カフェ業界の現状を「4象限」で読み解く スタバ、ドトール、ベローチェ、ルノアールの競争領域

更新日:4 時間前
三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
以前、Yahoo!ニュース エキスパートで、カフェ市場を取り巻く競争環境について前後編の記事を書きました。
前編では、「スターバックス」「ドトールコーヒーショップ」「カフェ・ベローチェ」など大手カフェチェーンを中心に、禁煙化とコスト高によって競争軸がどのように変わっているのかを分析しました。(→ スタバ、ドトール、ベローチェの現在地。禁煙化とコスト高で始まる大手カフェの新競争【前編】)
後編では、中小の喫茶店や専門店、韓国発の低価格・大容量カフェ、コンビニなどにも視野を広げ、カフェ市場の競争相手がどこまで広がっているのかを取り上げました。( コーヒー豆高騰でカフェ市場に異変。中小店、韓国勢、コンビニが競う新時代【後編】)
その中でも、前編でカフェ市場を整理するために使ったのが、「吸う/吸わない」「高い/安い」という二つの軸です。スターバックス、ドトール、ベローチェ、ルノアール。いずれも一般には「カフェ」「喫茶店」として括られます。しかし、実際には同じ市場で、まったく同じ競争をしているわけではありません。
今回はYahoo!ニュースの記事をもとに、この「4象限」という視点に絞って、カフェ業界の現状と競争領域をあらためて整理してみます。
「吸う・吸わない」「高い・安い」でカフェ市場を見る
かつて喫茶店では、コーヒーの価格と同じくらい、「たばこを吸えるかどうか」が店選びの重要な基準でした。新聞や雑誌を読み、友人と話し、仕事の打ち合わせをし、ときにはコーヒーを飲みながらたばこを吸う。こうした過ごし方は、長く日本の喫茶店文化の一部でした。しかし、健康意識の高まりや法改正によって禁煙化が進み、現在では大手カフェチェーンの多くで客席禁煙が主流になっています。そこで、一つ目の軸を「吸う/吸わない」とします。
もう一つが「高い/安い」です。ここでいう高い・安いは、単純にコーヒー1杯の価格だけを比較するものではありません。低価格であること自体を競争力としているのか。それとも、空間、商品、サービスなどを含めて、価格への納得感をつくっているのか。この二つの軸で見ると、カフェ市場には大きく四つの競争領域が見えてきます。

そして重要なのは、各ブランドを四つに分類することそのものではありません。禁煙化とコスト高によって、この四つの領域の大きさや市場の重心が変化していることです。
「吸わない×高い」スターバックスがつくった新しい居場所
「吸わない×高い」を象徴する存在が、「スターバックス」です。「スターバックス」は1996年の日本進出当初から店内禁煙を打ち出しました。当時の日本では、喫茶店と喫煙がまだ強く結びついていました。その中で「スターバックス」は、自宅でも職場でもない「サードプレイス」を掲げ、たばこを吸う場所とは異なるカフェの価値を提示しました。

「スターバックス」はコーヒーだけを売ったわけではありません。座席、照明、音楽、接客、店舗デザインなどを含め、「そこで時間を過ごすこと」そのものに価値を持たせました。この方向は、その後のカフェ市場に大きな影響を与えました。
こうした「そこでどう過ごすか」を価値にする動きは「スターバックス」だけのものではありません。「コメダ珈琲店」は、ゆったりとした座席と充実した食事によって「くつろぎ」を提供します。「コナズ珈琲」は、ハワイを感じさせる内装や料理によって、日常から少し離れた「非日常」をつくっています。
「スターバックス」の「第三の居場所」、「コメダ珈琲店」の「くつろぎ」、「コナズ珈琲」の「非日常」。表現方法は違いますが、いずれもコーヒー1杯だけではなく、「そこでどう過ごすか」を価値にしている点では共通しています。禁煙化によって「たばこを吸えること」が店選びの理由ではなくなる中、代わって大きくなったのが「居心地」だったといえるでしょう。
「吸わない×安い」ドトールが磨いてきた日常利用
一方、「吸わない×安い」を代表するのが「ドトールコーヒーショップ」です。「スターバックス」が長く過ごす場所を磨いてきたのに対し、「ドトール」の強みは、日常の中で短時間でも使いやすいことにあります。駅前や繁華街にあり、仕事の合間や移動途中に立ち寄る。コーヒーを飲んで少し休み、また移動する。こうした利用に向いています。

