「二代目は会社をダメにする」は本当か。大戸屋、ナポリの窯、ゼンショーに見る外食後継者たちのしたたかな生存戦略
- 三輪大輔

- 4 日前
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更新日:21 時間前
三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
「二代目は会社をダメにする」。
家業や同族企業、あるいはカリスマ創業者の後継者を語るとき、昔から繰り返されてきた言葉です。創業者は何もないところから事業をつくり、会社を成長させる。一方、二代目は、すでに築かれた会社を受け継ぐだけ。創業者ほどの情熱や能力がなく、過去の資産を食いつぶしてしまう――そんなイメージが、今も根強く残っています。
しかし、本当にそうでしょうか。ファーストリテイリングの柳井正氏は、父親が営んでいた紳士服店を引き継ぎ、ユニクロを世界的なアパレルブランドへと育てました。星野リゾートの星野佳路氏も、創業家四代目として軽井沢の温泉旅館を全国規模のホテル運営企業へと変えています。
両者に共通するのは、「先代がつくった事業を、そのまま守らなかった」ことです。会社を残し、さらに成長させるために、過去の成功モデルを時代に合わせて再定義しました。そして今、同じような変化が外食産業でも起きようとしています。
人手不足、コスト高騰、国内市場の成熟、海外展開、DX。創業者が会社を伸ばした時代と、後継者が経営を担う現在では、経営の前提そのものが違います。創業者のやり方を忠実に守ることが、必ずしも会社を守ることにはならないのです。
コスト高騰や市場の成熟に直面する現在の外食業界において、「二代目」の後継者たちはどのような舵取りを見せるのか。大戸屋やゼンショー、そしてナポリの窯という三社の現在地から、そのしたたかな生存戦略を紐解きます。
1. 「大戸屋らしさ」を変えて生き残った大戸屋
外食企業の承継を考えるうえで、象徴的なのが大戸屋です。大戸屋は、コロワイドによる敵対的TOBを経て、創業者時代の店づくりから大きく変わりました。店内で食材を仕込み、調理する手づくり感に「大戸屋らしさ」があり、私自身、当時の買収には否定的でした。中身が別のチェーンになってしまうのではないか、と考えていたからです。その見方は、今も大きくは変わりません。現在の大戸屋は、創業者時代の大戸屋とは違います。

ただし、もう一つの事実も見なければなりません。コスト高騰が続く現在、人手と技術を必要とする店内調理業態をそのまま維持することは極めて困難です。その環境下でも大戸屋は存続し、2026年3月期の売上収益は370億円を超えました。そして現在、大戸屋ホールディングスの代表取締役社長には、創業者の長男である三森智仁氏が就任しています。その背景に、コロワイドの調達力や経営インフラという「規模のメリット」があるのは間違いありません。
ブランドらしさを守ること
会社を生き残らせること
この二つは、必ずしも同じではありません。コロワイドの経営基盤があったからこそ、創業家出身の三森氏が経営の前面に立ち、「第3の創業」を掲げられるところまで会社が残ったともいえます。大戸屋は、その矛盾を抱えながら次の段階へ進もうとしています。
2. 経営を抱え込まなかったナポリの窯
宅配ピザチェーン「ナポリの窯」も、後継者の決断を考えるうえで興味深い事例です。創業者の死後、二代目が会社を承継しましたが、自ら経営権を抱え込まず、早い段階で外部資本に再建を委託しました。その後、2026年7月1日付で太洋物産の完全子会社となり、現在はいちごホールディングスの大塚康平社長のもとで新たな体制が組まれています。
さらに、YouTuberのヒカル氏が副社長執行役員CMOを務め、太洋物産では堀江貴文氏が社外取締役を務め、両者を前面に出した商品開発や情報発信も始まっています。従来のブランド像から見れば、かなり異質な変化です。「イロモノ化した」と見る人がいても不思議ではありません。しかし、大手3社(ピザーラ、ドミノ、ピザハット)やフードデリバリーがひしめく激しい市場環境を考えると、別の見方ができます。
ナポリの窯には商品力がある。しかし、大手ほどの広告量はない。消費者が注文するときに「思い出してもらう(想起される)」ためには、賛否を含めて話題をつくり、消費者の選択肢に戻る必要があったのです。これはブランドの美学を優先した戦い方ではありません。資本と発信力を外部から取り込み、市場で生き残ろうとする、割り切った経営です。
会社やブランドを残すために、自らの権限を手放し、外部へ託す。経営を抱え込まなかったこと自体が、ナポリの窯における二代目のしたたかさだったのかもしれません。
3. 1兆円企業を引き継ぐゼンショーの難しさ
そして、これから後継者としての真価が問われるのが、ゼンショーホールディングスの小川洋平社長兼CEOです。ゼンショーの創業者である小川賢太郎氏が2026年4月に逝去し、長男の小川洋平氏が後を継いでグループを率いています。引き継いだのは、経営再建を必要とする会社ではなく、2026年3月期の売上高1兆2,640億円、世界1万4,947店を誇る「日本最大の外食グループ」です。
完成された巨大企業を引き継ぐことは、業績不振の会社を立て直すこととは別の難しさがあります。既存事業を守るだけでは成長は止まり、急激に変えれば強みを失いかねません。しかも、ゼンショーは今も成長の途中です。海外を含む「グローバル中食」が連結売上高の17.6%を占めるまでに成長しているほか、直近では新会社「バーガー・ワン」を設立し、ハンバーガー市場への本格進出を打ち出しています。
牛丼、寿司、ファミレスに続く、ハンバーガーという「次の柱」の育成
創業者のカリスマだけに頼らない「組織経営」への脱皮
小川洋平氏に求められるのは、創業者の再現ではありません。創業者が掲げた「世界一の外食企業」という構想を受け継ぎながら、1兆円企業となった現在の規模に合わせて、経営の仕組みを進化させることです。ゼンショーは、外食産業における二代目経営の試金石になります。
まとめ:二代目が引き継ぐのは「成功」だけではない
創業者と後継者では、背負っているものが違います。創業者は自分の理想に合わせて会社をつくれますが、後継者は会社の「資産」と同時に、長く続いたことで生まれた「負担(老朽化、複雑化した組織、雇用、株主の期待)」もすべて引き継ぎます。
かつて成功した「店内で多くの手間をかけ、安い価格で提供するモデル」を維持することが、本当に創業者への忠誠なのでしょうか。むしろ、過去の成功体験を疑い、残すものと変えるものを冷静に分けることの方が、会社に対する責任のはずです。
大戸屋は、中身(構造)を変え、親会社の基盤を使って生き残った。
ナポリの窯は、経営を抱え込まず、外部の資本と発信力を利用して再生を図る。
ゼンショーは、偉大な土台をベースに、新会社でハンバーガー市場という新領域へ挑む。
三社の戦略は異なりますが、共通しているのは「創業者の時代をそのまま再現しようとしていない」ことです。後継者が問われるのは、創業者と同じ能力を持っているかではありません。創業者がつくった会社を客観的に見つめ、何を残し、何を変えるかを決断できるかです。
創業者の美学を守ることと、会社を次の時代へ残すこと。現実の経営でどちらかを選ばなければならない局面が来たとき、批判を受けながらも冷徹に会社を残す道を選ぶ。二代目に必要なのは、盲目的な忠誠ではありません。創業者の遺産を冷静に見つめ、必要であれば壊し、別の形で次の時代へ運ぶ。そのしたたかさこそが、これからの後継者に求められる力なのです。


