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【外食企業の現在地】物語コーポレーションがロードサイド戦略を加速。「焼肉きんぐ」に続く新業態を次々と生み出せる理由

  • 執筆者の写真: 三輪大輔
    三輪大輔
  • 5 日前
  • 読了時間: 10分

更新日:3 日前

                         三輪大輔|外食ビジネスアナリスト


物語コーポレーションが攻めている。


2023年には郊外型カフェ「果実屋珈琲」、2025年には「熟成肉とんかつ ロース堂」、2026年には「町中華 丸福飯店」、さらにフルサービスのうどん業態「肉讃岐 もっちりうどん源次郎」をオープンした。焼肉、ラーメン、しゃぶしゃぶといった既存の柱を持ちながら、カフェ、とんかつ、町中華、うどんと、これまで本格的に展開してこなかった分野へ事業領域を広げている。


「熟成肉とんかつ ロース堂」。物語コーポレーションが2025年に立ち上げた、とんかつの新業態。郊外ロードサイドで家族連れに選ばれる店づくりを目指す。
「熟成肉とんかつ ロース堂」。物語コーポレーションが2025年に立ち上げた、とんかつの新業態。郊外ロードサイドで家族連れに選ばれる店づくりを目指す。

近年の外食業界では、新たな市場へ参入する際、M&Aを活用するケースが目立つ。すかいらーくホールディングスは資さんうどんを買収し、ゼンショーホールディングスはロッテリアを買収してゼッテリアへの転換を進めた。既に知名度や店舗網を持つブランドを取得し、自社の経営資源を組み合わせて成長させることは、現在の外食業界では有力な成長戦略となっている。


しかし、物語コーポレーションは異なる道を歩んでいる。一定規模まで成長した外食企業でありながら、毎年のように自社で新業態を立ち上げていることは注目に値する。


もちろん、手当たり次第にブランドを増やしているわけではない。扱う商品は異なっても、狙う市場は重なっている。駐車場を備えた郊外のロードサイドで、子どもから高齢者まで幅広い世代が利用でき、家族の食事の選択肢となる店を増やす。カフェ、とんかつ、町中華、うどんという身近な外食を、物語コーポレーションが得意とする「郊外のロードサイドで家族連れに選ばれる業態」へと仕立て、自社ブランドの接点を面的に広げようとしているようにも見える。


「業態開発型リーディングカンパニー」とは何か

こうした動きは、思いつきによるものではない。物語コーポレーションは、2030年に向けた中長期戦略「物語ビジョン2030」で、「業態開発型リーディングカンパニー」を目指す姿として掲げている。2030年6月期には、直営店とフランチャイズ店を合わせたグループ店舗売上高3000億円、連結売上高2200億円、経常利益率10%を目標とする。さらに、既存店の売上高と客数をプラス成長させ、海外売上高比率を10%以上へ引き上げる方針だ。


そのための成長戦略は、大きく三つに分けられる。一つ目は、「焼肉きんぐ」「丸源ラーメン」「寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵」など、既存ブランドの競争力を高めること。二つ目は、新業態や新事業を開発し、新たな収益の柱を育てること。そして三つ目が、中国や東南アジア、米国などで海外事業を拡大することだ。


「物語ビジョン2030」で掲げる3つの成長戦略。既存ブランドの強化、新業態・新事業の開発、海外事業の拡大を柱に成長を目指す。(2026年6月期第3四半期決算説明資料より)
「物語ビジョン2030」で掲げる3つの成長戦略。既存ブランドの強化、新業態・新事業の開発、海外事業の拡大を柱に成長を目指す。(2026年6月期第3四半期決算説明資料より)

現在の新業態ラッシュは、業績に余裕があるから実験的に店を出しているわけではない。「業態開発型リーディングカンパニー」という中長期戦略を実行し、次の成長の柱を生み出そうとする動きなのである。


焼肉きんぐがファミリー層に支持される理由

その土台となっているのが、主力ブランド「焼肉きんぐ」の成長だ。焼肉きんぐは、焼肉店を取り巻く経営環境が厳しくなる中でも店舗数を増やし、国内で370店規模まで成長した。物語コーポレーション全体の業績も、売上高、利益ともに過去最高水準を更新している。


主力ブランド「焼肉きんぐ」。ファミリー層を中心に支持を集め、物語コーポレーションの成長を支える収益の柱となっている。
主力ブランド「焼肉きんぐ」。ファミリー層を中心に支持を集め、物語コーポレーションの成長を支える収益の柱となっている。

私自身も、子どもを連れて焼肉きんぐを利用することがある。実際に利用して感じるのは、子ども連れでも使いやすく、高齢者と一緒でも利用しやすいことだ。幼児は無料、小学生は半額、シニアには割引があり、祖父母を含む三世代で訪れても会計額を予測しやすい。食べ放題であれば、家族それぞれが食べる量や注文する商品が違っても、最終的な支払額は大きく変わらない。外食価格が上昇し、単品注文では会計額を読みづらくなる中、この安心感は大きい。


