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居酒屋倒産が過去最多のなぜ。大手最高益と中小倒産のギャップで読む、勝ち方の変化

  • 執筆者の写真: 三輪大輔
    三輪大輔
  • 1 日前
  • 読了時間: 6分

更新日:20 時間前

  三輪大輔|外食ビジネスアナリスト


居酒屋の倒産が過去最多ペースで増えている。


東京商工リサーチの調査によると、2026年1〜4月の「居酒屋」倒産は88件となり、前年同期比54.3%増と急増した。1〜4月期としては、1989年以降で過去最多だ。


居酒屋倒産が過去最多

この数字だけを見ると、世間は「居酒屋不況」と受け止めたくなる。もちろん、原材料費、人件費、光熱費の上昇は大きな負担だ。若者のアルコール離れや宴会需要の変化も、経営に深刻な影響を与えている。しかし、このニュースを単なるコスト高による不況とだけ読むと、いま外食市場で起きている本質的な地殻変動を見誤ることになる。なぜなら、一方で大手外食企業は「過去最高益」を叩き出すほどの好調に沸いているからだ。


企業名(グループ名)

2026年期の業績動向

ワタミ

2026年3月期:5期連続増収、連結営業利益は5.9%増の48億3000万円(国内外食事業が牽引)

コロワイド

2026年3月期:売上収益3000億円超、事業利益ともに過去最高を更新

エターナルホスピタリティグループ


(鳥貴族)

2026年7月期:通期予想を上方修正。


売上高528億円、営業利益34億円と過去最高を見込む


居酒屋という業態そのものが一律に沈んでいるわけではない。むしろ、「勝てる企業」と「変化に対応しきれない店」との差が、かつてないほど残酷に広がっているのだ。では、その生死を分ける差はどこで生まれているのか。理由は大きく3つの構造変化にある。


1. 競争フェーズの変化:総合居酒屋の終焉と「第4世代」の台頭

一つは、居酒屋の競争フェーズが「何を売るか」から「なぜ選ばれるか」へ完全に変わったことにある。


かつての居酒屋は、「何でもある」ことに価値があった。『つぼ八』や『村さ来』に代表される居酒屋御三家、さらに『ワタミ』や『笑笑』などの新御三家は、会社帰りの飲み会や大人数の宴会、二次会需要を広く受け止めてきた。駅前にあり、大人数で入れ、和洋中のメニューがそろい、誰が来ても困らない。これが昭和から平成にかけての強みだった。


しかし、消費者の価値観の変化に伴い、総合居酒屋の均質性は次第に「強み」から「弱み」へと反転する。消費者は「とりあえず居酒屋」ではなく、「何を食べに行くのか」「なぜその店に行くのか」を重視するようになった。その流れの中で台頭したのが、『鳥貴族』『串カツ田中』『肉汁餃子のダンダダン』のような専門性を持つ居酒屋(第3世代)である。焼鳥、串カツ、餃子――何を楽しむ店なのかが明確な看板商品があることで、顧客の脳内に利用シーンがダイレクトに浮かぶ強みを持った。


さらに現在は、「居酒屋第4世代」と呼べる業態が市場を席巻している。『新時代』『おすすめ屋』『とりいちず』『それゆけ!鶏ヤロー!』などがその代表だ。これらの店は、単に安いだけではない。


  • 圧倒的な低価格と定額制の「分かりやすさ(失敗しない安心感)」

  • SNSで共有したくなるインパクトのある演出(『新時代』の伝串ピラミッドなど)

  • 友人同士で気兼ねなく盛り上がれる空間・イベント性


これらを掛け合わせることで、若者層を熱狂させている。若者にとって、そこはただ酒を飲む場所ではない。「安く集まり、体験を共有し、盛り上がる場所」という明確な来店理由がデザインされているのだ。


今、市場で選ばれるためには以下の3つの武器が不可欠となっている。

専門性: 何を食べる店かが1秒で伝わること
コスパ: 財布を気にせず解放感を得られる価格設定
独自の体験価値: SNSで誰かに共有したくなるフック

この変化に対応できず、昔ながらの「そこそこの料理、そこそこの酒、そこそこの価格」で勝負している均質的な店は、どれだけ立地がよくても、顧客の選択肢から静かに除外されていく。


