なぜココイチまで「深夜料金」を導入するのか?24時間営業の採算と「夜の外食」の変容
- 三輪大輔

- 21 時間前
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三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
「カレーハウスCoCo壱番屋(ココイチ)」が、2026年9月1日から深夜料金を導入した。午後10時から翌朝5時までの注文に対して、店内飲食だけでなく、テイクアウトにも7%を加算する。
深夜料金といえば、これまではファミリーレストランを中心に導入されてきた。しかし近年は、すき家や松屋などの牛丼店、はま寿司などの回転寿司へと広がり、今回、新たにカレーチェーンのCoCo壱番屋も加わった。深夜料金は、特定の業態だけのものではなくなりつつある。
背景にあるのは、人件費をはじめとした深夜営業のコスト上昇だ。深夜料金は、単なる便乗値上げではなく、24時間営業や深夜営業を維持するための仕組みと捉える必要がある。
一方で、料金を上乗せすれば、すべての店が収益を改善できるわけでもない。導入できる店とできない店の差はどこにあるのか。CoCo壱番屋の深夜料金導入を起点に、その背景と外食企業への影響、さらに変化する夜の外食市場について考えてみたい。
深夜営業を直撃する人件費の上昇
深夜料金が広がる最大の背景は、人件費の上昇である。最低賃金は毎年引き上げられており、2026年度は全国加重平均で55円引き上げ、1176円とする目安が示された。東京では目安通りなら1280円となり、5年前と比べて200円以上高くなる。
しかも、企業が実際に人材を採用するためには、最低賃金を上回る時給を提示しなければならない。周辺の飲食店や小売店、物流施設なども採用競争の相手となるため、最低賃金が上がれば、それより高い水準でアルバイトの時給を設定する必要がある。人材不足を背景に、正社員についても継続的な賃上げが求められている。
とりわけ負担が重いのが深夜帯だ。法律上、午後10時から午前5時までの労働には、通常の賃金に対して25%以上の割増賃金を支払わなければならない。時給そのものが上がれば、割増分を含めた企業の負担も大きくなる。光熱費、食材費、物流費なども上昇しており、売上高が増えても利益が減少する「増収減益」が外食企業にとって珍しくなくなった。
通常の商品価格を一律に引き上げる方法もある。しかし、それでは深夜営業にかかるコストを、昼間の利用客にも負担してもらうことになる。そこで、コストの高い時間帯を利用する客に限って一定の負担を求める深夜料金は、時間帯別に採算を合わせる方法として合理性を持つ。
客数が少なくても人員は減らせない
深夜営業の難しさは、客数が少なくなったからといって、人員やコストを同じ割合で減らせないことにある。
営業時間中である以上、接客、調理、清掃などを担う従業員が必要になる。防犯や安全管理の観点から、一人だけで店を運営することが難しいケースも多い。来店客が数人しかいなくても、一定数の従業員を配置し、店内の照明や空調、厨房機器を動かさなければならない。そのため、深夜帯は売上高に占める人件費や光熱費の比率が高くなりやすい。
かつて外食チェーンにとって、24時間営業は利便性の象徴だった。しかし、人手不足などを背景に、ロイヤルホストは2017年頃から24時間営業を取りやめ、コロナ禍では多くの外食企業が営業時間を短縮した。外出や飲酒の機会が減り、深夜に店を開けても十分な需要を見込めなかったためである。
ところが最近は、営業時間を再び延長する店が増えている。深夜まで営業する飲食店が減った結果、遅い時間に食事をしたい人の受け皿が不足しているからだ。以前ほど大きな市場ではなくても、営業する店が少なければ、残された需要を取り込める可能性がある。
深夜営業を再開しやすくなった背景には、DXの進展もある。タブレットによる注文やセルフレジ、キャッシュレス決済が普及し、少人数でも店舗を運営できるようになった。現金を数える作業や金額の誤差が減り、店舗によってはレジ締めを10分程度で終えられる。AIによる来客予測や自動発注の活用も進み、閉店後に従業員が行っていた業務を削減できるようになった。
それでも、最低賃金や深夜割増賃金の上昇を、効率化だけで吸収することは難しい。そこで、DXによって少人数営業を可能にしたうえで、深夜料金によって採算を補うという考え方が広がっている。営業時間を延ばして利用客の受け皿となりながら、営業を継続できる収益を確保する。深夜料金は、縮小してきた深夜営業を再び成立させるための仕組みでもある。
