【飲食経営者の肖像】そら都築学社長
- 三輪大輔

- 3月15日
- 読了時間: 4分
更新日:5 日前

都築さんを初めて取材したのは2017年3月のことだ。場所は麻布十番の「佐田十郎」だった。
千葉から出てきた勢いのある飲食企業──当時、そらをそう捉えていた関係者は多かったのではないか。実際、麻布十番での出店のためにつくった「佐田十郎」を皮切りに、同社は都心への進出を本格的に見据えており、「Azzurro」や「うっとり」といったブランドが同社を象徴していた。
ただ、「佐田十郎」には、洗練された空気をまといながらも「次のステージを狙う業態」としてのポテンシャルがあった。印象的だったのは、当時、都築社長が語った次の言葉だ。
「麻布十番のように大衆的な店から単価2万円近い店まで、成立させることができる街はなかなかありません。ここで繁盛させることができれば、他のアッパーな業態が成り立つエリアでも展開していくことができるでしょう」
その後の展開が、まさにこの言葉を証明した。
千葉発企業から、東京のトレンドを発信する存在へ
現在、「佐田十郎」は広尾・中目黒・六本木へと出店エリアを広げ、いずれも押しも押されもせぬ人気店へと成長している。他にも「NORAN」「恵 SONON」「中華 Aoki」「佐ノ」など、街の需要に合わせた業態を次々と創出している。
特に、実力派料理人をピックアップし、彼らを中心に店を組み立てる「人材起点の業態開発」は、そらの大きな強みである。ブランドは年を追うごとに洗練され、いまでは都心の食トレンドのど真ん中に位置する存在へと変貌したといってよいだろう。
転機となったのは、2018年に「世界一のコトづくりカンパニー」というビジョンを掲げた時期だ。当初は「世界一のコトづくりカンパニー」「DNAを奮わせろ!」を軸に掲げていたが、現在の理念体系はより洗練され、組織全体の指針として定着している。
MISSION Fun style&place
VISION 世界一の体験コトづくりカンパニーになる
VALUE 体験コトづくりのプロフェッショナルチーム
逆境下での決断が、そらの成長速度を一変させた
ミッションを現在の形に変更したのは、コロナ禍の2021年だ。多くの企業が社会情勢に翻弄され、どの方向に舵を切るべきか暗中模索していた頃、そらは一歩早く“次の時代を見据えて動き出す。その判断が、後の事業スピードを一段引き上げる結果へとつながっていく。
その象徴が、コロナ禍での採用強化である。多くの企業が採用を控える中、「コロナ禍が収束すれば人材獲得競争が激化する」との予測だけは業界内で共有されていた。しかし先行きが見えず、何人採用すればいいのか見通しが立たない以上、多くの企業は動けなかったのも事実だ。
その状況で、そらは都築さんが陣頭指揮を執り、積極的な採用に踏み切った。この決断が、新業態の立ち上げスピードを劇的に変えることになる。従来は既存スタッフのみで試行錯誤を重ね、2〜3年を要して業態をつくり上げていたが、現在では、「つくりたい」と決めた瞬間から必要な人材をすぐに集めることができようになった。その結果、同社は「ビジョンを掲げ、人を集めてから店をつくる」従来型のやり方から、「まず店をつくり、その店に共感する人材が自然と集まる仕組み」へと舵を切ることに成功したのだ。
続々と新たな人材が加わる中でも、そららしさを失わなかったのは、明確なミッションとビジョンが社内文化として根付いていたからに他ならない。新しく加わった料理人と既存メンバーが自然に融合し、同じ方向を向ける文化が育ち、それが同社の成長を支える基盤となっている。
次の”8年”へ向けた挑戦──渋谷・新宿、そして世界へ
今後の展開について、都築社長は明確な意思を持つ。それが、これまであえて避けてきた渋谷と新宿への出店、そして世界進出である。
まず新宿では、巨大でつかみどころのない街に対し、あえて寿司業態で挑む。そして近い将来、渋谷にも新ブランドを展開する構想を描く。これらは単なる出店計画ではなく、都心の“要衝”へ踏み込むという強い決意の表れだ。
都築さんとそらの歩みは、飲食企業がビジョンと共にどう成長していくのかを示す好例である。料理人を中心に置き、街の需要に応える業態を創出する。そうした積み重ねこそが「世界一の体験コトづくりカンパニーになる」というビジョンを体現する行動であり、一つひとつが他社との差別化を生み出している。
8年で劇的な進化を遂げたそら。次の8年も、想像を超える未来をつくり出しているはずだ。

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