サイゼリヤが10月29日から値上げ。ミラノ風ドリア320円、増収増益でも価格を見直す理由

更新日:12 時間前
三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
サイゼリヤは2026年10月29日から、メニュー全般で平均6%の値上げを実施する。看板商品のミラノ風ドリアは税込300円から320円になる。レジャー施設周辺・都市部の一部24店舗では平均10%の値上げとなる一方、フレッシュワインやランチ、モーニング限定メニューは価格を据え置く。

今回の改定内容は次の通りだ。
対象 | 2026年10月29日からの改定内容 |
メニュー全般 | 平均6%値上げ |
ミラノ風ドリア | 税込300円 → 320円 |
税込400円のメニュー | 税込420~430円などに変更 |
レジャー施設周辺・都市部の一部24店舗 | 平均10%値上げ |
フレッシュワイン | 価格据え置き |
ランチ | 価格据え置き |
モーニング限定メニュー | 価格据え置き |
同社が10月14日に発表した2026年8月期決算は、売上高が前期比17.4%増の3014億8300万円、営業利益が同5.9%増の164億1900万円だった。売上高は3000億円を突破し、営業利益も増えた。この結果だけを見ると、「増収増益なのに、なぜ値上げするのか」と感じる人もいるだろう。
しかし、国内事業の採算や利益目標との比較からは、低価格を守ってきたサイゼリヤの厳しさが見えてくる。
増収増益なのになぜ値上げ? 国内営業利益率は約3%
2026年8月期の国内売上高は2033億3600万円、営業利益は60億900万円だった。営業利益率は約3.0%。売上高100円に対して、営業利益が約3円残る計算になる。一方、アジアの売上高は981億4700万円、営業利益は97億1200万円。営業利益率は約9.9%だ。国内はアジアの約2倍の売上高がありながら、営業利益はアジアの方が大きい。
国内も増収増益だが、コスト上昇を受け止める余地は小さい。単純化すれば、売上高に対して追加コストが1%分発生し、吸収できなければ、営業利益の約3分の1が失われる。
さらに重要なのが、計画していた利益には届かなかった点だ。決算説明資料によると、単体の売上高予算は2040億円。実績は予算比99.7%で、ほぼ計画どおりだった。しかし、営業利益は予算81億円に対して実績60億900万円。約20億9100万円、率にして約26%下回った。
売上総利益も予算を22億2300万円下回る一方、計算上の販管費は予算より約1億3200万円少ない。費用を抑えても、売上総利益の不足を補いきれなかった。つまり、売上が大きく不足したために利益目標を逃したわけではない。売上はほぼ計画どおりでも、想定していた利益を残せなかったのである。
「前年より利益が増えた」ことと、「十分な利益を確保できた」ことは同じではない。今回の値上げを理解するうえで、この違いは大きい。
原価上昇を、効率化だけでは吸収しきれない
コスト負担の重さは、連結の利益率にも表れている。
決算説明資料では、売上原価率が前年の41.9%から43.7%へ、1.8ポイント上昇した。一方、販管費率は52.0%から50.9%へ、1.1ポイント改善している。それでも営業利益率は、6.0%から5.4%へ低下した。販管費率を抑えた効果があっても、原価率の上昇を吸収しきれなかった。売上拡大や効率化を進めながら、利益率が下がったということだ。
サイゼリヤは調達や生産、物流、店舗作業の効率化を重ね、手頃な価格を支えてきた。決算短信でも、携帯端末を使う注文方式の全店舗導入や、サプライチェーンの再構築などを説明している。
低価格は、単に利益を削れば実現できるものではない。多くの顧客を集め、少ない作業で安定して料理を提供し、調達から店舗までの仕組みを整える必要がある。同じ仕組みを持たない飲食店が価格だけをまねれば、採算を崩すおそれがある。そのサイゼリヤでも、原価上昇を吸収しきれなくなった。同社は今回の価格改定を、食材不足や原価上昇に対応し、商品の品質を維持して安定的に提供するための判断だと説明している。
効率化には、顧客に提供する価値とのバランスもある。例えば、メニューを絞れば調理や在庫管理は効率化しやすくなる。しかし、選ぶ楽しみを減らしすぎれば、来店する魅力を損なう可能性がある。さらに、効率化そのものにも投資が必要だ。システムや設備の導入、店舗改修、人材育成には資金がかかる。従業員の待遇改善も欠かせない。サイゼリヤも、人材教育や店舗への投資、ITを利用した作業の標準化、DXの継続を今後の取り組みに掲げている。

