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1兆円目前のラーメン業界で何が起きているのか。一風堂・町田商店・魁力屋に見る国内競争と海外戦略

  • 執筆者の写真: 三輪大輔
    三輪大輔
  • 8月13日
  • 読了時間: 7分

更新日:1 日前

                         三輪大輔|外食ビジネスアナリスト


ラーメン市場が大きな転換点を迎えている。


帝国データバンクによると、2025年度のラーメン店市場は8855億円となる見込みで、10年前の5418億円から63.4%拡大した。現在の成長が続けば、早ければ2027年度にも1兆円市場へ到達する可能性がある。


ところが、ラーメン店を取り巻く経営環境は決して順風満帆ではない。原材料費、人件費、光熱費は軒並み上昇している。麺や豚肉、背脂、海苔、メンマなど幅広い食材が値上がりする一方、ラーメンには長年「1000円の壁」があると言われてきた。近年は1000円を超える商品も珍しくなくなったとはいえ、他の外食業態ほど価格転嫁が容易なわけではない。


東京商工リサーチによると、2025年度のラーメン店の倒産は57件となり、過去2番目の高水準となった。店は淘汰されている。それなのに、市場は過去最大となり、1兆円に近づいている。一見すると矛盾しているように見えるが、ここに現在のラーメン業界を理解する重要なポイントがある。


ラーメン市場は単純に店舗数を増やしながら成長しているのではない。プレーヤーの入れ替わりと企業への集約を進めながら、大きくなっているのである。


ラーメン企業が「ラーメン企業」を買う

その象徴の一つがM&Aだ。


まず目立つのが、ラーメン企業による同業の買収である。魁力屋を中核とするSAKIGAKEホールディングスは、「肉そばけいすけ」などを展開するグランキュイジーヌを傘下に収め、さらに「三田製麺所」などを展開するエムピーキッチンホールディングスもグループ化した。かつての「魁力屋」という単一ブランドを中心とした企業から、複数のラーメンブランドを束ねる企業グループへと姿を変えつつある。


「三田製麺所」の店舗。魁力屋を中核とするSAKIGAKEホールディングスは、2026年に「三田製麺所」などを展開するエムピーキッチンHDを傘下に収め、多ブランド化を進めている
「三田製麺所」の店舗。魁力屋を中核とするSAKIGAKEホールディングスは、2026年に「三田製麺所」などを展開するエムピーキッチンHDを傘下に収め、多ブランド化を進めている

ギフトホールディングスも同様だ。主力の「町田商店」に加え、「豚山」「元祖油堂」「長岡食堂」など、異なる特徴を持つブランドを展開している。


こうした多ブランド化には、単純に店舗数を増やす以上のメリットがある。まず、規模が大きくなれば仕入れ量をまとめることができ、原材料の調達力を高めやすい。1000円前後という価格の壁を意識しながら原価上昇を吸収しなければならないラーメン店にとって、調達力はそのまま収益力につながる。


さらに大きいのが、出店の選択肢だ。一つのブランドしか持っていなければ、そのブランドに適した物件を探さなければならない。しかし複数ブランドを持っていれば、繁華街ならこのブランド、ロードサイドならこのブランド、若年層の多い場所ならこの業態と、立地や客層に応じて選択できる。ブランドが増えることで、出店できる物件そのものが増えるのである。


これは、外食企業で進んでいるポートフォリオ経営と同じ流れだ。かつて「鳥貴族」への依存度が高かったエターナルホスピタリティグループが、複数ブランドを持つ企業へ変わろうとしているのと同様に、ラーメン企業も単一ブランド一本足から脱却し始めている。


外食大手もラーメンを取り込む

もう一つ、ラーメン市場で進んでいるのが、ラーメンを主力としてこなかった外食企業による参入である。松屋フーズホールディングスは、「六厘舎」「舎鈴」などを展開する松富士を子会社化し、ラーメン領域へ本格的に参入した。「CoCo壱番屋」を展開する壱番屋も、「麺屋たけ井」などを傘下に収め、ラーメン事業を広げている。


「六厘舎」の店舗。松屋フーズHDは2026年、「六厘舎」「舎鈴」などを展開する松富士を子会社化し、ラーメン領域へ本格参入した
「六厘舎」の店舗。松屋フーズHDは2026年、「六厘舎」「舎鈴」などを展開する松富士を子会社化し、ラーメン領域へ本格参入した

こちらはラーメン企業同士のM&Aとは少し意味が違う。ラーメン企業側では、複数ブランドを持つことで寡占化と多ブランド化を進めている。一方、松屋フーズHDや壱番屋のような企業にとっては、自社の事業ポートフォリオに新しい成長分野を加える意味が大きい。牛めしだけ、カレーだけに依存するのではなく、別の市場を取り込む。


しかもラーメンには海外という成長余地もある。日本式ラーメンはすでに世界的な知名度を持つ。既存の海外店舗網や現地法人、出店ノウハウを持つ外食企業にとって、国内で取得したラーメンブランドを将来的に海外へ広げる選択肢も考えられる。ラーメン市場が1兆円へ近づく中、ラーメン企業だけでなく外食産業全体から資本が流れ込む理由がここにある。


