「ウエスト」のうどんは東京都心で広がるか――地元の人気を新市場で生かすには

三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
ウエストの東京進出に見る商機と課題
福岡発の「ウエスト」が11月2日、東京・神保町に「博多うどんウエスト」をオープンした。
ウエストは、資さんうどん、牧のうどんとともに「福岡三大うどん」と呼ばれるチェーンの一つだ。以前から町田や千葉などでもうどんを提供しており、今回が初めての東京進出というわけではない。ただ、都心で博多うどんを前面に打ち出し、昼の食事に加えて夜の居酒屋需要も取り込む今回の出店は、新たな顧客を開拓する挑戦といえる。資さんうどんや因幡うどんの進出によって、福岡発のうどんへの関心は高まっている。ウエストにも、その追い風を生かす商機がある。
一方、地方で長く支持されてきた店が、新しい市場でも選ばれるためには、商品や営業方法の強みを伝える必要がある。今回の出店からは、地方発チェーンが成長するうえでの広報の課題も見えてくる。
讃岐うどんが定着した今、柔らかな麺に商機
2000年代初頭の讃岐うどんブームと、その後のセルフ式チェーンの拡大によって、コシのあるうどんが全国に定着した。丸亀製麺やはなまるうどんなどを通じて、うどんに天ぷらやおにぎりを組み合わせ、手頃な価格で食事をするスタイルも日常になった。讃岐うどんは、ブームを経て身近な外食の選択肢になったのである。
その中で、福岡発のうどんは、異なるおいしさを提示している。柔らかくもちもちした麺と、だしのうまみを楽しめることが魅力だ。もちろん、福岡県内でも地域や店によって違いはある。北九州発祥の資さんうどんも、口当たりは柔らかいが、中にはもちもちした弾力がある。「福岡のうどんはすべて同じ食感」というわけではない。それでも、しっかりした歯応えとは違う、柔らかな口当たりを求める人に応えられる点には商機がある。

高齢化が進む中、食べやすさは日常食を選ぶうえでの価値にもなる。高齢化が現在の人気を直接押し上げていると断定はできないが、強い歯応えを負担に感じる人にとって、柔らかい麺は選択肢になり得る。子どもを含め、幅広い世代で利用しやすいことも強みだろう。
資さんうどんが広げた「福岡発」への関心
ウエストにとって、資さんうどんの首都圏での成功も追い風となる。地域で有名なチェーンでも、進出先では、店名だけで味や利用場面まで伝わるとは限らない。「聞いたことはあるが、何が特徴なのかわからない」という人も多いはずだ。
その点、資さんうどんの進出によって、福岡発のうどんを知り、実際に食べる機会が増えた。柔らかな麺やごぼう天などへの関心が、ほかのブランドに向かう可能性もある。
原宿の商業施設「ハラカド」には因幡うどんも出店した。複数の店が登場することで、福岡発のうどんが、一つの店だけの話題から、食文化として関心を持たれるようになれば、ウエストにも来店のきっかけが生まれる。
ただし、その関心が自動的にウエストの固定客を増やすわけではない。初めての来店を促すうえでは「福岡発」という共通点が役立っても、再来店には、ウエスト自身の味や価格、接客、使い勝手への評価が必要だ。
約7900億円の市場で、うどんの楽しみ方が広がる
うどん市場は、セルフサービス業態が約2000億円、フルサービス業態が約5900億円で、合わせて約7900億円規模とされる。「焼肉きんぐ」や「丸源ラーメン」を展開する物語コーポレーションも、「肉讃岐 もっちりうどん源次郎」で参入した。大手企業が新たな業態を投入する、成長機会のある市場でもある。
そもそも、うどんを提供する店の役割は幅広い。短時間で食事を済ませられるセルフ式もあれば、サガミのように家族で和食を楽しむ店もある。山田うどん食堂や資さんうどんのように、うどんに加えて丼物や定食などを選べる、食堂としての役割を持つ店もある。
