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外食1兆円企業ゼンショーの凄み。スシロー・マクドナルド・サイゼリヤの「絶対王者」を切り崩すMMD戦略の正体

  • 執筆者の写真: 三輪大輔
    三輪大輔
  • 1 日前
  • 読了時間: 9分

更新日:5 時間前

                三輪大輔|外食ビジネスアナリスト



外食1兆円企業ゼンショーの凄み

ここ最近、私はゼンショーホールディングス(以下、ゼンショー)の動きを中心に外食業界を注視している。ゼンショーは外食業界で初めて売上高1兆円を達成したが、その勢いを象徴するのが、牛丼業界でナンバーワンの座を築いた「すき家」をはじめ、「はま寿司」「ゼッテリア」、そして今回の記事でも取り上げた「オリーブの丘」だ。


ここで見えてくるのは、かつて「外食売上ランキングの地殻変動——「ビッグ4」へと再編された勢力図。ゼンショーの帝国、すかいらーくのDX、スシローの世界戦略、マックの超利益」の記事でも指摘したが、ゼンショーホールディングス、日本マクドナルド、すかいらーくホールディングス、そしてFOOD & LIFE COMPANIESによる「外食ビッグ4」の覇権争いだ。そして今、格安イタリアンの絶対王者、サイゼリヤの聖域にも踏み込もうとしている。


ゼンショーはこれら自社の強力なブランドを通じて、各ジャンルの王者たちと真っ向からぶつかり合う。回転寿司では「スシロー」、ハンバーガーでは「マクドナルド」、格安イタリアンでは「サイゼリヤ」だ。いずれの企業も業績が極めて好調という共通点を持つ。だからこそ、非常にレベルの高い競争が繰り広げられており、外食業界の最前線の動きが詰まっていて、学びが多い。


その中で際立つのが戦略の違いだ。ゼンショーの武器は、原材料の調達から製造・加工、物流、店舗販売までを一貫して自社グループで行う独自のビジネスモデル「MMD(マス・マーチャンダイジング・システム)」に他ならない。


一方、スシローを展開する株式会社FOOD & LIFE COMPANIESは、「京樽」「海鮮三崎港」「杉玉」などのブランドを擁するマルチブランド戦略で成長を果たし、2025年の外食企業売上ランキングでは3位に食い込むまでに躍進している。対するマクドナルドやサイゼリヤは、特定の業態を深掘りする「単一業態」の展開だ。 ここで繰り広げられている「マルチブランド(HD全体) vs 単一業態」という構図の戦いは、戦略の違いが非常に鮮明である。


そうした特徴を踏まえて、それぞれのジャンルにおける詳細に見ていく。


回転寿司の覇権争い:スシロー vs はま寿司

スシロー(FOOD & LIFE COMPANIES)の2025年9月期連結業績は、売上収益4,295億円(前年比19.0%増)、営業利益361億円(同54.4%増)となり、過去最高を更新した。特に中国大陸をはじめとした海外事業が好調で、海外スシロー事業の営業利益率は12.4%に達しており、日本国内の6.8%と比較して2倍近い水準を誇る。


対する「はま寿司」のスシローとの最大の違いは、「100円寿司」のモデルを維持している点だろう。期間限定フェアで「厳選まぐろ中とろ」などの人気ネタを110円(税込)で提供できるのは、まさにMMDシステムによるコストコントロールの賜物だ。


ゼンショーグループ全体で見ても、2025年9月に「すき家」で牛丼(並盛)を480円から450円へ、11年ぶりとなる「戦略的値下げ」を断行した。はま寿司も同様に価格をフックにして集客し、成長を実現。長年業界2位であった「くら寿司」を抜き、業界2位に浮上したとの見方もある。


主戦場は海外へ:北米市場を巡るインフラ戦

回転寿司の競争は今後、海外、特に北米が主戦場になるだろう。そもそも国内では、ロードサイドから都市部へのシフトに伴う物件確保の難化やコスト増により、店舗数の大幅な伸びは期待しにくい。インバウンド需要の恩恵はあるものの、首都圏一等地への出店コストは膨大だ。