また、一般的なビュッフェ形式とは異なり、タッチパネルで注文した料理が席まで運ばれてくる。子どもを席に残して料理を取りに行く必要がなく、家族全員が席に着いたまま食事や会話を楽しめる。


焼肉きんぐの強さは、単に安く大量に食べられることではない。子どもから高齢者まで、家族で利用した際の不便や不安を減らし、食事の時間そのものを楽しみやすくしていることにある。


DXによる効率化を人と商品への投資に変える

もちろん、こうした価値を維持するのは簡単ではない。牛肉をはじめとする原材料費、人件費、光熱費、物流費は上昇を続けている。特に食べ放題は原価率が高くなりやすく、本来であれば、さらに値上げしたい局面もあったはずだ。それでも焼肉きんぐは、できる限り価格を維持しながら、原材料と人の両方に手間とコストをかけている。


それを可能にしているのが、店舗数を生かした仕入れ力と、DXによる店舗運営の効率化だ。タッチパネル注文、配膳レーン、配膳ロボットなどを活用し、注文を受ける、料理を運ぶといった作業を効率化する。一方で、スタッフは網の交換、焼き方の案内、客席への目配り、子どもへの声掛けなど、人にしかできない接客へ力を注ぐ。


重要なのは、DXの目的を単なる人件費削減に置いていないことだ。機械やシステムに任せられる作業は効率化し、そこで生まれた時間やコストを、人と商品へ再投資する。人を減らすためではなく、人が価値を生み出す部分へ集中できる環境をつくっている。


その結果、顧客満足度が高まり、客数が増え、さらなる出店が可能になる。店舗数が増えれば、仕入れや物流、システム投資の効率も高まり、そこで生まれた余力を再び人と商品へ投資できる。DXで効率化する。人と商品に投資する。顧客満足度が高まる。さらに出店する。この成長サイクルが、焼肉きんぐの強さを支えている。


焼肉きんぐの成功モデルを他業態へ横展開

物語コーポレーションの特徴は、このノウハウを焼肉きんぐだけにとどめていないことだ。

「丸源ラーメン」は、看板商品の肉そばを軸にしながら、子ども向けメニューやサイドメニューをそろえ、家族で利用できるラーメン店として成長してきた。「寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵」も、寿司としゃぶしゃぶの食べ放題を組み合わせ、家族の祝い事や三世代での食事に利用されている。


主力ブランド「丸源ラーメン」。家族連れでも利用しやすい郊外型ラーメン店として成長し、焼肉きんぐと並ぶ物語コーポレーションの柱となっている。
主力ブランド「丸源ラーメン」。家族連れでも利用しやすい郊外型ラーメン店として成長し、焼肉きんぐと並ぶ物語コーポレーションの柱となっている。

焼肉、ラーメン、しゃぶしゃぶでは、商品も厨房設備も店舗運営も異なる。それでも、郊外のロードサイドを中心に出店し、駐車場を備え、子どもから高齢者までが利用できる店をつくるという基本構造は共通している。


立地の選び方、店舗設計、価格帯、メニュー構成、スタッフ教育、DX、予約管理、広告宣伝、フランチャイズ展開。物語コーポレーションは、複数のブランドを自社で育てる過程で、家族客を集める郊外型チェーンを成立させるためのノウハウを蓄積してきた。そのため、カフェ、とんかつ、町中華、うどんと扱う商品が変わっても、既存ブランドで培った知見を横展開できる。


新しい店を一店舗開くだけなら、決して珍しくない。しかし、焼肉きんぐや丸源ラーメンを数百店規模まで育てた会社が、新たな分野へ参入するとなれば意味は異なる。物語コーポレーションは、店を開発するだけでなく、多店舗展開が可能なブランドへ磨き上げる方法を知っているからだ。


複数ブランドがロードサイド出店を強くする

自社で複数の業態を持つことは、店舗開発の面でも強みになる。


例えば、ある商圏では焼肉きんぐが適していても、周辺の人口構成や競合状況によっては、丸源ラーメンやゆず庵、果実屋珈琲の方が適している場合がある。焼肉だけを展開している企業であれば、焼肉店に適さない物件は見送らざるを得ない。しかし、複数の業態を持っていれば、一つの物件に対して、どのブランドが最も商圏に合うかを検討できる。


新業態を増やすことは、単に売上の柱を増やすだけではない。出店可能な立地の幅を広げ、物件開発の機会を取りこぼしにくくすることにもつながる。焼肉きんぐ、丸源ラーメン、ゆず庵、そして新業態を組み合わせることで、ロードサイドにおける自社ブランドの接点を、点ではなく面として広げることができる。これも、同社が新業態開発を進める理由の一つだろう。


