居酒屋第4世代はなぜ止まらないのか。若者に支持され続ける三つの設計の妙
- 三輪大輔

- 5 日前
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更新日:4 日前
2024年9月、筆者は「新時代」「それゆけ!鶏ヤロー!」「おすすめ屋」 の3業態を例に挙げ、これらを「ポスト御三家」と呼び、その台頭と“驚安”の衝撃をいち早く報じた。その後、同年12月の日経MJがこれらを「居酒屋第4世代」と定義したことで、この動きは一気に可視化されることとなった。2025年を経ても、その勢いは衰えるどころか、2026年に向けてさらに裾野を広げつつある。
現在、「居酒屋第4世代」と呼ばれる代表的な業態としては、新時代/おすすめ屋/とりいちず/それゆけ!鶏ヤロー! の4ブランドが挙げられる。
居酒屋第4世代を象徴する4ブランドの特徴
① 新時代

キーワード:共有空間・カオス・没入体験
・名物「伝串」に代表される圧倒的な低価格
・ピラミッド盛りなど、写真・動画映えを前提にした演出設計
・秩序よりも熱量を優先した、騒がしく参加型の空間
② おすすめ屋

キーワード:定額制・安心・価格の透明性
・食べ放題・飲み放題の完全定額制
・「いくらかかるか分からない」という居酒屋特有の不安を排除
・低価格そのものより、「失敗しないこと」に価値を置いた設計
③ とりいちず

キーワード:王道回帰・安心感・量と価格
・水炊き・唐揚げなど、分かりやすい鶏料理
・ハイボール・レモンサワーの常時激安価格
・奇抜さよりも「知っている居酒屋」という安心感
④ それゆけ!鶏ヤロー!

キーワード:強制イベント・参加型・記憶に残る体験
・テキーラベルなど、半ば強制的なイベント演出
・飲食にゲーム感覚を組み合わせた体験設計
・「楽しかった」「ヤバかった」という記憶を重視
なぜ「居酒屋第4世代」は止まらないのか
こうした居酒屋を支持しているのは、若者が中心である。では、なぜこれらの居酒屋は一過性の流行に終わらず、若者の日常に深く根付いたのか。単なるデフレ回帰では説明できない、その強さの正体を整理してみたい。結論から言えば、その理由は「安さ」を起点にしながら、若者の価値観に徹底的に寄り添った設計にある。
第一の仕掛け:低価格で没入できる「共有空間」
新時代の伝串ピラミッド、それゆけ!鶏ヤロー!のテキーラ強制ベルといった演出は、料理や酒そのもの以上に、体験自体をコンテンツ化している。

特にそれゆけ!鶏ヤロー!の演出は過激かつ象徴的だ。テキーラベルに加え、テキーラ観覧車や水鉄砲といった仕掛けは、明確に動画化を前提としている。近年の若者は、静止画よりもリール動画を使いこなす世代である。店舗体験そのものが投稿のネタとなり、それを見た別の若者が来店するという循環が生まれている。若者にとって激安の酒は、もはや飲み物ではない。カオスな空間に参加するための入場料に近い存在である。
第二の仕掛け:価格の不透明感を排除した安心設計
おすすめ屋の定額制に象徴される「いくらかかるかが分かる安心感」は、可処分所得が限られる若者にとって極めて大きい。同店は、約2,000円で70品以上の食べ放題・飲み放題を提供している。

アルコールを飲まない若者が増える中でも、食事価値が担保されているため、割り勘負けへの不安がない。誘う側も、誘われる側も気を使わずに済む。安いこと以上に、「失敗しないこと」が重視される時代において、価格の明確さは選ばれるための重要な条件となった。
第三の仕掛け:物価高に耐える筋肉質な経営モデル
居酒屋第4世代の強さは、価格設定や演出だけにとどまらない。物価高と人件費上昇が常態化する中でも成長を続けられる、筋肉質な経営モデルを備えている点にある。
それゆけ!鶏ヤロー!に見られるのが、居抜き物件を徹底活用した低投資出店である。鶏ヤローでは、多少壁に穴が開いていても手を加えず、椅子やテーブル、厨房機器まで既存設備をそのまま活用するケースも珍しくない。

初期投資はおおよそ1,000万円程度に抑えられ、回収スピードは極めて早い。この低投資モデルが、フランチャイズ加盟希望の増加にもつながっている。初期投資はおおよそ1,000万円程度に抑えられ、回収スピードは極めて早い。この低投資モデルが、フランチャイズ加盟希望の増加にもつながっている。また、こうしたモデルを現場で加速させているのが、(株)doubleの松井勝也氏や(株)ジュネストリーの東明遼氏といった、次世代の経営パートナーたちである。彼らは従来の飲食業界の常識を更新し、合理性と熱量を両立させた新しい出店戦略を確立しつつある。
一方で、おすすめ屋は異なるかたちで高い耐性を示している。同店の強みは、価格の訴求力が非常に高く、なおかつ提供される内容に対する価格の納得感が強い点にある。定額制の食べ放題・飲み放題という分かりやすい設計は、立地条件による不利を大きく相対化する。実際、「おすすめ屋」は空中階や雑居ビルなど、通常であれば居酒屋が敬遠しがちな立地でも集客を成立させている。ときには、キャバクラやナイト業態が入居するビル内であっても、若者客で満席になるケースが見られる。比較的家賃の安い立地でも成功できるブランド力を持っている点は特筆すべきだ。
それを支えているのは、「あそこに行けば、あの体験ができる」という目的来店型のブランド認知である。加えて、テクノロジーを前提としたオペレーションの合理化と、価格に対する圧倒的な納得感。その両立によって、原価高や賃料高といった外部環境の変化を吸収している。
この構造は、表面だけをなぞって再現できるものではない。結果として高い参入障壁を生み、居酒屋第4世代を一過性のブームではなく、持続的な成長モデルへと押し上げている。
「ポスト御三家」は日常インフラへ
居酒屋第四世代は「酔う場所」から「繋がる場所」へと、その定義を完全に書き換えた。「安くて、目立てる場」としての価値は、さらに強まっていくだろう。居酒屋第4世代は、特別な日の選択肢ではなく、若者の日常に組み込まれた存在へと変わりつつある。流行ではなく、生活動線の一部として選ばれている点こそが、この世代の居酒屋が持つ最大の強さである。



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