その中で、スシロー(FOOD & LIFE COMPANIES)の海外展開のスピードは凄まじい。 現在、中国大陸(約90〜100店舗)、台湾(約40店舗)をはじめ、香港、シンガポール、タイ、インドネシアとアジア圏を席巻している。2026年度第1四半期には海外店舗数が248店舗に達しており、FY26(2026年度)全体では過去最大となる出店ペースを実現する計画だ。通期で300~320店舗の達成を目標に掲げており、ここにはいよいよ北米市場も本格的に目指す。


一方、「はま寿司」は2025年に海外100店舗を突破し、同年11月にはバンコク近郊の「セントラル・ピンクラオ」に東南アジア1号店を出店した。現時点でのレストラン型店舗の展開数においては、スシローに大きく水をあけられているのが実情だ。


しかし、ゼンショーはテイクアウト寿司の領域において、極めて強力な布石を打っている。2018年に米国の「Advanced Fresh Concepts Corp. (AFC)」を買収したことに続き、2023年には英国の「SnowFox Topco Limited」を子会社化。これにより、北米・英国を中心に3,000店舗超という巨大なネットワークを既に掌中に収めているのだ。事実、米国における寿司事業は極めて好調に推移している。


ゼンショーの真の勝ち筋は、このテイクアウト事業で築き上げた盤石な収益基盤と物流網(インフラ)の活用にある。既存の供給ルートや現地ノウハウという「インフラ」に乗せることで、レストラン型の「はま寿司」を順次投入していく戦略だ。この土台があるからこそ、ゼロから拠点を築く他社には真似できない、圧倒的にスムーズかつスピーディーな世界展開が可能となるだろう。


ハンバーガー市場の激突:マクドナルド vs ゼッテリア

日本マクドナルドHDの業績は極めて堅調だ。2025年12月期連結決算は、売上高4,166億円、純利益339億円と、3期連続の増収増益(過去最高)を達成した。売上ランキングではFOOD & LIFE COMPANIESに抜かれ4位となったものの、全店売上高は前年比7.2%増の8,886億円に達しており、その存在感は依然として巨大である。


ハンバーガー業界の市場規模は拡大の一途を辿っている。2024年度に約1兆161億円と初めて1兆円の大台を突破し、2025年度も約1兆300億円と過去最高を更新する見通しだ。この成長の中核を担う日本マクドナルドの動向は、市場全体の趨勢と直結していると言っても過言ではない。


ゼッテリアの「殴り込み」:価格とカフェ、二つの刺客

圧倒的な王者であるマクドナルドに対し、ゼンショー傘下の「ゼッテリア」がいよいよ本格的な攻勢をかける。かつて「ロッテリアが完全消滅し、新会社『バーガー・ワン』始動。外食首位ゼンショーがマックに挑む史上最大のガチンコ勝負」でも述べたが、その戦略のポイントは「価格」と「カフェ」の二点に集約される。


第一のポイントは「価格」だ。現在、マクドナルドやモスバーガーといった上位勢は、原材料高騰の影響で値上げを余儀なくされている。ファストフードの消費者は数十円の変動にも敏感であり、価格上昇への抵抗感は根強い。マクドナルドは自社アプリのクーポン発行によって「お得感」を維持し、同時に注文をコントロールすることでオペレーション効率を高める防衛策を講じている。


これに対し、ゼッテリアはゼンショーの強みであるMMD(マス・マーチャンダイジング・システム)を背景とした圧倒的なコスト競争力で勝負を挑む。「はま寿司」がそうであったように、低価格を強力なフックとして客数を確保し、一気にシェアを奪いにいく構えだ。


第二のポイントは「カフェ」機能の強化である。マクドナルドの「マックカフェ」や、モスバーガーの「モスバーガー&カフェ」への転換に見られるように、大手各社はカフェ需要の取り込みに必死だ。


