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芸能人は飲食店を経営し、外食企業は有名人を経営に迎える。速水もこみちさん、斎藤佑樹氏らに見る有名人と外食の新しい関係

  • 執筆者の写真: 三輪大輔
    三輪大輔
  • 2 日前
  • 読了時間: 8分

更新日:21 時間前

                         三輪大輔|外食ビジネスアナリスト


ここ最近、有名人と外食ビジネスの距離が急速に縮まっています。一つは、芸能人自身が店を経営し、現場に入る動きです。もう一つは、企業が有名人を広告塔ではなく、経営やブランドづくりの内側に迎える動きです。


例えば、俳優の速水もこみちさんは、京都で自ら厨房に立つレストランを立ち上げます。一方、「鰻の成瀬」は、元プロ野球選手の斎藤佑樹氏を、おもてなしを担う責任者として迎えました。一見すると逆方向の動きですが、起きていることの本質は同じです。


「鰻の成瀬」の店舗前で並ぶ元プロ野球選手の斎藤佑樹氏(左)と、フランチャイズビジネスインキュベーション株式会社代表取締役の山本昌弘氏
元プロ野球選手の斎藤佑樹氏(左)を「Chief Omotenashi Officer(COO)」として迎えた「鰻の成瀬」。急拡大から次の成長段階へ向け、ブランド価値の向上を図る人事として注目される。(写真:フランチャイズビジネスインキュベーション株式会社リリース)

かつて、芸能人と飲食店の関係は、名前や肖像を使って集客する形が中心でした。その後、本人がメニューや店づくりに関わるプロデュース型が広がり、現在は自ら経営や現場まで担う「第3の形」が目立ち始めています。同時に企業側も、有名人の知名度だけではなく、その人物が持つ経験、専門性、信用、発信力、物語まで、経営資源として生かそうとしています。


別々に進んできた二つの流れが、いま交錯し始めています。なぜこのような変化が起きているのでしょうか。それぞれの背景と狙いを見ていきます。


芸能人飲食に生まれた「第3の形」

まず見ていきたいのは、芸能人自身が店を経営する流れです。芸能人と飲食店の関係は、大きく三つの段階に分けられます。


第1フェーズは、芸能人の名前や肖像を使って集客する「広告塔型」です。代表例として思い浮かぶのが、かつて全国に展開した「焼肉小倉優子」です。店舗運営の中心は外食企業が担い、芸能人は名前やイメージを提供する。企業にとっては短期間で高い認知を獲得でき、芸能人にとっても店舗経営の実務を背負わずに事業へ参加できる利点がありました。一方で、知名度によって最初の客を集めることはできても、それだけで店を長く続けられるとは限りません。話題が薄れれば来店動機も弱まり、本人のイメージ変化が、そのままブランドに影響する危うさもあります。


第2フェーズは、芸能人本人が店のコンセプトやメニュー、空間づくりなどに関わる「プロデュース型」です。宮迫博之さんの「牛宮城」は、その象徴的な事例でしょう。本人の考えやこだわりを店舗に反映し、開業までの過程も含めて発信することで、単なる名前貸しとは異なる物語をつくりました。


そして最近目立ち始めたのが、第3フェーズとも呼べる「実業型」です。これは、第1、第2フェーズがなくなったという意味ではありません。名前貸し型やプロデュース型も残る中で、本人が会社をつくり、経営や現場まで担う新たな形が加わったのです。


速水もこみちさんが、自ら厨房に立つ意味

俳優の速水もこみちさんは、2026年8月、京都・二条エリアにレストラン「noden.」を開業する予定です。速水さんは同店の代表を務めるだけでなく、「シェフ・オペレーター」として、不定期ながら自ら厨房に立ち、料理を提供すると発表しています。築100年以上の京町家を舞台に、京都の食材を軸として、生産者と食べ手を結ぶ店を目指しています。


速水さんは以前から、テレビ番組の料理コーナーや自身の発信を通じて、料理への関心と専門性を示してきました。それでも、レシピを紹介することと、実際に店を経営することは全く異なります。飲食店では、仕入れ、人材の採用と育成、衛生管理、接客、原価管理、集客など、日々の運営を積み重ねなければなりません。自ら代表となり、厨房にも入ることは、自身の知名度だけではなく、料理人としての評価まで消費者に委ねることを意味します。


元BE:FIRSTの三山凌輝さんも、自ら新会社を設立し、2025年12月に吉祥寺で「親父のあんかけパスタ」を開業しました。自身がほれ込んだ名古屋のあんかけパスタを、実父と共に提供する事業です。エンターテインメントだけにとどまらず、人と人がリアルに交流する場として飲食店を位置付けています。


はるな愛さんのように、以前から複数の飲食店を経営し、自ら接客に立ってきた芸能人もいます。芸能人による実業型の飲食店経営は、突然生まれたものではありません。しかし、その選択をする人が、以前よりも目立つようになりました。


知名度は、開業直後の客を呼ぶ大きな力になります。ただし、再来店してもらえるかどうかを決めるのは、料理、接客、価格、空間など、飲食店としての総合的な価値です。芸能人が自ら経営や現場に入る背景には、「名前だけでは店を続けられない」という外食ビジネスの現実があります。


