韓国のメガドリンクカフェはなぜ日本で増える?「安くて大きい」をおしゃれに変えた大容量ドリンクの強さ

日本のカフェで、コーヒーを気軽に買うことが以前より難しくなっている。コーヒー豆や人件費などの高騰を受け、低価格を強みにしてきたチェーンでも値上げが続く。コンビニコーヒーも、かつての「1杯100円」ではなくなった。
一方、都市部では、休憩しようにも席が見つからない「カフェ難民」が話題になる。価格が上がっても、座れるとは限らない。毎日のようにコーヒーを飲む人にとって、価格と使い勝手の両面で、店選びが悩ましくなっている。
そんな日本に、韓国発の低価格・大容量カフェが相次いで進出している。大きなカップに入ったコーヒーやラテを、手頃な価格で提供する。いわば「メガドリンク」を売りにする業態だ。ただ、その強さは量と安さだけではない。日本のカフェ市場で進む変化を見ると、韓国勢が入り込む余地が見えてくる。
韓国のメガドリンクカフェが相次いで日本へ
2026年8月には「Paik's Coffee」が東京・新橋に日本1号店を開業した。すでに「マンモスコーヒー」が東京・虎ノ門へ進出しているほか、「fave COFFEE」も大阪や神戸に出店している。さらに、「MEGA MGC COFFEE」も日本法人を設立し、日本進出を検討していると報じられている。

これらのブランドに共通するのは、大きなカップ、豊富なメニュー、手頃な価格、提供の速さだ。テイクアウトを中心に、通勤途中や仕事の合間に購入し、職場などへ持ち帰って飲む需要を取り込んでいる。
背景には、韓国国内の競争激化がある。カフェが街中にあふれ、国内だけで成長を続けることが難しくなる中、海外に新たな成長余地を求めている。ただ、進出する側に事情があっても、日本で支持されるとは限らない。重要なのは、日本側にも受け入れる条件が生まれていることだ。
日本のカフェが「空間」と「付加価値」を磨く理由
日本のカフェ市場では、店内で過ごす時間の価値が大きくなっている。禁煙化が進み、「たばこを吸えるかどうか」という従来の店選びの基準が弱まる中、居心地や利用目的への対応が、より重要になった。仕事をする、友人と話す、一人で休む。カフェには、飲み物に加えて、それぞれの時間を過ごせる場所としての役割が求められている。

同時に、コスト高への対応も必要だ。コーヒー豆や人件費などが上がれば、以前の価格を守り続けることは難しい。そこで、空間を磨いたり、フードを充実させたり、コーヒーの専門性を高めたりして、価格に見合う価値をつくる必要が出てくる。
ただ、すべての消費者が、コーヒーを買うたびに客席や充実したフードを求めているわけではない。「職場で飲むので、持ち帰れればよい」「毎日買うから価格を抑えたい」「少ない量では物足りない」。こうした需要もある。韓国の低価格・大容量カフェは、そこに焦点を当てている。
「長く過ごす」とは逆方向へ進む韓国カフェ
店内でゆっくり過ごす価値を磨くカフェに対し、韓国勢が強みにするのは、素早く買って持ち帰れることだ。職場などに飲む場所があれば、カフェで席を探す必要はない。出勤途中や昼休みに大きなカップを持ち帰り、自分のペースで飲める。
その意味で、新橋や虎ノ門といったビジネス街への出店には合理性がある。韓国ブランドに関心がある人だけでなく、日常的にコーヒーを飲む会社員へ直接アプローチできるからだ。
話題の店として一度訪れてもらうことと、毎日のように利用してもらうことでは、必要な条件が異なる。日常使いには、購入しやすい場所、手頃な価格、待ち時間の短さが重要になる。
日本のカフェ市場で空間の価値が高まる一方、韓国勢は「飲む場所は別にある人」に向けて、一杯の価格と容量、購入の利便性を磨いている。
小型店とテクノロジーで低価格を支える
韓国の低価格・大容量カフェを支えているのは、商品だけではない。小型店とテクノロジーを組み合わせた店舗運営にも特徴がある。
テイクアウト主体なら、広い客席を用意する必要がなく、店舗面積を抑えられる。さらに、モバイルオーダーや注文・受け取りのデジタル化によって、注文受付や会計、商品を受け渡す際の業務を効率化できる。客席への配膳や片付け、清掃などの負担も少ない。少人数で運営しやすいため、客席を多く備える業態と比べれば、人手不足の影響も受けにくい。家賃や人件費の負担を抑える仕組みが、手頃な商品価格を支えている。
もちろん、大容量の商品を低価格で販売するには、一定の販売数を確保し、効率よく提供する必要がある。テクノロジーを導入すれば、それだけで利益が出るわけではない。それでも、限られた人員で多くの注文に対応するうえで、業務の効率化は重要だ。
この店舗モデルは、出店場所の選択肢も広げる。オフィスビルの一角や駅周辺の小さな空き区画など、客席を備えたカフェには狭いスペースでも出店を検討できる。物件と人材の確保は、日本の外食企業にとっても成長を制約する要因になっている。その両方の負担を抑えながら、日常の動線に入り込める点からも、日本での展開余地は大きそうだ。
「安くて大きい」をおしゃれに変えた
大容量の商品は、ともすれば「デカ盛り」や節約のイメージに結び付きやすい。量が多いことは魅力でも、それだけでは、毎日持ち歩きたい商品になるとは限らない。韓国勢が巧みなのは、デザインや商品開発、SNSでの見せ方によって、安さと大きさを魅力に変えている点だ。
大きなカップは、街中でも目に留まりやすい。デザインが洗練されていれば、容量そのものが商品の個性になる。写真に撮って共有したくなる要素も生まれる。さらに、コーヒー以外のドリンクも豊富だ。ラテやお茶、甘いドリンクなどから選べれば、ブラックコーヒーを飲まない人も利用できる。毎回違う商品を試す楽しさもある。
手頃だから選ぶ人、大きさにひかれる人、見た目やメニューを楽しむ人。複数の来店理由をつくることで、価格だけに依存しない支持を得ようとしている。
コンビニと既存カフェの間に、新しい選択肢
持ち帰るコーヒーには、すでにコンビニという強い競争相手がいる。店舗が多く、買い物のついでに購入でき、品質も高まっている。
その中で韓国勢が定着するには、わざわざ店舗へ足を運ぶ理由が必要になる。大容量に加え、豊富なメニューやカスタマイズ、ブランドのデザインは、その理由になり得る。コンビニとは商品の選択肢で違いを出し、客席を備えたカフェとは、容量や購入の手軽さで違いを出す。
ただし、大きければ誰もが喜ぶわけではない。飲み切れる量や持ち運びやすさ、味の好みは人によって異なる。話題になった最初の一杯を、繰り返し買う一杯へ変えられるかが、定着を左右する。
韓国発のメガドリンクの広がりは、単なる韓国カフェ人気として捉えるだけでは不十分だ。日本の値上げやテイクアウト需要に加え、小型店と省人化によって低価格を支える店舗モデルにも、成長の可能性がある。
消費者にとっては、手頃な価格でたっぷり飲める。運営側にとっては、小さな区画に少人数で出店しやすい。需要と供給の双方に利点があるからこそ、韓国の大容量カフェは、日本で新しいカテゴリーとして広がる可能性を持っている。