うどんという共通の商品があっても、客が求めるものは同じではない。麺を味わいたい日もあれば、家族それぞれが好きなものを食べたい日もある。食事と一緒にお酒を楽しみたい場合もあるだろう。
多様なプレイヤーが、それぞれの食感や商品、接客、利用場面の違いを打ち出すことで、うどんを選ぶ楽しさは増していく。競争が市場への関心を高め、新たな利用につながる可能性もある。
都心の賃料を支える、昼と夜の売上
もっとも、市場に商機があることと、個々の店舗で採算が取れることは別である。うどんは手頃に食べられることが魅力の一つだ。その価格への期待に応えながら、賃料や人件費の高い都心で営業するには、一日を通じて売上を確保する工夫が必要になる。
そこで注目されるのが、ウエスト神保町店の昼と夜の使い分けだ。昼はうどんを中心とした食事需要を取り込み、夕方からは居酒屋メニューも提供する。昼の食事だけで売上をつくろうとすれば、限られた時間に多くの客数が必要になる。夜にも利用する理由を用意することで、同じ店舗や厨房を活用しながら、売上を積み上げられる。お酒や料理の追加注文によって、昼とは異なる客単価も見込める。昼にうどんを食べた客が、今度は仕事帰りに一杯飲みに来る。夜に利用した客が、昼の食事でも訪れる。そうした利用の広がりをつくれれば、店の存在感は強くなる。
開業時の行列や話題性だけで、成功を判断することはできない。近隣で働く人や暮らす人に、繰り返し選んでもらえるかが重要だ。
書きたいと思っても、写真が見つからない
一方、今回の出店について筆者がもったいないと感じたのは、発信に必要な情報や素材を得にくかったことである。
記事を書こうと情報を探したが、掲載に使える商品写真や店舗写真、出店の特徴をまとめた資料には、たどり着きにくかった。メディア向けの試食会やレセプションについても、筆者が確認した範囲では情報を把握できなかった。
個別に案内していた可能性もあるため、開催していないと断定することはできない。しかし、取り上げたいと考える書き手がいても、素材がそろわなければ、記事にする際のハードルは高くなる。
特に今回は、昼のうどんと夜の居酒屋という、写真や体験を通じて伝えたい特徴がある。麺や天ぷらを見れば、食べたいという気持ちが生まれる。夜の料理や店内の写真があれば、仕事帰りに立ち寄る場面も想像できる。試食や取材の機会があれば、食感やだしの特徴、店の使い方まで具体的に伝えられる。
出店への関心が高まる時期に、そうした材料が届かないのは、認知を広げる機会を十分に生かせていないということでもある。
商品力を、知ってもらう力につなげられるか
地方発チェーンにとって、東京進出は大きな市場に成長機会を求める挑戦である。物件を確保し、人を採用し、地元で培った味を再現する。出店には多くの準備と投資が必要になる。そこで生み出した価値を、認知や来店につなげる役割を担うのが広報だ。
商品写真、店舗写真、メニュー、ブランドの説明、取材窓口がわかりやすくそろっていれば、媒体も取り上げやすい。公式サイトやSNSから情報を得られれば、記事を読んで興味を持った人も、来店を検討しやすくなる。
資さんうどんは、すかいらーく傘下で出店を拡大している。その展開を考える際も、店舗を増やす力に加えて、新たな地域で店を知ってもらうための発信に目を向ける必要があるだろう。
ウエストには、福岡で長く支持されてきた商品があり、昼夜の需要に応える営業方法もある。東京で支持を広げる商機は十分にあると考える。だからこそ、その強みを伝える機会を生かしてほしい。店を知らなかった人が興味を持ち、一度訪れ、気に入って通うようになる。その最初の接点を増やすことも、新しい市場で店を育てる仕事である。
資さんうどんは愛知県への進出も予定している。福岡発のうどんが全国へ広がる中、商品を届ける力と、その魅力を伝える力の両方が問われていく。


