【アルバム論評】L'Arc〜en〜Cielは、ヴィジュアル系ではない。25周年ライブで分かった、ラルクの本当の魅力
- 三輪大輔
- 6月30日
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更新日:20 時間前
三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
高校生だった僕の誤解
それは僕が高校2年生のころだっただろうか。
L'Arc〜en〜Cielが「ヴィジュアル系と言われたことに怒り、収録をボイコットした」という話を友人から聞き、正直、呆れた。なんて面倒くさいバンドなんだ、と。当時の僕には、彼らは完全に「ヴィジュアル系」の文脈にいるバンドに見えていた。派手なメイク、美しいビジュアル、耽美的な世界観。その枠組みの中で人気を得たバンドにしか見えていなかったので、「ヴィジュアル系ではない」という態度が、正直よく分からなかった。
しかし、今なら分かる。彼らはヴィジュアル系ではない。ゴリゴリのロックバンドだ。あれはジャンル名への過剰反応ではなく、「自分たちをどう伝えるか」に対する強烈なこだわりだったのだと思う。彼らは、時代の記号として消費される存在ではなく、あくまでロックバンドとして見られたかったのだ。
しかも後年知ったが、実際には一方的な「ボイコット」というより、話し合いの末に収録そのものがなくなった、という流れだったらしい。自分たちのことを正しく伝えたい。その姿勢が、あのバンドの芯になっている気がする。
姿勢は音になる
人の姿勢が、音になる。そう書くと精神論っぽく聞こえるかもしれない。しかし、「どうありたいか」という意識は、確実にサウンドへ滲み出る。
それを決定的に感じたのが、『25th L'Anniversary LIVE』だった。2017年4月8日、9日に東京ドームで開催された結成25周年ライブを収録した作品で、発売は2018年3月28日。かなり前の作品なのだが、なぜか存在を知らなかった。
もちろん、L'Arc〜en〜Cielのアルバムは聴いてきた。中学、高校のころは、「GLAY派」と「L'Arc〜en〜Ciel派」で綺麗に分かれていた時代でもある。僕は『True』『HEART』を持っていたし、「花葬」「HONEY」「浸食 〜lose control〜」のシングルも買った。
その後はCDを買わなくなったものの、友人の家で聴いたり、レンタルしたりしながら、かなり追い続けていた。後年はサブスクで聴くようになり、現時点で最後のオリジナルアルバムとなっている『BUTTERFLY』まで一通り聴いている。
ただ、僕はアルバム単位で聴くタイプだった。そのため、ライブ盤の情報までは入ってこなかったのかもしれない。僕は昔からライブ盤が好きだ。『25th L'Anniversary LIVE』を見つけた瞬間、かなり嬉しかった。そして気付けば、2026年上半期で最も聴いたアルバムになっていた。
ライブ盤に身構えていた理由
「What is love」でHYDEの声が出ていなかった。そう話してくれたのは、1999年の野外ツアー「1999 GRAND CROSS TOUR」の福岡マリノア公演へ行った友人だった。その公演のセットリストは『ark』と『ray』の楽曲が中心で、「What is love」も含まれていた。
しかし、あの曲はサビ前の高音がかなり厳しい。当時のL'Arc〜en〜Cielは、スタジオ盤の完成度が異様に高かった。それは『ark』と『ray』で、特に研ぎ澄まされていたといっていい。だからこそ、「やはりライブでは再現しきれないのではないか」という感覚もあった。
もっとも、それは当時としては驚くべきことではなかった。今でこそ、バンド全体の演奏力は上がり、フェス文化も広がり、対バンの機会も増えた。ライブや物販が収益の大きな柱になったことで、音源に近いクオリティをライブでも出すことが、当たり前に求められるようになっている。
しかし当時は、曲が先行する時代だった。CDが圧倒的に売れていたからこそ、レコーディングによって楽曲の世界観を作り込むことが優先された。ライブで完全に再現できるかどうかは、今ほど厳しく問われていなかったと思う。実際、Mr.Childrenも「innocent world」の高音は厳しかったし、黒夢の清春もライブでは歌を大きく崩すことが多かった。むしろ、B'zの稲葉浩志やLUNA SEAのRYUICHIが異常だったのだ。
そんな時代感もあって、L'Arc〜en〜Cielのライブ盤には少し身構えていた。
「虹」で全てが変わった
しかし、その認識は一曲目の「虹」で完全に覆された。
イントロでkenの美しいアルペジオが鳴り、その後にtetsuyaのベースとyukihiroのドラムが重なる。その音だけで圧倒された。ただ重いだけではない。音と音の間には十分な空間があり、4人が互いの音を確かめ合うような時間が流れる。その静かな緊張を経て、hydeが歌い出す。鳴らされる音の一つ一つが、立体的に広がっていった。
この時点で、「ライブで歌えるかどうか」なんて、もう些細なことだった。僕の耳が向いていたのは、hydeの高音ではなく、バンドそのものだった。
その後、印象に残ったのが「Lies and Truth」だ。まず、tetsuyaのベースソロが文句なしに格好いい。そして、「いったいCDで何を聴いていたのだろう」と思うほど、kenのギターが効いている。kenは難しいことをしているのに、それを感じさせない。常にhydeの歌を邪魔しない位置に音を置いている。歌より前へ出るのではなく、歌声の周囲にギターを配置していくような印象だ。そのため、これまでの僕は、kenにカッティングのイメージをあまり持っていなかった。
