宅配ピザ3強を比較。ドミノ、ピザハット、ピザーラの経営戦略はどう違うのか
- 三輪大輔

- 4 日前
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更新日:1 日前
三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
コロナ禍で大きく伸びた宅配ピザ市場が、転換期を迎えています。
象徴的なのが、業界首位のドミノ・ピザです。同社は2026年6月、「お持ち帰り半額」を終了し、価格体系を大きく見直しました。宅配のMサイズを平均約600円値下げする一方、持ち帰りは30%引きへ変更。さらに、チーズを20%増量し、14年ぶりにブランドロゴも刷新しました。一見すると、価格改定やキャンペーン変更のニュースに見えます。しかし、その背景には、コロナ禍に急拡大した店舗網と事業モデルを見直し、次の成長の形を模索するドミノの姿があります。
一方、ピザハットは小型店や店舗受け取りを軸に出店を進め、ピザーラは商品力と品質を重視する姿勢を崩していません。同じ宅配ピザを扱う3社ですが、現在の戦い方は大きく異なります。その違いを理解するには、まず各社がどのような成り立ちを持ち、何を強みとしてきたのかを振り返る必要があります。
日本の宅配ピザ市場を形づくった3社
日本で宅配ピザが広がり始めたのは、1980年代以降です。1985年、ドミノ・ピザが東京・恵比寿に1号店を開業しました。米国で培った仕組みを持ち込み、焼きたてのピザを短時間で自宅へ届けるという、新しい食体験を日本に定着させました。ドミノの強みは、注文から調理、配達までを効率化する仕組みにあります。日本の道路事情に合わせた宅配用バイクを開発するなど、ピザそのものだけではなく、届け方まで含めてサービスをつくり上げました。
1987年に誕生したのが、日本発のピザーラです。米国型のピザをそのまま持ち込むのではなく、日本人の味覚に合う商品を開発し、差別化を進めました。テリヤキチキンや明太子など、日本で親しまれている食材を取り入れた商品は、その象徴といえます。店舗で食材を仕込み、商品のおいしさを高める。そうした商品開発と品質へのこだわりが、ピザーラの強みとなってきました。
ピザハットは、1973年に東京・茗荷谷へレストラン形式で日本初出店し、1991年から宅配を開始しました。米国ではピザレストランとして成長してきた歴史があり、生地の種類やサイドメニューの豊富さなど、食事としての満足感に特徴があります。宅配だけを起点とするのではなく、レストランで培った商品力を持ち込んだ点が、他の2社との違いです。
つまり、3社の現在の特徴は、創業期からすでに表れていました。ドミノは、仕組みと効率。ピザーラは、日本人の味覚に合わせた商品力。ピザハットは、レストラン発祥ならではの食事としての満足感です。
コロナ禍で一気に抜け出したドミノ
この3社の勢力図を大きく変えたのが、2020年からのコロナ禍でした。外出自粛によって外食需要が落ち込む一方、自宅で食事を楽しむ人が増え、デリバリーやテイクアウトの需要が急拡大しました。
中でも勢いを見せたのが、ドミノ・ピザです。2019年に約600店だった国内店舗数は、2020年に700店、2021年に800店、2022年に900店、2023年には1000店へ到達しました。わずか数年間で約400店を増やした計算です。店舗を増やせば、配達エリアを細かく分けることができます。一店舗が担当する範囲を狭くすれば、配達時間を短縮でき、熱い状態で商品を届けやすくなります。店舗網の拡大は、ドミノが創業以来磨いてきた「早く、効率よく届ける」という強みを、さらに高める戦略でした。
加えて、ドミノは「お持ち帰り半額」を打ち出し、宅配ピザを日常的に利用しやすい存在へと変えました。私自身も、家族でピザを食べる際に何度も利用しました。通常価格と比べた割安感は大きく、消費者にとって非常に分かりやすい施策だったと思います。コロナ禍では、ドミノが宅配ピザ市場から一気に抜け出したように見えました。
急拡大が生んだ自社競合と固定費の重さ
しかし、急拡大には別の側面もあります。店舗数を増やせば、家賃や人件費、設備費、配送用バイクの維持費も増えます。さらに、近いエリアへ集中的に出店すれば、店舗同士の商圏が重なり、自社の店舗同士で顧客を奪い合う可能性もあります。
需要が伸び続けている間は、それでも売上の拡大によって固定費を吸収できます。しかし、外出制限がなくなり、消費者が再び飲食店へ足を運ぶようになると、デリバリー需要はコロナ禍のような勢いでは伸びなくなりました。
急拡大によって築いた店舗網が、今度は経営負担となります。ドミノは2025年、国内店舗の約2割にあたる172店を閉店する方針を明らかにしました。一時は1000店まで増えた店舗網を見直し、事業モデルの再構築を進めています。
これは単純な失敗というよりも、コロナ禍に急拡大した体制を、平常時の需要に合わせて修正する動きと見るべきでしょう。ただし、一度は他社を大きく引き離したように見えた企業でも、その優位を維持し続けることは簡単ではなかったということです。
「お持ち帰り半額」終了で何を変えるのか
6月に行った価格体系の見直しで、最も注目されたのが「お持ち帰り半額」の終了です。持ち帰り半額は、強力な集客策でした。一方で、宅配と持ち帰りの価格差が非常に大きく、同じ商品でありながら、受け取り方によって価格が大きく変わる状態でもありました。持ち帰りを30%引きへ変更し、宅配価格を平均約600円引き下げたことで、両者の価格差は縮まります。これは、持ち帰りだけに大幅な値引きを集中させる価格体系を見直し、宅配も含めて利用しやすい価格へ整える狙いがあると考えられます。