2. 経営フェーズの変化:「DX費用」という見えないコストの罠

もう一つの変化は、経営の前提そのものが変わったことだ。


現代の人手不足とタイパ・コスパ志向に対応するためには、キャッシュレス決済、予約管理システム、モバイルオーダー、POSレジ、勤怠管理、原価管理といったDX(SaaS)の推進が避けて通れない。しかし、ここに中小・個人店を追い詰める罠がある。「テクノロジーは、導入しただけなら単なるコスト(固定費)である」という点だ。


キャッシュレス決済には数%の手数料がかかり、予約サイトには送客手数料が発生する。各種SaaSツールには毎月定額の利用料がかかる。一つ一つは小さく見えても、粗利の薄い飲食店にとっては確実に利益を削り取る「ステルスコスト(見えないコスト)」の乱立状態を招く。


ここで大手と中小の「運用力」の差が決定打となる。大手企業は、DXを単なる業務効率化で終わらせない。蓄積された売上・来店・原価・人員データを出力し、貪欲に利益へ結びつけている。


  • POSデータから「売れる商品」と「利益が残る商品」を峻別し、メニューを組み替える

  • 予約データから時間帯別の客数を予測し、無駄のないシフト人員配置を行う

  • モバイルオーダーの導線を最適化し、客単価アップ(追加注文)を自動化する

  • 原価管理システムを回し、値上げすべき商品と据え置く商品をリアルタイムで判断する


ここまでやって初めて、DXは「費用」ではなく「利益を生む仕組み」に変わる。


一方で、多くの中小・個人店は日々の現場営業(仕込み、接客、シフト調整、トラブル対応)を回すだけで手一杯だ。システムを導入しても、データを分析し、価格やメニューの組み替えにまで落とし込む余力(リソース)がない。結果として、システム利用料や手数料だけが重くのしかかり、自ら利益率を下げてしまう悪循環に陥っている。営業を続けながら、時代に合わせてメニューや価格、導線を再設計(リ・バリュー)する難易度は、昔とは比較にならないほど上がっているのだ。


3. 戦略ポートフォリオと「海外展開」という選択肢の有無

さらに、大手には中小が逆立ちしても真似できない圧倒的な武器がある。それが「ポートフォリオ経営」と「海外展開」だ。


大手は、一つのブランドやエリアに依存しない。ターゲットや利用シーン、価格帯の異なる複数の専門業態をポートフォリオとして保有し、市場のトレンドや地域の特性に合わせて柔軟に出店戦略を変えられる。


また、焼鳥、餃子といった商品軸が明確な専門業態は、そのまま海外市場へ輸出しやすいという強みを持つ。日本の「会社帰り文化」に依存していた総合居酒屋とは違い、商品そのものの魅力で海外の消費者を惹きつけられるからだ。現に、鳥帰族を展開するエターナルホスピタリティグループは、国内の成長にとどまらず海外展開を加速させており、これが大きな成長の選択肢となっている。


対して、中小・個人店は限られたリソースと店舗数で勝負するしかない。国内市場が縮小し、客の店選びが変わり、コストが跳ね上がっても、すぐに別業態に鞍替えしたり、海外に打って出たりすることは不可能に近い。目の前の店舗で、文字通り命がけで価格やサービスを再設計し続けるしか道はないのだ。


結論:居酒屋が苦しいのではない。勝ち方が高度化したのだ。

居酒屋倒産の増加は、単純な「コスト高」や「外食不況」という言葉だけで片付けられる現象ではない。それでは、なぜ一方で大手が過去最高益を更新しているのかの説明がつかないからだ。今、起きていることの本質は、「居酒屋市場の急速な高度化と選別」である。


  • 競争面: 専門性、コスパ、体験価値を兼ね備えた明確な「行く理由」を作れるか

  • 経営面: デジタルツールを導入するだけでなく、データを活用して利益を残せるか

  • 戦略面: 縮小する国内需要を補う仕組みやポートフォリオを持っているか


高度な経営の仕組みを構築できた企業は、この環境下でも過去最高益を更新して成長を続ける。しかし、日々の営業に追われ、この「高度化の波」についていけなくなった店は、厳しい選別の中で市場からの離脱を余儀なくされる。


居酒屋が苦しいのではない。居酒屋の勝ち方が変わったのだ。


今回の過去最多という倒産劇は、その残酷なまでの構造転換の現実を、まざまざと映し出している。

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