倒産が増えても市場は拡大する理由

この動きを見れば、「倒産が相次いでいるのになぜ市場は拡大するのか」という疑問も見えてくる。


個店の淘汰が進み、倒産件数は増える。しかしその一方で、ラーメン企業による同業の買収や、外食大手によるラーメン事業の取り込みが進み、ブランドや店舗は資本力のある企業へ集約されている。そこで資金、人材、調達力、店舗開発力が投入されれば、一つのブランドが数店舗から数十店舗へ成長する可能性も生まれる。それが成長エンジンとなり、店舗数の増加につながる。


つまり現在のラーメン市場では、「個店が減ること」と「市場が縮小すること」が必ずしも同じではない。むしろ企業数は集約されながら、強い企業やブランドの店舗数が増える。こうした寡占化とポートフォリオ経営が市場の成長を支え、ラーメン市場は1兆円へ向かっている。


次の主戦場は海外へ

そして、この国内再編の先にあるのが海外だ。


日本のラーメンチェーンの海外進出を語るうえで外せないのが「一風堂」である。一風堂は、日本式ラーメンが現在ほど世界に浸透していなかった時代から海外へ進出し、直営、合弁、ライセンスなどを使い分けながら「IPPUDO」のブランドを世界各地に広げてきた。海外ラーメン進出の第一世代といっていい。その功績は大きい。一風堂などの先行企業が市場を切り開いたことで、「RAMEN」は世界で通用する食文化になった。


「一風堂」の海外店舗。日本式ラーメンの海外展開を先導してきた代表的な存在で、現在は世界各地に店舗網を広げている
「一風堂」の海外店舗。日本式ラーメンの海外展開を先導してきた代表的な存在で、現在は世界各地に店舗網を広げている

しかし、先行したからこその課題も出ている。力の源ホールディングスの2027年3月期第1四半期は増収ながら大幅減益となり、海外店舗事業の利益は前年同期比79.6%減となった。世界各国に店舗網が広がれば、人件費、賃料、原材料費、景気、消費動向など、それぞれ異なる市場環境に対応しなければならない。海外進出の課題は「店を出せるか」から、「広げた店舗網でどう利益を残すか」へ移ったのである。


第二世代は「仕組み」を持っていく

そこで注目されるのが、第二世代のギフトホールディングスだ。ギフトHDは「町田商店」を中心に海外展開を加速しているが、その方法は一風堂とは少し異なる。まず直営店や合弁によって地域ごとの店舗モデルをつくる。その上で、そこで得た運営ノウハウをFCやプロデュース店へ横展開していく。国内で磨いた店舗運営だけではない。製造、物流、食材供給、原価管理、FC運営など、チェーンを拡大するための仕組みそのものを海外へ持ち込もうとしている。


中期経営計画では、海外店舗を2028年10月期に122店まで増やす計画を掲げる。第一世代が日本式ラーメンという「ブランド」を世界へ広げたとすれば、第二世代は日本で完成させた「チェーン経営」を輸出する。海外展開そのものが、次の段階へ入っている。


第三世代は成功確率を高めてから広げる

さらに第三世代として注目したいのが魁力屋だ。魁力屋は台湾に100%出資子会社を設立し、まず直営で店舗を展開している。


特徴的なのは、いきなり世界各国へ広げるのではなく、まず台湾という一つの市場を深掘りしていることだ。台湾で店舗運営や商品、立地の成功モデルをつくった上で、周辺アジアへの展開を視野に入れる。これは、海外で直営モデルを磨きながら展開してきた「くら寿司」にも通じる。


第一世代の一風堂は市場そのものを開拓した。

第二世代のギフトHDは、日本で磨いたチェーン経営の仕組みを海外へ持ち込む。

第三世代は、それらの成功と課題を見た上で、自社に合った進出方法を最初から設計できる。


後発だからこその強さである。


ラーメンは「経営モデル」を競う産業へ

国内では、原価高と1000円の壁を背景に、小規模店の淘汰が進む。その一方で、大手はM&Aによってブランドを増やし、調達力と出店力を高める。さらに総合外食企業も、ポートフォリオ経営の一環としてラーメン市場へ参入する。


そこで磨かれるのは、単に「おいしいラーメンをつくる力」ではない。ブランドをどう組み合わせるのか。原価をどうコントロールするのか。どの立地にどのブランドを出すのか。M&Aで取得したブランドをどう育てるのか。企業としての経営力である。そして、その経営力を持った企業が次に世界へ向かう。


ラーメンチェーンの海外戦略は、多国展開を急ぐ時代から、自社に合った進出方法を選び、成功確率と収益性を高めながら長期成長を目指す時代へ変化した。成功の定義が変わり、新たな競争が始まる。国内では寡占化とポートフォリオ経営が進み、海外では進出モデルの進化が始まっている。1兆円市場を目前に、日本のラーメン業界は「一杯の味」を競うだけの産業から、「経営モデル」を競う産業へ変わろうとしている。


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