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【外食企業の現在地】「THE KNOT FUKUOKA Tenjin」が示す新たな価値。MOTHERSが福岡・大名で提案する“泊まれるレストラン”

  • 執筆者の写真: 三輪大輔
    三輪大輔
  • 4月21日
  • 読了時間: 6分

更新日:15 時間前

                         三輪大輔|外食ビジネスアナリスト


福岡の勢いが加速している。


「天神ビッグバン」に象徴される再開発は街の景観を大きく変えつつあり、高層ビルや新たな商業施設の誕生が続く。街を歩けば若い世代の活気が伝わり、人口動態を見ても若年層の流入が顕著で、消費の熱量は高い。空港の利用者数も伸びており、特に韓国からの旅行者の増加が目立つ。福岡空港では2025年度、3年連続で旅客数が過去最高を更新し、2856万人に達する見通しだ。福岡は今、国内の有力都市という枠を超え、アジアのハブとしてさらなる成長が見込まれる。


その中心地・天神に隣接する大名、赤坂、大濠。その結節点に位置する場所に、新たなホテルが誕生した。それが26年4月に開業した「THE KNOT FUKUOKA Tenjin」である。長年親しまれてきた旧プラザホテル天神を全面改修し、建物の価値や記憶を引き継ぎ、新たなホテルとして生まれ変わった。


MOTHERSが福岡・大名で提案する泊まれるレストラン
2026年4月20日に開業した「 THE KNOT FUKUOKA Tenjin」

“泊まれるレストラン”という新提案

ライフスタイルホテルブランド「THE KNOT」の第6弾として開業した同ホテルは、いちごグループのワンファイブホテルズ株式会社が運営を担う。コンセプトは「感性に火を灯す、街巷のサロン」。レストランを主役に据えた“泊まれるレストラン”として設計されている。バーがレセプションの役割も担う構成とし、宿泊者と来店客が自然に交わる導線をつくることで、街に開かれたホテルとしての機能も果たす。


レストランは、全国で飲食店を展開する株式会社MOTHERSが手がける「MORETHAN CAFÉ RESTAURANT LOUNGE」。福岡や九州各地の食材を取り入れた料理を提供し、地域の人々と旅人が行き交う場をつくる。


MOTHERSが福岡・大名で提案する泊まれるレストラン
オープンキッチンが印象的な「MORETHAN CAFÉ RESTAURANT LOUNGE」

開業に先駆け、26年4月17日にはメディア向け内覧会が開催され、私も現地を訪れた。バーとレストランを中心に人が自然に行き交う空間は、従来のホテルとは異なる開放感があり、大名という街の空気とも自然になじんでいた。


MOTHERSが福岡・大名で提案する泊まれるレストラン
レセプションの役割も果たす、入り口にあるバーカウンター

変わりゆく大名の街で感じたこと

私は20代後半の約3年間、福岡に住んでいた時期がある。天神西通りを渡れば、そこには大名の街が広がっていた。大名757号線(新雁林町通り)は、当時「福岡のファッションの聖地」とも呼ばれ、通りの入り口にはユナイテッドアローズ、その先にはビームスが並ぶ。周辺には個性的な飲食店や古着店が集まり、福岡らしい若者文化を象徴するエリアだった。


しかし今回、久しぶりに歩いた街の景色は大きく変わっていた。再開発によって新しいビルが建ち並び、かつての雑多さや尖ったカルチャーは薄れつつある。リッツ・カールトン福岡の開業も含め、この街は“隠れ家”ではなく、世界都市・福岡の一部へと変化している。


だからこそ、「THE KNOT FUKUOKA Tenjin」が大名という場所を選んだ意味は大きい。再開発の中心ではなく、その周縁に残る街の空気や文化、人の流れをもう一度つなぎ直そうとしているからだ。


「結び目」としてのライフスタイルホテル

内覧会では、MOTHERS代表取締役の保村良豪氏と、オーナーであるいちご地所株式会社代表取締役社長の細野康英氏が登壇し、ライフスタイルホテルの考え方について語った。


MOTHERSが福岡・大名で提案する泊まれるレストラン
MOTHERS代表取締役の保村良豪氏(右)と、オーナーであるいちご地所株式会社代表取締役社長の細野康英氏

まず、いちご地所の細野氏は「THE KNOT」の哲学について、こう述べる。


「“KNOT”は英語で結び目を意味します。その名の通り、THE KNOTは街の中で人と人が交わる結節点となるホテルでありたいという思いを込めています。


私たちが考えるライフスタイルホテルは、単にデザイン性が高いだけではありません。心地よい空間であることに加え、地元の人と旅行者が自然に交わる場であり、誰に対しても開かれていることを重視しています。ホテルは敷居が高くなりがちですが、バーで一杯飲むだけでもいいし、レストランだけの利用でもいい。そうした使われ方を前提に設計しています。


実際、新宿や広島でもレストランは盛況で、ホテルでありながら街の延長として機能しています。一方で、札幌、宇都宮、横浜、広島、福岡と展開していますが、同じものを横展開しているわけではありません。街ごとに客層も求められる体験も異なります。それぞれの土地に合わせて設計していますが、共通しているのは結び目であるという思想です。デザインや部屋数といった目に見える要素ではなく、空気感や料理、香りといった五感に関わる部分で価値をつくっていきたいと考えています」


食を通じて街とつながる

この考えを体現する上で、レストランの果たす役割は大きい。細野氏の話を受け、MOTHERSの保村氏はこう語る。


「レストランは単に食事を提供するのではなく、滞在そのものの価値をつくる存在にしたいと考えています。例えば、阿蘇の牧場でつくっているチーズを朝食の主役に据え、それを使ったピザをランチやディナーで展開する。福岡は飲みの文化が強いので、スペインのタパスのように少しずつ楽しめる構成にしながら、イタリアンと掛け合わせています。


MOTHERSが福岡・大名で提案する泊まれるレストラン
内覧会で振る舞われた料理の一部

大切なのは、この土地の文化や食材をどう料理に落とし込むかということです。クラフトビールや魚、野菜も九州のものを中心に使い、地域の食材で組み立てることで、この街に根付くレストランにしていきたいと考えています。日本人が持つ少しずつ多様な料理を楽しむ文化も取り入れながら、食を通じて小さな旅を感じられる場にしていきたいと考えています」


MOTHERSが福岡・大名で提案する泊まれるレストラン
全15種類のタップが特徴的

再開発の周縁で、街の文化をつなぐ

「THE KNOT FUKUOKA Tenjin」はホテルの立地も象徴的である。これまで「THE KNOT」は駅前や視認性の高い場所に出店してきたが、福岡ではあえて裏通りに位置する大名エリアを選んだ。天神の中心部では再開発が進み、大型施設やチェーン店が増えている。一方で、大名周辺には古着店や個性的な飲食店が集まり、福岡らしい空気が残る。このローカルな魅力にこそ価値があると判断した。


「THE KNOT FUKUOKA Tenjin」は再開発の中心ではなく、その周縁に位置しながら、街の文化をつなぐ役割を担う。都市が上へと伸びていく中で、地上の体験価値を再構築する存在でもある。福岡という都市の現在地を踏まえると、この試みの意味は大きい。成長都市では、開発とともに均質化が進む。その中で、固有の魅力をどう保ち、どう価値を高めるか。その問いに対する一つの答えが、このホテルには示されている。


なお、保村氏は『飲食店経営』2026年6月号の表紙・トップインタビューにも登場している。ホテルと食空間を一体で設計する考え方や、街との関係性についてさらに詳しく語っているので、ぜひ併せてご覧いただきたい。



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