また、価格も比較的抑えられており、気軽に利用しやすい点も特徴です。「ドトール」は、長時間滞在を前提とするよりも、多くの客が比較的短時間で利用することで、低価格帯でも店舗運営を成立させやすいビジネスモデルだといえるでしょう。
さらに「ドトール」は、豆の調達から焙煎までを自社で手掛けるなど、低価格を支える仕組みを長年構築してきました。コーヒー豆や人件費、物流費などのコストが上昇する中でも、低価格帯で大規模な店舗網を維持していること自体が強みになっています。
つまり、「スターバックス」と「ドトール」は、同じカフェでありながら、必ずしも正面から同じ競争をしているわけではありません。「スターバックス」が「そこで過ごす時間」を磨いてきたのに対し、「ドトール」は「日常の中で気軽に利用できること」を磨いてきたと整理できます。
ベローチェは「吸わない×安い」から動き始めた
現在のカフェ市場の動きを考える上で、特に興味深いのが「カフェ・ベローチェ」です。「ベローチェ」も長く、「ドトール」と同じ「吸わない×安い」の領域で存在感を持ってきました。しかし、この領域を取り巻く環境はいま大きく変わっています。

その原因は、コーヒー豆だけではありません。牛乳、卵、パンなどの食材、人件費、光熱費、物流費、テナント料まで上昇しています。その結果、「安い」という価値を維持すること自体が以前より難しくなりました。
「ベローチェ」でも値上げが進んでいます。同時に、店舗の改装やリニューアルを進め、空間価値の向上にも力を入れています。ここに現在のカフェ市場の動きがよく表れています。価格を上げざるを得ないのであれば、値上げした後にも選ばれる理由が必要になります。「安いから利用する店」から、「多少価格が上がっても利用したい店」への転換です。
つまり、「ベローチェ」は従来の「吸わない×安い」という領域にいながら、少しずつ価格以外の価値を強めています。もちろん、「スターバックス」と同じ領域へ完全に移動するという意味ではありません。重要なのは、これまで低価格そのものが強みだったブランドにも、「居心地」「商品」「体験」といった別の価値が必要になってきたことです。
「ベローチェ」の変化は、コスト高によってカフェ市場の競争領域が動き始めたことを象徴しているともいえます。
「吸える×高い」に残るルノアール
市場全体が禁煙へ向かう一方で、「吸えること」が完全になくなったわけではありません。その代表的な存在の一つが、「喫茶室ルノアール」です。

「ルノアール」は以前から、商談や待ち合わせなど、長時間過ごせる落ち着いた空間を強みにしてきました。さらに店舗によっては、現在も喫煙需要に対応しています。禁煙化が進む以前であれば、「たばこを吸えること」はそれほど珍しい価値ではありませんでした。しかし、吸える場所が減れば減るほど、残された場所には独自の価値が生まれます。ここは市場として興味深いところです。需要そのものは縮小していても、同時に供給する店も減っていく。その結果、一定の需要が残された店舗に集まります。
「ルノアール」は、「長居できる」「商談に使える」という以前からの価値に加え、喫煙需要の受け皿としても独自の位置を保っています。スターバックスとは同じ高価格帯にありながら、利用目的は大きく異なります。
縮小しても残る「吸える×安い」 プロントが狙う喫煙需要
4象限の中で、市場そのものが大きく縮小したのが「吸える×安い」という領域です。かつては、比較的手頃な価格でコーヒーを飲み、たばこを吸いながら時間を過ごせる喫茶店が街のあちこちにありました。しかし、禁煙化が進み、現在では大手カフェチェーンの客席は禁煙が主流になっています。
ただし、喫煙需要そのものがなくなったわけではありません。「ドトール」や「ベローチェ」「コメダ珈琲店」などでも、一部店舗には喫煙ブースなどが設けられています。客席全体を喫煙可能にするのではなく、限られたスペースで喫煙需要に対応する方法です。
その中で、より踏み込んだ対応をしているのが「プロント」です。