安さを支える努力を続けるためにも、利益が必要になる。今回の改定は、目の前のコスト上昇への対応に加え、今後の品質やサービスを支える判断と捉えられる。
都市部の一部24店舗は平均10%。店舗を維持するための採算も課題
今回、レジャー施設周辺・都市部の一部24店舗では、値上げ幅が平均10%となる。都市部の全ての店舗が対象というわけではない。ただ都市部では、食材費や人件費に加え、賃料の負担を考える必要がある。多くの人が行き交う場所でも、家賃が高ければ、低価格で十分な利益を残すのは難しい。
2026年5月に閉店した恵比寿駅東口店についても、恵比寿新聞の取材では、家賃の値上げ交渉が撤退の背景にあったと報じられている。個店の契約事情を今回の価格改定と直接結び付けることはできないが、都市部で低価格店を維持する難しさを示す事例だ。
需要があっても、採算が合わなければ出店できない。営業中の店舗でも、賃料などの条件が変われば継続が難しくなる。低価格を維持することが、結果として「利用したい場所に店がない」という状況につながる可能性もある。
店舗の席数や営業時間には限りがあり、客数を増やすだけでコスト上昇を吸収し続けることも難しい。立地ごとの費用の違いに対応できなければ、都市部での出店や既存店の維持が、今後の成長の制約になりかねない。同社は、一部店舗の改定率を高くした理由を今回の発表で詳しく説明していない。ただ、立地別の採算という観点から見れば、都市部でも営業を続けられる価格設定には意味がある。
消費者にとっての価値は、一品の価格だけではない。通勤や通学の途中、家族で出かけた先など、利用したい場所に店があることも大切だ。手頃な価格と、身近に店舗がある利便性。その両方を維持するためにも、利益を確保する必要がある。
アジアは増収でも減益。海外の高収益にも変化
海外の収益動向にも目を向けたい。
アジア事業は、新規出店による店舗数の増加などで売上高が前期比17.1%増となった一方、営業利益は4.2%減少した。営業利益率は、計算すると前年の約12.1%から約9.9%へ低下している。
決算説明資料の中国法人別の数字では、上海の売上高は12.4%増えたが、営業利益は22.3%減った。広州も売上高が16.4%増えたのに対し、営業利益は0.3%増にとどまる。中国では売上拡大が続く一方、利益成長は鈍っている。新規出店や工場への投資も進んでおり、これらの数字だけで既存店の不振と決めつけることはできない。それでも、国内より利益率の高い海外事業も、売上拡大がそのまま利益成長につながる状況ではなくなっている。
国内の値上げについて、会社が説明しているのは原材料やエネルギーなどのコスト上昇への対応だ。アジアの減益を、そのまま国内値上げの理由とすることはできない。ただ、海外の高収益があるから国内の低い利益率を許容できる、という見方にも限界がある。国内と海外のそれぞれで、継続して利益を確保できる収益基盤が求められる。
ミラノ風ドリア320円から考える、今後のサイゼリヤ
今回の広範な価格改定は、2020年以来、約6年ぶりとなる。私は発表前、商品によっては50円、100円単位で引き上げるのではないかと考えていた。国内の営業利益率は約3%で、コストがさらに上昇すれば利益が大きく削られる。アジア事業の利益成長にも陰りがある。収益の厚みを確保するため、より大きな改定も考えられると見ていた。
しかし、ミラノ風ドリアの値上げ幅は20円だった。平均6%の価格改定に踏み切りながらも、ランチやモーニング限定メニュー、フレッシュワインは据え置く。収益改善が必要でも、手頃に利用できる選択肢は残す。その判断に、サイゼリヤが大切にしてきた考え方が表れている。おいしい料理を、誰もが気軽に楽しめる価格で提供する。創業から受け継いできた精神を、値上げ後も守ろうとしているのだろう。
今回、値上げへの批判よりも、「これまでありがとう」「まだ安い」といった声が目についたことも印象的だった。SNSでは感謝や応援の声が紹介されている。消費者に負担を求める発表で、こうした反応が広がるのは珍しい。多くの外食企業が先に値上げする中、サイゼリヤは効率化を重ね、価格維持に取り組んできた。その姿勢を顧客も見ていた。今回の反応は、長年の取り組みによって築かれた信頼の表れではないか。
もちろん、発表時に理解を得られたことと、その後も来店が続くことは同じではない。今後は客数を維持しながら、必要な利益を確保できるかが問われる。2027年8月期は、売上高3337億円、営業利益212億円を見込む。今回の改定で、人材や設備への投資を続けられる収益基盤を築けるか。コスト上昇が続く中で、その成果を見ていく必要がある。
徹底した効率化で低価格を守ってきたサイゼリヤさえ、価格を見直す。その判断は、企業努力だけで吸収できる負担の限界を示す、一つの指標にもなる。ミラノ風ドリアは300円から320円になる。それでも、まだ安い。価格を据え置くことから、必要な価格改定をしながら手頃さを守ることへ。サイゼリヤは、その取り組みによって、外食の「安さ」に新しい基準をつくろうとしている。


