【外食企業の現在地】なぜサンマルクHDは「牛カツ京都勝牛」を買収したのか?証券出身の藤川社長の下、チョコクロの会社が挑むグローバル戦略
- 三輪大輔

- 3 日前
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更新日:1 日前
三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
サンマルクHDの動きが興味深い。
サンマルクホールディングス(以下、サンマルクHD)といえば、多くの人がまず思い浮かべるのは「サンマルクカフェ」だろう。看板商品の「チョコクロ」は広く知られており、駅前や商業施設で見かける身近なカフェチェーンとして定着してきた。
しかし、現在のサンマルクHDの変化は、「サンマルクカフェ」の立て直しだけでは捉えきれない。カフェ事業の再構築を進めながら、同時にM&Aを通じて新たな成長領域を取り込み、さらに「京都ブランド」を世界へ発信する企業へと変わろうとしている。ばらばらに見えるニュースを一本の線でつなぐと、同社が進めている変化の輪郭が見えてくる。
1. カフェ市場の激化と「サンマルクカフェ 再生」への舞台裏
差別化が難しい時代の「フード(体験価値)」の役割
まず押さえておきたいのは、カフェ市場を取り巻く環境の厳しさである。近年、カフェや喫茶店をめぐる競争は激しさを増している。スターバックスやドトール、コメダ珈琲店などの大手チェーンが存在感を高める一方で、個人店や中小規模の店舗にとっては、人件費、家賃、光熱費の上昇が重荷となっている。さらに、コーヒー豆の価格高騰も収益を圧迫している。
単にコーヒーを提供するだけでは、差別化が難しい時代になっている。だからこそ、重要になるのがフードの役割である。コーヒーだけでは客単価を上げにくく、利益率にも限界がある。そこで、焼きたて、作りたて、できたてといった外食ならではの体験価値をどう生み出すかが問われる。サンマルクカフェが進める「FFH」モデルは、その課題に対する一つの答えといえる。
人手不足を生き抜く「FFH」モデル
「&茶」にみるサンマルクカフェ 再生の狙い
「FFH」モデルは、テクノロジーを活用し、限られた人員でも店舗の力を最大限に発揮できる体制を整えながら、焼きたて・作りたての商品を提供する取り組みである。焼きたての価値は、外食ならではの体験であり、来店動機にもなる。コンビニや自宅では得にくい「その場で仕上がる」感覚を、店舗体験として打ち出すことができるからだ。

サンマルクカフェはもともと、店内で焼き上げるチョコクロによって成長してきたブランドである。つまり、焼きたての価値は同社にとって新しいものではない。しかし、現在求められているのは、かつての成功体験をそのまま繰り返すことではなく、今の市場環境に合わせて再設計することだ。人手不足の中でも店舗運営を回せる仕組みをつくる。テクノロジーを活用して生産性を高める。焼きたて・作りたての商品によって、オーダー率を高める。こうした複数の狙いが、「FFH」モデルには込められている。
また、「サンマルクカフェ&茶」という屋号も見逃せない。ここでは、コーヒー以外の提案を強めることで、利用動機を広げるとともに、利益率の向上も狙っていると見られる。カフェ市場でコーヒー豆の高騰が進む中、コーヒーだけに依存しない商品構成をつくることは、収益構造の見直しにもつながる。
つまり、サンマルクカフェの再生は、単なる店舗改装やメニュー追加ではない。競争が激しいカフェ市場の中で、体験価値、客単価、利益率、生産性を同時に高めるための構造改革なのである。
2. 証券出身・藤川社長が仕掛ける「サンマルクHD」のM&A戦略
無借金経営からの脱却と大胆なM&A戦略
一方で、サンマルクHDの変化はカフェ事業だけにとどまらない。同社は2024年に、「牛カツ京都勝牛」を展開する企業(フーズジャパン)を子会社化した。さらに、競合業態である「牛かつもと村」も傘下に収めている。カフェ事業の再構築と並行して、インバウンド需要や海外展開と相性のよい牛カツ業態に経営資源を振り向けている点は重要だ。