しかし、このライブでは違う。ギターソロへ入る前のカッティングが実に気持ちいい。派手に弾き倒すのではなく、音と音の隙間を埋めながらグルーヴを作っていく。その音を聴いて、なぜkenがフェンダーを愛用するのかが、少し分かった気がした。
「forbidden lover」では、バンドのアンサンブルの強さを改めて感じた。描かれる世界は儚く、荒廃している。しかし、その世界を支えているのは、決して弱々しい演奏ではない。4人が鳴らす、圧倒的に力強いバンドサウンドだ。強い演奏があるからこそ、儚さや絶望が浮かび上がる。繊細な世界観を、力強い音で描く。それも、L'Arc〜en〜Cielの大きな魅力なのだと思う。
「HONEY」は、ほとんどパンクバンドのようだった。hydeが作曲したこの曲は、L'Arc〜en〜Cielという文脈の中で、華やかなアレンジをまとっている。
しかし、ライブでその装飾が薄くなると、芯にあるのは驚くほどシンプルで荒々しいロックだと分かる。4人が一直線に走り抜ける。それでも音が軽くならないのは、ベースとドラムが低音をしっかり支え、その上からkenのギターが鋭く切り込んでいるからだ。耽美的で複雑な曲を作る一方で、ここまで単純で荒々しいロックも鳴らせる。その音楽性の幅広さに、改めて驚かされた。
本編終盤の高揚感
本編終盤の流れもいい。
「STAY AWAY」「Driver's High」「READY STEADY GO」と畳み掛けるように進み、ライブは一気に熱を帯びていく。結成25周年ライブらしく代表曲が並ぶが、単なる懐メロ大会にはならない。過去のヒット曲を丁寧になぞるのではなく、現役のロックバンドとして、最後まで勢いを落とさずに駆け抜けていく。
その後の「Link」では、会場の空気が一気に開ける。暗く、重く、複雑な世界を描く一方で、これほど開放的で無邪気なロックも鳴らせる。その振れ幅も、L'Arc〜en〜Cielというバンドの強さなのだろう。
そして、本編最後の「瞳の住人」。この曲で、僕が抱いていたもう一つの先入観も消えた。あれほど高いメロディを、HYDEは力強く歌い切っている。「What is love」でHYDEの声が出ていなかった。高校時代に友人から聞いた、あの話が嘘のようだった。L'Arc〜en〜Cielだけでなく、ソロ活動やVAMPSでも数多くのライブを重ねてきた。その経験の中で、HYDEはロックボーカリストとして、さらに鍛えられてきたのだろう。
ライブ音源で聴いたことで、「瞳の住人」という曲の表情も少し変わった。当時の僕は、ごく純粋なラブソングとして聴いていた。しかし、自分に子どもができた今は、親から子への歌にも聴こえる。
太陽のように相手を照らしたいと願う気持ち。匂いに包まれていたいと思いながら、それでも外の世界へ向かわなければならない切なさ。恋人への思いだけでは説明しきれない、守る側の切実さを感じるようになった。
ライブ盤を聴く前、僕が気にしていたのは、HYDEが高音を出せるかどうかだった。しかし、聴き終えた時に残っていたのは、そんな疑問ではなかった。tetsuyaのベース、kenのギター、yukihiroのドラム、そしてhydeのボーカル。4人が音を重ねた時に生まれる、L'Arc〜en〜Cielというバンドの強さだった。
『SMILE』で分かったこと
個人的に、L'Arc〜en〜Cielのアルバムを一枚選ぶなら、今は迷わず『SMILE』を挙げる。
もっとも、このアルバムの良さが分かったのは30代になってからだ。そして、『25th L'Anniversary LIVE』を聴いたことで、その魅力をさらに深く理解できた。
『SMILE』というタイトルは、それまでのL'Arc〜en〜Cielらしくない。それ以前の彼らには、どこか設定された幻想的な世界の住人として、物語を紡いでいるような印象があった。しかし、『SMILE』では違う。一つの世界観を作り上げることよりも、4人がそれぞれ一人の人間として音を持ち寄り、ロックバンドとして鳴らすことが優先されている。その到達点にあったものが、飾らない「笑顔」だったのではないか。
特に「接吻」は象徴的だ。以前のL'Arc〜en〜Cielなら、ホーンやストリングスを重ね、もっと耽美で幻想的な世界観として描いていたかもしれない。しかし、この曲は違う。偽りを外して接吻を交わそうと歌い、もう二度と戻らないとはっきり意思を示す。装飾によって世界を作るのではなく、言葉と演奏を正面からぶつけている。
『SMILE』は、L'Arc〜en〜Cielがそれまでの世界観を捨てたアルバムではない。幻想性も、美しさも、重さも全て抱えたまま、ロックバンドとして前へ進むことを選んだアルバムなのだと思う。
高校生のころの僕は、L'Arc〜en〜Cielを「ヴィジュアル系と言われたことに反発する、面倒くさいバンド」だと思っていた。しかし、20年以上経って、ようやく分かった。あれは、自分たちをロックバンドとして正しく伝えるための意思表示だったのだ。人の姿勢は、音になる。L'Arc〜en〜Cielの音が今も色褪せない理由は、そこにあるのかもしれない。
この夏、彼らはSUMMER SONICに出演する。その後にはライブツアーも予定されている。さらに、その先には待望のオリジナルアルバムがあるかもしれない。もし新しいアルバムが完成したなら、今度はリアルタイムで聴きたい。そして、次は音源だけではなく、そのライブをこの耳で体感してみたいと思う。