M&Aではなく自社開発を軸にする理由

自社開発には、ブランドを一からつくる難しさがある。商品開発、価格設定、店舗設計、従業員教育、オペレーションの構築など、全てを自社で積み上げなければならない。一号店が好調でも、二号店、三号店で同じ売上や品質を再現できるとは限らない。それでも物語コーポレーションが自社開発を続けられるのは、業態開発のノウハウだけでなく、それを現場で動かす人材を重視してきたからでもある。


同社は「個」の尊厳を「組織」の尊厳より上位に置き、従業員一人一人が豊かで幸せな「自分物語」を歩むことを応援する姿勢を掲げている。「物語ビジョン2030」でも、「業態開発力」と「人財力」を競争力の中心に置いた。


物語コーポレーションは「業態開発力」と「人財力」を競争力の源泉に位置付け、成長戦略を描いている。(2026年6月期第3四半期決算説明資料より)
物語コーポレーションは「業態開発力」と「人財力」を競争力の源泉に位置付け、成長戦略を描いている。(2026年6月期第3四半期決算説明資料より)

物語コーポレーションの業態は、DXや仕組み化だけで成立しているわけではない。スタッフが客席を見て網を交換する。商品の特徴やおいしい食べ方を伝える。子どもや高齢者にも目を配る。効率化された店舗運営の上に、人の接客を重ねることで、ファミリー層の満足度を高めている。


自社で業態を立ち上げれば、店舗づくりの段階から、こうした人材育成や接客の考え方を組み込める。物語コーポレーションにとって新業態開発は、商品や店舗をつくるだけではない。自社の文化を体現する人材を育て、その人材がブランドを成長させる仕組みまで含んでいる。


ただし、物語コーポレーションがM&Aそのものを否定しているわけではない。米国では鉄板焼きレストランを運営する企業をグループ化し、現地市場への参入を進めている。市場への参入障壁が高く、既存の店舗網や地域での知名度が重要になる場合には、M&Aを活用する。


つまり、全てを自前で行うことに固執しているわけではない。国内やアジアなど、自社の業態開発力を生かせる市場では、自らブランドをつくる。一方、買収によって参入した方が合理的な市場ではM&Aを使う。物語コーポレーションの強みは、M&Aに頼らないことではなく、自社で成長エンジンを生み出せるため、M&Aだけに依存する必要がないことにある。


中国発の「肉肉大米」で海外市場を開拓

国内で培った業態開発力は、海外にも広がっている。その象徴が、中国で開発した「肉肉大米」だ。ハンバーグとご飯を組み合わせた業態で、中国市場に合わせて開発し、その後、台湾や香港、東南アジアへ展開してきた。国内ブランドをそのまま海外へ持ち込むのではなく、現地の食文化や消費者ニーズを踏まえて新しい業態を開発し、それを別の国や地域へ広げている。


ここにも、物語コーポレーションの業態開発型企業としての特徴が表れている。同社が目指しているのは、日本で成功した焼肉きんぐや丸源ラーメンを海外へ輸出することだけではない。市場ごとに需要を捉え、新しいブランドをつくり、育てることだ。


「業態開発型リーディングカンパニー」という言葉は、国内の新業態開発だけを意味するものではない。自社でブランドを生み出す力を、海外市場でも成長のエンジンにしようとしている。


焼肉きんぐに続く新業態は育つのか

もちろん、果実屋珈琲、ロース堂、丸福飯店、源次郎の全てが、焼肉きんぐや丸源ラーメンと同じ規模へ成長するとは限らない。カフェ、とんかつ、町中華、うどんは、いずれも既存の専門チェーンや地域の人気店が存在する競争の激しい市場だ。一号店が好調でも、多店舗展開の過程で商品やサービスの品質を維持できるかは別の問題である。


それでも、物語コーポレーションの挑戦には期待を持てる。その理由の一つは、焼肉きんぐという好調な収益の柱を持っていることだ。主力ブランドが安定して売上と利益を生み出しているからこそ、新業態の開発や出店、人材育成に継続して投資できる。新業態は必ず成功するとは限らず、軌道に乗るまでには時間も費用もかかる。複数の業態で試行錯誤を続けられること自体、既存事業の強さの表れといえる。


さらに、物語コーポレーションは、焼肉きんぐや丸源ラーメンを育てる中で、郊外の家族客を集め、店舗を効率的に運営し、人の接客によって満足度を高め、多店舗化する方法を蓄積してきた。焼肉きんぐの成功はゴールではない。主力ブランドを370店規模まで育てた、勝ち方を知る会社が、その利益とノウハウを手に、次の勝負を始めている。


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