容性も限界に達しつつあり、「これ以上ツールを増やしたくない」という現場の声は切実だ。一方でベンダー側も、決して大きいとはいえない利益と重い営業コストの間で、難しい舵取りを迫られている。その意味で、単機能SaaSを個別に売り込むモデルそのものが、曲がり角を迎えているといっても過言ではない。
そして今後の鍵を握るのがAI活用である。注文、客層、原価、人員。これらのデータがクリーンな状態で一箇所に集約されていなければ、AIは真価を発揮しない。分断されたデータの上では、高度な分析も自動化も成立しない。こうした構造的背景から導かれるのが、All-in-One DXという方向性である。
象徴的な事例:LINEとリクルートの動向
この流れを象徴するのが、トレタのLINEグループ入りである。LINEは単なるメッセージアプリではない。国内で圧倒的な顧客接点を持ち、生活動線のど真ん中に位置するID基盤だ。そのLINEの中に、予約管理という、来店の起点が組み込まれることの意味は大きい。
予約した瞬間から、来店、注文、会計、退店後のフォローまでが一つの流れになる。来店前と来店後が分断されないばかりか、顧客との接点が、その場限りで終わらない。これは単なる機能統合ではない。顧客データを一気通貫で扱う基盤の誕生である。トレタが培ってきた現場の予約データと、LINEが持つ生活者接点が結びつくことで、「誰が、いつ、どこで、何を利用したか」という行動履歴が一つのデータとして蓄積されていく。
一方で、こうした動きを先取りしていたプレイヤーも存在する。それが、リクルートが提供するAirビジネスツールズに他ならない。Airレジ、Airペイ、Airリザーブ、Airシフト。これらは当初から同一基盤上で設計されており、APIで後からつなぐのではなく、最初から一体として構築されている点に本質がある。外食DX2.0が本格的に動き出した今、リクルートの先見性はあらためて浮き彫りになったといっていいだろう。部分最適を後から接続するモデルと、全体最適を前提に設計された基盤との差が、明確になりつつある。
結論:機能競争から「基盤競争」へ
外食DX2.0の時代において、機能の多寡で優劣を競うフェーズは終わりを迎えつつある。これからの主戦場は、「誰がデータ基盤を握り、店舗の意思決定を支えるか」というプラットフォーム競争である。
All-in-One DXは目的ではない。データを真に価値ある資産へと転換するための前提条件だ。AIによる需要予測、価格最適化、シフト最適化といった高度化は、統合されたデータ基盤の上でしか成立しない。「つながっているように見える」DXから、「本質的に統合された」DXへ。外食業界のDX推進は、ようやく本番に差しかかった。



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