同時に、チーズを20%増量し、ブランドロゴも14年ぶりに刷新しました。ここで重要なのは、単に値引き率を変更しただけではないことです。価格の安さだけで選ばれるブランドから、商品そのものの価値や注文から受け取りまでの体験も含めて選ばれるブランドへ。ドミノは今、その転換を図ろうとしています。コロナ禍に店舗数を増やすことで成長したドミノが、今度は価格体系、商品、ブランド、店舗網を一体で見直し、持続可能な形をつくろうとしているのです。
ピザハットは「店舗の在り方」を変える
ドミノが急拡大の反動と向き合う一方、着実に店舗数を伸ばしているのがピザハットです。2026年1月時点の国内店舗数は622店。ドミノには及ばないものの、近年は年50店規模で出店を進め、差を縮めています。
ピザハットの特徴は、従来型の宅配ピザ店だけではなく、小型店や店舗受け取りに対応した店舗を増やしていることです。インターネットで注文し、店頭で受け取る「BOPIS」と呼ばれる利用方法にも力を入れています。
デリバリーは便利ですが、配送員の確保や人件費、バイクの維持など、店舗側の負担は小さくありません。一方、消費者が自ら商品を受け取りに来れば、店舗は配送にかかる負担を抑えることができます。駅前や住宅街、商店街など、消費者が日常的に立ち寄りやすい場所へ店舗を構えることで、持ち帰り需要を取り込むこともできます。
ピザハットは、宅配だけに頼るのではなく、デリバリー、店舗受け取り、外部の配達サービスなど、複数の受け取り方を組み合わせています。これは、宅配ピザ店を単なる「配達拠点」としてではなく、生活動線上にある持ち帰り店としても機能させる取り組みです。大きな店舗や自前の配送体制だけに依存せず、立地や店舗規模、受け取り方を柔軟に変える。その機動力が、ピザハットの現在の強みとなっています。
ピザーラは商品とブランドの価値を守る
3強の中で、最も異なる道を歩んでいるのがピザーラです。2026年1月時点の店舗数は526店。店舗数では3位ですが、ドミノのような急拡大や、極端な値引き競争には進みませんでした。
ピザーラが重視してきたのは、日本人の味覚に合わせた商品開発と、店舗での仕込みです。
トマトやマッシュルームなどの食材を店舗で手切りし、商品ごとに組み合わせを工夫する。季節商品や他社とのコラボレーションも含め、ピザそのものの魅力を高めることに力を注いできました。
ピザーラは、ドミノほど価格を前面に出さず、ピザハットほど店舗モデルの変化を強く打ち出しているわけでもありません。それでも支持されているのは、「ピザーラなら一定のおいしさが期待できる」というブランドへの信頼があるからでしょう。宅配ピザは、日常的に毎週食べる商品というよりも、家族が集まる日や誕生日、休日などに選ばれることも多い商品です。そうした場面では、多少価格が高くても、失敗したくないという気持ちが働きます。
ピザーラは、安さや店舗数を競うのではなく、商品のおいしさと安心感を守ることで、独自の居場所を築いてきました。
3社は「戦う場所」を変えている
現在の3社の違いを整理すると、方向性が見えてきます。
ドミノ・ピザは、急拡大した店舗網を見直しながら、価格体系とブランドを再構築しています。ピザハットは、小型店や店舗受け取りを活用し、利便性と出店の柔軟性を高めています。ピザーラは、商品力と品質を重視し、価格競争とは異なる場所でブランド価値を守っています。
かつての宅配ピザ市場では、店舗数や価格の安さが分かりやすい競争軸でした。しかし、市場が成熟し、原材料費や人件費、物流費が上昇する現在、規模を拡大すれば必ず勝てるわけではありません。安く売り続ければ利益が残るとも限りません。どの顧客に、どのような場面で、どのような価値を提供するのか。3社は、同じ宅配ピザ市場の中で、それぞれ異なる答えを出そうとしています。
ハンバーガー業界にも似た3強の構図
この構図は、ハンバーガー業界にも似ています。
圧倒的な店舗網と仕組みを持つマクドナルド、品質と手作り感を重視するモスバーガー、直火焼きの大型バーガーで個性を打ち出すバーガーキング。同じハンバーガーを扱いながら、各社が異なる価値を提供することで共存しています。
宅配ピザ市場も、それに近い段階へ入ったと考えられます。ドミノが規模で一度は大きく抜け出しても、ピザハットやピザーラが消えるわけではありません。ピザハットには利用しやすさがあり、ピザーラには商品への信頼があります。それぞれに選ばれる理由があるからです。
成熟した市場では、一社が全ての顧客を獲得するのではなく、各社が自社の強みを生かせる場所を見つけることが重要になります。
一度抜け出しても、勝ち続けるのは難しい
コロナ禍では、デリバリー需要を取り込んだドミノ・ピザが、一気に他社を引き離したように見えました。しかし、急拡大によって築いた店舗網は、需要が平常化した後には、自社競合や固定費の重さという課題にもなりました。成長のために選んだ戦略が、環境の変化によって負担へ変わることがあります。一方、ピザハットは店舗と受け取り方を変え、ピザーラは商品とブランドの価値を守ってきました。
これは、どの戦略が正しかった、間違っていたという単純な話ではありません。市場環境が変われば、かつての正解も変わります。企業には、これまでの強みを生かしながら、事業の形を修正し続けることが求められます。
ドミノ、ピザハット、ピザーラの3社が競っているのは、同じピザを少しでも安く売ることだけではありません。それぞれが、自社の強みを生かせる「戦う場所」を探しているのです。3社の戦略の違いは、宅配ピザ市場が成長期から成熟期へ移り、規模や価格だけでは勝敗が決まらない時代へ入ったことを示しています。