ここで注目すべきはゼンショーの極めて大胆な経営判断である。同社は「モリバコーヒー」や「カフェミラノ」といった既存のカフェ業態から事実上撤退し、2026年2月末をもって全店を閉店させる。そして、それらが担っていたカフェ機能をゼッテリアに集約させる道を選んだのだ。


新生ゼッテリアの店舗設計には、その意図が鮮明に表れている。従来の赤を基調としたファストフード特有の内装から脱却し、落ち着いた照明や木目調を取り入れた「カフェテリア」に近い空間へと変貌を遂げた。座席間隔を広げ、ノマドワークや休憩を想定したコンセント付きの席を拡充するなど、滞在の快適性を重視している。


現在、カフェ業界はコーヒー豆の価格高騰に苦しんでいる。しかし、原材料の直接調達から物流までを自社で完結させるゼンショーのMMDがあれば、この逆風すらも武器にできる可能性が高い。カフェ機能を高度に融合させた次世代型ハンバーガーチェーンとして、王者の牙城を切り崩していく準備は整ったといえるだろう。


イタリアン:サイゼリヤ vs オリーブの丘

最後が、東洋経済オンラインの記事でも触れられた「サイゼリヤ」だ。格安イタリアン市場は、長らくサイゼリヤの独壇場であった。客単価を800円台に抑え、「値上げをしない」戦略を貫くことで、インフレ下においても圧倒的な支持を集めてきた。その勢いは業績にも直結しており、2025年8月期決算では売上高2,567億円(前期比14%増)、営業利益154億円(同4%増)といずれも過去最高を更新。直近の2026年8月期第1四半期(2025年9〜11月)も増収増益と、力強い成長を維持している。


店舗数を見れば、2025年11月時点でサイゼリヤの1,717店舗(うち国内1,060店舗)に対し、「オリーブの丘」は約60店舗に過ぎない。現時点での規模の差は依然として大きい。


絶対王者サイゼリヤの「死角」とは

しかし、サイゼリヤの強みである「単一業態」ゆえの限界も見え始めている。同社は食材の調達から製造、販売までを一貫して行う「製販一体」モデルにより、低価格と品質を両立させてきた。だが、近年のコスト高騰を受け、値上げを回避するためのメニュー縮小や食材見直しが相次いでいる。2026年2月の改定でもパスタの種類を絞り込むなど、オペレーションの高速化を図ったが、消費者からは「人気メニューが消えた」「肉の旨味が弱まった」といった声も漏れ始めている。サイゼリヤが支持されてきた真の理由は「安さ」ではなく「安くて高品質」である点にあり、その絶妙なバランスの維持がかつてないほど困難になっているのだ。


対する「オリーブの丘」は、ゼンショーグループの総合力を背景に持つ。購買・製造・物流・販売を最適化するMMDにより、低価格と品質を両立する基盤はすでに整っている。さらに見逃せないのが、「すき家」や「ゼッテリア」といった自社ブランドとのドミナント出店による物流効率の最大化だ。同じグループ内で複数の業態を持つからこそ、配送網を共有し、圧倒的なコスト競争力を生み出すことができる。


また、業態転換の「機動力」も脅威だ。現在、グループ内の「ビッグボーイ」などから「オリーブの丘」への業態転換による出店が加速している。市場の変化に応じて不採算店舗を迅速に有望な業態へ作り変えられる柔軟性は、単一業態のサイゼリヤにはない強みである。現時点での店舗数には17倍もの開きがある。しかし、王者が品質維持に苦慮する隙を突き、ゼンショーの資本力と物流インフラが襲いかかる構図は極めて刺激的だ。


今後、「オリーブの丘」にフォーカスした分析記事は確実に増えていくだろう。このテーマを提案してくれた、東洋経済オンライン編集部部長には深く感謝したい。非常に面白い、外食の最前線がここにある。

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