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「鰻の成瀬」の大量閉店は失敗か、再生への布石か。「しんぱち食堂」との比較で見えた外食フランチャイズの成功法則

  • 執筆者の写真: 三輪大輔
    三輪大輔
  • 4 日前
  • 読了時間: 8分

更新日:1 日前

                         三輪大輔|外食ビジネスアナリスト

 

外食経営を「短期的な成否」で断じてはならない理由

不祥事であれば話は別だが、私は、うまくいかなかった飲食店を安易に断じることはしたくない。そもそも経営は、短期で評価できるものではない。ある時点では失敗に見えたとしても、数年後に復活することは珍しくない。実際、外食の歴史は、その繰り返しで成り立っている。まさに、災禍は糾える縄のごとし。不幸が別のかたちで作用し、結果として成功へと転じることもある。だからこそ、今起きている現象を「良い・悪い」で切り分けるのではなく、その背景にある構造を捉えることが大切だ。


異例のスピードで駆け抜けた「2年300店舗」の軌跡

それを踏まえて、フランチャイズビジネスインキュベーション株式会社が運営する「鰻の成瀬」の話をしたい。鰻の成瀬は、2022年の1号店出店以降、驚異的なスピードで店舗を拡大してきた。わずか2年で300店舗を達成し、外食業界でも異例の成長曲線を描いた存在である。


鰻の成瀬の大量閉店

職人を必要としないオペレーション。居抜きで出店できる柔軟性。そして低い損益分岐点。こうしたビジネスモデルを武器に、フランチャイズで急成長を遂げ、外食産業記者会が選ぶ「外食アワード2024」も受賞している。


大量閉店とM&A。「鰻の成瀬」を巡る逆風の正体

しかし、ここにきて勢いには変化が見られる。2025年秋以降、大量閉店が起き、2026年3月末時点では約270店舗にまで減少した。さらに、2026年3月31日には、AI関連を中心に投資事業を手がけるAIフュージョンキャピタルグループが、同ブランドを運営するフランチャイズビジネスインキュベーションを子会社化し、株式の58%を取得している。


こうした動きを受け、ネット上ではネガティブな論調も目立ち始めている。「急拡大した反動だ」「最初から、いずれうまくいかなくなると思っていた」、と。しかし、本当にそうだろうか。むしろ私は、AIフュージョンキャピタルグループの傘下に入ることで、プラスの面も大きいと見ている。


急拡大し、その後に大量閉店が起きると、話題性が高かった分、反動も大きくなる。かつてのいきなり!ステーキや、「唐揚げの天才」も同様の文脈で語られてきた。こうした話題を集めるブランドには、共通点がある。それは、ことごとくフランチャイズである点だ。


本稿では、「鰻の成瀬」に焦点を当て、その成長と変化を読み解いていく。冒頭で触れたように、外食の成長は一筋縄ではいかない。単純な「成功」と「失敗」で切り分けられるものではない。私自身、これまで多くの外食経営者にインタビューしてきた。本稿では、その取材で得た視点も踏まえながら、今回の動きを構造として捉えていきたい。


鰻の成瀬の誤算と「素人」ゆえの突破口

フランチャイズビジネスインキュベーション代表取締役社長の山本さん(山本昌弘氏)は、えらぶらない人だ。私がインタビューしたのは2024年10月(飲食店経営2024年12月号)。すでに300店舗が視野に入り、メディアにも引っ張りだこの時期だった。それにもかかわらず、「私は飲食未経験者で、ずぶの素人です」と語り、その成功を誇ることもない。ただ淡々と、ビジネスの本質を語る。


「味はある程度までの追求にとどめ、それ以上に利益の出るお店をつくる。フランチャイズで展開することで、飲食業界を盛り上げていけたらと思っていました」


鰻の成瀬の大量閉店
フランチャイズビジネスインキュベーション代表取締役社長の山本さん

実はその前に、副編集長を務める『飲食店経営』で、2023年9月にも取材している。当時の鰻の成瀬は、フランチャイズショーなどにも積極的に出展しておらず、業界の外側から静かに広がっていた。気がつけば100店舗を超えていたが、まだ注目するメディアは少なく、私たちは業界誌の中でも取材が早かったと記憶している。


この「素人」という立場は、弱みではなく、むしろブランドの自由度を高めていた。職人を前提としない。居抜きで成立する。そして、あえて店舗ごとのばらつきを許容する。ブランドとしての統一感を追求することを放棄することで、エリアマネージャーのような中間管理機能を必要最小限に抑える。どれも、飲食の現場を知っていればいるほど、決断しにくい発想だったのではないだろうか。


しかし外部から見たことで、その無駄に気づくことができた。その結果として生まれたのが、低コストで回るフランチャイズモデルである。鰻の成瀬の営業利益率は15〜20%程度とされ、外食としては高水準だ。この収益性の高さが、フランチャイズとしての人気を集めた。そして、このモデルを成立させたのは、山本氏がフランチャイズのプロだったからに他ならない。


「フランチャイズの素晴らしい点は、誰もが優れたパッケージを活用して会社経営ができることにあります。現在、地方にいけばいくほど人手不足が深刻で、後継者不足で店をたたまざるを得ないケースも珍しくありません。そうした課題を、優れたフランチャイズパッケージの開発によって解決していければと考えています」