企業も有名人を「経営の内側」へ

芸能人自身が経営へ向かう一方で、企業側からも逆方向の変化が起きています。2026年7月、「鰻の成瀬」を展開するフランチャイズビジネスインキュベーションは、元プロ野球選手の斎藤佑樹氏を「Chief Omotenashi Officer」に起用しました。


一般的にCOOは最高執行責任者を意味しますが、今回のCOOは「Chief Omotenashi Officer」という同社独自の肩書です。同社はこの人事を「鰻の成瀬 第二章」の始まりと位置付け、今後は「品質へのこだわり」「お客様へのおもてなし」「加盟店との共存共栄」を重視すると説明しています。


鰻の成瀬は、手頃な価格でうな重を提供する業態として、短期間で店舗網を拡大してきました。急拡大したブランドが次に問われるのは、店舗数だけではありません。どの店でも安定した料理や接客を提供し、長く利用されるブランドになれるかどうかです。その段階で、誠実さや清潔感、挑戦を続けてきた人物像を持つ斎藤氏を「おもてなし」の責任者に据えたことには、単なる話題づくり以上の狙いがあると考えられます。斎藤氏の知名度を借りるだけではなく、その人物像を、ブランドが次の段階で強化したい価値と重ねているのです。


「ナポリの窯」が取り込む突破力

宅配ピザ「ナポリの窯」をめぐる動きも象徴的です。「ナポリの窯」を展開するいちごホールディングスは、YouTuberのヒカル氏を取締役に迎えています。さらに、同社を子会社化した太洋物産では、2026年6月に堀江貴文氏が取締役に就任しました。太洋物産は、堀江氏にDXやAIの推進、デリバリー事業の強化、海外展開などでの役割を期待しています。


宅配ピザ市場では、長く営業してきたブランドであっても、消費者に新たな利用理由を提示し続けなければ、存在感を保つことは容易ではありません。そこで必要になるのが、既存の宅配ピザ企業にはない発信力やスピード感、異なる事業領域との接点です。


堀江氏やヒカル氏の起用には話題性がある一方、それだけではありません。両氏が持つ発信力やコミュニティー、事業を立ち上げてきた経験を、ブランドの変革に利用しようとする動きと見ることができます。


有名であることと、経営を任せることは違う

外食以外でも、企業が著名人を経営に迎える動きは見られます。ラウンドワンでは、元Mrs. GREEN APPLEのドラマーであり、社会保険労務士の資格を持つ山中綾華氏が社外取締役に就任しました。2026年6月末時点で、同社の役員として公式サイトにも掲載されています。


この事例は、単純なタレント起用とは少し性格が異なります。音楽活動で得た経験だけではなく、専門資格を持つ人材としての登用でもあるからです。ただ、共通しているのは、有名人を企業の外側に置くのではなく、肩書と責任を与えて内側へ迎えている点です。


CMへの出演や期間限定商品の監修であれば、契約が終了すれば関係も終わります。取締役やブランド責任者になれば、その人物の発言や行動だけでなく、企業やブランドの成果にも責任が生じます。企業側にも、著名人を登用しただけでは変革につながらないというリスクがあります。知名度を持つ人物を役員に据えることと、その人の経験や能力を実際の経営に生かすことは別問題です。その意味で、今後は肩書だけではなく、何を任せ、どのような成果につなげたのかが問われます。


「広告塔」からブランドの“共犯者”へ

芸能人自身が経営や現場へ入る一方で、企業も有名人を経営の内側へ迎え始めています。方向は反対に見えますが、起きていることの本質は同じです。有名人が、外食ビジネスの「外側」から「内側」へ移っているのです。芸能人は事業の成果や評判に責任を持ち、企業はその人物が持つ経験、専門性、発信力、信用、ファンとの関係まで、ブランドづくりに生かそうとしています。


この新しい関係を、あえてブランドの「共犯者」と呼びたいと思います。もちろん、悪事を共にするという意味ではありません。有名人が名前や肖像を提供し、企業が契約料を支払うだけの関係を超え、ブランドが抱える課題やリスクを共有し、その成長に共に責任を持つ存在という意味です。


有名人にとっては、自身の知名度やイメージを店舗や企業に預ける以上、店の評価が本人の評価にもつながります。企業にとっても、有名人を経営の内側に迎える以上、その人物を広告素材として消費するだけでは済みません。経験や専門性を生かせる役割を用意し、経営やブランドの成果に結び付ける必要があります。


もっとも、有名人が深く関われば、必ず成功するわけではありません。外食店の価値を最終的に決めるのは、料理や接客、価格、利便性といった日々の店舗体験です。有名人が最初の客を呼ぶことはできても、再び来店してもらえるかどうかは、店の実力にかかっています。


だからこそ、現在起きている変化には意味があります。芸能人が経営や現場へ入り、企業も有名人を経営の内側へ迎える。二つの流れが交錯する中で、有名人と外食の関係は、「知名度の消費」から「価値を共につくる関係」へ変わり始めています。



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