この動きの背景にあるのが、藤川祐樹社長の存在である。藤川社長は証券会社出身であり、従来のサンマルクHDが持っていた無借金経営のイメージから一歩踏み出し、M&Aを通じて成長領域を取り込むポートフォリオ再編を進めている。
外食企業にとって、既存ブランドの磨き込みはもちろん重要である。しかし、市場環境が変化する中で、成長余地のある領域を外部から取り込むこともまた、経営戦略として重要になっている。
サンマルクHDが「牛カツ京都勝牛」ともと村の2大巨頭を傘下に収めた合理性
サンマルクHDの場合、その象徴が「牛カツ京都勝牛」をはじめとした牛カツ業態である。
かつては市場でしのぎを削った競合同士を同じグループに迎え入れた背景には、圧倒的な市場支配力の獲得と、ドミナント戦略の効率化がある。出店エリアの重複を避けつつ、仕入れやノウハウを共有することで、牛カツという専門性の高いマーケットそのものを牽引する構えだ。
3. 「京都ブランド」をレバレッジにするグローバル戦略
インバウンド需要の先にある「牛カツ京都勝牛」の海外展開
牛カツ業態は、インバウンド(訪日外国人)需要との相性が極めてよい。日本らしさが伝わりやすく、専門性も打ち出しやすい。さらに、海外展開においても「日本発の食体験」として訴求しやすい業態である。
実際、京都勝牛の海外展開は手応えを見せている。オーストラリア・シドニーへの出店では、開業初日から行列ができるなど、海外市場での需要も見え始めている。
なぜ、サンマルクHDは事業運営の中核機能を「京都」に移したのか?
ここで重要なのが、サンマルクHDが京都に事業運営の中核機能を移していることだ。「京都勝牛」というブランド名にも表れているように、「京都」は海外市場に向けた強い訴求力を持つ。単に牛カツを売るだけでなく、京都という地域イメージをまとわせることで、ブランド価値を高めることができる。

これは単なるイメージ戦略に留まらない。将来的には「サンマルクカフェ&茶」が海外進出する際にも、この「京都」のストーリーや中核機能が強力なバックボーンとして機能するはずだ。点での海外進出ではなく、「京都の食文化をパッケージして世界に売る」という大義名分がここにある。
4. 結論:サンマルクHDは「世界に京都を売る外食グループ」へ
既存店再生と海外成長。二兎を追えるか
もちろん、課題は少なくない。サンマルクカフェの再生には、激しいカフェ市場の中で、どこまで店舗体験を刷新できるかが問われる。焼きたて・作りたての価値を打ち出しても、それが実際の来店動機やオーダー率、客単価の向上につながらなければ意味がない。テクノロジーの活用も、現場の生産性向上に結びついて初めて効果を発揮する。
また、牛カツ業態についても、海外での成長を継続できるかはこれからである。海外展開は出店初期の話題性だけでなく、現地で継続的に支持されるブランド運営が求められる。京都勝牛や牛かつもと村を、サンマルクHDの新たな成長の柱に育てられるかが注目される。
今後注目すべき「2つのKPI」
ただ、同社の変化が興味深いのは、国内の既存ブランド再生と、海外成長領域の獲得を同時に進めている点にある。サンマルクカフェでは、FFHモデルによって外食ならではの体験価値を高める。グループ全体では、M&Aを通じて牛カツ業態を取り込み、「京都ブランド」を海外へ広げる。この二つの動きは、別々のニュースに見える。しかし一本の線でつなぐと、サンマルクHDが次の成長に向けて、事業構造そのものを組み替えようとしていることが見えてくる。
今後、このトランスフォーメーションの成否を見極める上で、私たちは次の2つの指標に注目すべきだろう。
国内:サンマルクカフェの「既存店売上高(SSS)」と「店舗あたり利益率」
海外:「牛カツ京都勝牛」「もと村」の「海外店舗数比率」と「ロイヤリティ収入の伸び」
サンマルクHDは、カフェの会社にとどまるのか。それとも、京都ブランドを世界へ発信する外食グループへと変わるのか。今後の同社を見るうえで、サンマルクカフェの立て直しと、京都勝牛をはじめとした海外成長領域の行方は、切り離せないテーマになりそうだ。



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