もちろん、鰻の成瀬もそのための一手になり得る。加盟店は法人が中心ではあるが、低コストで参入可能な設計となっているため、個人での加盟も多い。投資回収は1年強とされ、早期退職後のセカンドキャリアとして、50代・60代の夫婦が退職金を元手に始めるケースも想定されている。


共通する思想:「しんぱち食堂」が解きほぐした運用術

この思想に近いのが、「しんぱち食堂」である。しんぱち食堂も、鰻の成瀬と同様に、調理に手間と時間がかかる業態を、テクノロジーとオペレーションで解きほぐしている。 「しんぱち食堂」は、焼き魚をファストフードとして再設計した業態だ。入店から退店まで、顧客がストレスを感じないよう緻密に設計されている。タッチパネル注文や自動釣り銭機の導入により、注文や会計でスタッフを呼ぶ必要がない。余計な負担をかけない体験設計が、高い顧客満足につながっている。


鰻の成瀬の大量閉店
職人いらずで質の高い「しんぱち食堂」のメニュー

同店のロイヤルティは売上に対して3%とかなり低い。その理由は、本部が加盟店に対して臨店指導を行わない仕組みにしているからだ。同店はあえて過剰なサービスを行わず、オペレーションも簡潔に設計しているため、指導そのものが必要ない。ブランド価値を維持するためには、本部による管理に頼るのではなく、商品力と業態の魅力が十分に機能しているのだ。過度なサービスではなく、仕組みで差別化し、体験で価値をつくるという発想である。


この業態を手がけたのが、江波戸千洋氏だ。 同氏は「次郎丸」などを手がけてきた業態開発のヒットメーカーだ。近年ではMUGENの「炭火焼濃厚中華そば 海富道」のベースも、同氏が開発した「火焼き濃厚中華そば 倫道」であるなど、業界内での影響力は大きい。


テクノロジーの活用や、調理・接客の手間を削ぎ落とした点、低コストで成立するモデルなど、共通点の多い両ブランドだが、その帰結は対照的である。しんぱち食堂は、すかいらーくホールディングスの傘下に入り、出店を加速させていく。一方で、鰻の成瀬は、店舗数を減らした上で、AIフュージョンキャピタルグループの傘下に入った。


成長のジレンマ:立地の変化と加盟店の「質」の壁

両者の違いはどこにあるのか。それはフランチャイズ加盟の吟味の度合いだ。


しんぱち食堂は、商業施設などへの出店も進め、複数店舗を展開するフランチャイジーも多い。展開力や運営力を備えた企業が担い手となっている点も特徴だ。一方で、鰻の成瀬の誤算があるとすれば、当初のコンセプトとは異なる条件での出店が重なったことだろう。


日経クロストレンディでも指摘されている通り、立地も本来想定していた三等立地から変化していった。加えて、フランチャイジー側の事情も無視できない。いきなり!ステーキや焼肉ライクの後、次の柱を探していた事業者にとって、参入障壁の低い同ブランドは魅力的に映ったと考えられる。その結果、本来の設計とは異なる広がり方をした可能性がある。構造的に見ると、ジレンマも浮かび上がる。個人オーナーでは運営力にばらつきが出やすく、法人オーナーでは必ずしも期待通りの多店舗展開につながらない。その狭間で、成長のスピードと質のバランスが崩れたともいえる。


「AI×DX」で挑む、再現性の高い第2ステージ

とはいえ、なお約270店舗という規模を維持している点は軽視できない。その意味では、結果として一定の選別が進んだ状態にあるとも捉えられる。AIフュージョンキャピタルグループの傘下に入り、同ブランドは中期的に400店舗規模への成長を目指していく。その基盤となるのが、AI・DXによる業務効率化と、SNSマーケティングによる集客の高度化だ。


特に「AIを活用した効率的な飲食経営」は大きな意味を持つ。個人オーナーの運営力に依存していた部分を補完し、再現性を高める可能性が高い。もともと低負担で運営できるモデルであるからこそ、その延長線上に自走するビジネスへと進化する余地も見えてくる。さらに、地方自治体や金融機関とのネットワークを活用することで、出店と運営の安定性も高まると見られる。その上で重要になるのが、フランチャイジーの見極めだ。拡大のスピードではなく、質を重視した選別へと舵を切ることができるか。この点こそが、次の成長フェーズを左右する鍵になるだろう。


揺り戻しの中に立ち上がる「真の成長モデル」

かつて飛ぶ鳥を落とす勢いだった「いきなり!ステーキ」もまた、どん底からの再起を図っている。創業者の一瀬邦夫氏が語っていたように、その要因は「カニバリズム」にあった。年間200店舗規模という、前代未聞ともいえる出店を続けた結果、同一ブランド内での競合が発生し、収益性を大きく損なった。その過程で大量閉店へと至り、ブランドは不振に陥る。現在は神田で新型店舗を出店し、再成長への足がかりを築こうとしている。量の拡大から質の再設計へ。いまはその転換点にあるといえるだろう。


鰻の成瀬の大量閉店
今までのイメージを覆す「いきなり!ステーキ」の新業態

フランチャイズは、短期間で規模を拡大し、ブランド価値を高める強力な手段である。一方で、その反動もまた大きい。まさに諸刃の剣だ。それでも、そこで終わらないのが飲食の面白さである。むしろ、その揺り戻しの中からこそ、次の成長モデルが立ち上がってくる。鰻の成瀬は、今まさにその転換点にある。ここからどのようなモデルへと進化するのかに、期待が集まる。



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