例えばPRONTO渋谷店では、フロアの一部を加熱式たばこを吸いながら飲食できる客席として設けています。これは、禁煙化によって縮小した市場の中にも、なお根強い需要が残っていることを示しています。「ルノアール」にも共通しますが、たばこを吸える店が減るほど、「吸えること」自体が来店理由になります。そのため、カフェ側にとっても喫煙者の需要を取り込む余地があります。
ただし、難しさもあります。喫煙可能な客席を広く設けても、常に喫煙者だけで席が埋まるとは限りません。非喫煙者が利用できない席が増えれば、時間帯によっては席の稼働率を下げる可能性があります。一方、喫煙スペースを小さくしすぎれば、せっかく残っている喫煙需要を十分に取り込めません。
つまり、「吸える×安い」の市場では、単に喫煙可能にすればよいわけではなく、店舗の中でどの程度の席を喫煙需要に割り当てるのかという設計が重要になります。市場全体で見れば、「吸える」領域は以前より確実に小さくなっています。しかし、需要がゼロになったわけではありません。むしろ供給する店が減ったことで、残された喫煙需要をどう取り込むかという競争も続いています。
禁煙化の次に起きた「居心地競争」
禁煙化によって「吸える」市場が縮小し、多くのカフェが「吸わない」側で競うようになりました。さらに、コスト高によって「安いこと」も維持しにくくなっています。そこで多くのカフェが磨いてきたのが「居心地」です。座りやすい椅子、広いテーブル、電源、Wi-Fi、店舗デザイン、食事、接客。コーヒー以外の要素が、店舗を選ぶ理由として大きくなっていきました。
ところが、居心地競争が成功したことで、新たな問題も生まれています。客が長く滞在するほど、席の回転率は下がります。特に都市部では、パソコンを広げて仕事をする人、勉強する人、本を読む人、友人と長時間話す人も多くいます。カフェはたくさんあるのに、休憩しようとすると座れない。いわゆる「カフェ難民」です。現在のカフェ不足とは、必ずしも店舗数の不足ではありません。「利用できる席」の不足でもあります。
カフェが「コーヒーを飲む場所」から「時間を過ごす場所」へ変わったことで、店舗数だけでは供給量を測れなくなってきました。禁煙化によって居心地競争が始まり、その居心地競争が長時間滞在を生み、結果として席不足が起きる。現在のカフェ市場には、こうした一連の変化があります。
次に問われるのは「なぜ、その店を選ぶのか」
ベローチェの動きに象徴されるように、低価格だけで差別化することは難しくなっています。そこで次に重要になるのが、各ブランドがどのような理由で選ばれるのかという点です。
「タリーズコーヒー」であれば、コーヒーやティーの専門性があります。「サンマルクカフェ」には「チョコクロ」という分かりやすい看板商品があります。「コメダ珈琲店」には食事とくつろぎがあり、「スターバックス」にはブランドと空間があります。「ドトール」は、低価格と短時間利用のしやすさを強みにしています。つまり、価格帯が近づけば近づくほど、競争は「安いか、高いか」だけでは決まりません。商品、空間、専門性、食事、接客、ブランド、利便性など、選ばれる理由そのものが重要になります。
かつては、「たばこを吸える」「安い」といった比較的分かりやすい基準が、店選びの大きな理由になっていました。しかし現在は、それだけでは差がつきにくくなっています。「居心地」も、もはや一部の高価格帯だけの武器ではありません。多くのブランドが店舗環境を磨けば、今度はその先にある違いが問われます。
現在のカフェ市場では、「どの価格帯で戦うか」だけではなく、「何を理由に選ばれるのか」をめぐる競争が始まっているといえるでしょう。
カフェ市場は「価格」から「過ごし方」の競争へ
「吸う/吸わない」「高い/安い」という4象限で見ると、現在のカフェ市場では、それぞれの領域が固定されているわけではないことが分かります。
禁煙化によって「吸える」領域は縮小する一方、残された喫煙需要を取り込む店もあります。コスト高によって「安い」領域を維持する難しさが増せば、低価格を強みにしてきたブランドにも、新たな価値が必要になります。
カフェ市場の競争は、単に「どこが安いか」「どこが高いか」ではなく、消費者がその店でどう過ごしたいのかに、どこまで応えられるかという競争へ広がっているといえるでしょう。