居酒屋から日常型チェーンへ流れる飲酒需要
深夜の外食市場では、利用のされ方も変わっている。居酒屋では、宴会後の二次会などによる「二回転目」の需要が以前ほど期待できなくなった。職場の宴会が減り、ハラスメントへの配慮から、上司が部下を二次会に誘いにくくなったことも一因だ。大人数で遅くまで飲む機会は減少し、飲酒需要は少人数化、個人化している。
その一方で、一人で少し飲んで帰りたいという需要まで消えたわけではない。その受け皿になっているのが、ファミリーレストラン、牛丼店、回転寿司などである。牛丼店には酒と一緒に注文できる単品メニューがあり、回転寿司でも、すしや刺し身、揚げ物などをつまみにして飲める。居酒屋に入るほどではないが、食事と一緒に一杯飲みたいという需要を取り込んでいる。
こうした需要を取り込んでいる店の一つが、すかいらーくホールディングスが2026年に買収した「しんぱち食堂」である。炭火焼きの干物定食を中心とする業態で、店舗によっては深夜まで営業している。仕事帰りの会社員が定食を食べるだけでなく、焼き魚などをつまみに酒を飲む姿も多い。居酒屋へ行くほどではないが、食事のついでに一杯飲みたいという需要を受け止めている。
サイゼリヤも同様だ。グラスワインは100円、デカンタは250ミリリットルが200円、500ミリリットルでも400円と安い。夜の店舗では、一人で料理とワインを楽しむ客や、夫婦でデカンタを囲む姿も見られる。ファミリーレストランでありながら、日常的に利用できる「飲みの場」としての役割も担っている。
こうした利用客は、食事だけを目的とする客よりも客単価が高くなりやすい。深夜には営業している店自体が少なく、食事と酒の両方を手頃に楽しめる店となれば、多少料金が上がっても利用する可能性がある。深夜料金の導入が進む背景には、コストの上昇だけでなく、夜の飲酒需要が居酒屋からファミリーレストランや定食店などの日常型チェーンへ分散していることもある。
導入できる店とできない店の線引き
ただし、深夜料金を導入すれば、必ず利益が増えるわけではない。料金を上乗せしたことで客数が大きく減れば、かえって売上や利益を落とす可能性もある。深夜料金の成否を分けるのは、その店にファンがいるか、明確な来店動機があるかという点だ。
その最たるものが、「ちょい飲み」の需要である。仕事帰りに一人で、あるいは夫婦で、食事と一緒に少しだけ酒を飲みたい。サイゼリヤには手頃な価格のワインがあり、しんぱち食堂では焼き魚などをつまみに酒を楽しめる。それぞれに、居酒屋とは異なる利用のしやすさがあり、それ自体が来店動機になっている。
「この商品を食べたい」「この店で少し飲んで帰りたい」「深夜でも、この店なら安心して利用できる」と思われている店は、多少価格が上がっても選ばれやすい。特定の商品やブランド、利用シーンを目的に来店する客が多く、ほかの店では簡単に代替できないからである。深夜は営業している競合店が少ないため、立地や営業時間そのものが来店動機になる場合もある。
反対に、安さだけが選ばれる理由になっている店や、近くに代替店が多い店は、深夜料金の導入によって客が離れやすい。「この店に行きたい」のではなく、「安いから」「近いから」「たまたま開いていたから」利用されている場合、わずかな価格差でも別の店やコンビニに置き換えられてしまう。
つまり、深夜料金を導入できるかどうかは、値上げ幅だけの問題ではない。その店がどれだけ目的来店を生み出し、価格以外の価値を築いてきたかが問われる。深夜料金は、店に対する支持の強さと価格決定力を測る試金石でもある。
「いつでも同じ価格」の終わり
外食企業が深夜料金によって、実際にどれだけ利益を増やしているのかは、企業から詳細な数字が公表されていないため一概にはいえない。導入後の客数、客単価、人員配置、店舗ごとの営業時間によって効果は異なる。ただ、深夜料金が広がっている事実は、「どこでも、いつでも同じ価格」という外食業界の常識が崩れ始めたことを示している。
現に外食業界では、立地によって価格を変えるエリア別価格の導入が進んでいる。マクドナルドは都市部など一部店舗に異なる価格を設定し、カフェ・ベローチェも立地に応じた地域別価格を導入している。同じ商品であっても、賃料や人件費など店舗ごとのコストに応じて価格を変える考え方は、すでに現実のものとなっている。
その流れが、立地だけでなく時間帯にも広がっている。今後はエリア別価格に加え、曜日、時間帯、需要の強弱に応じて価格を変える動きがさらに進む可能性がある。すべての客に一律で負担を求めるのではなく、コストが高い場所や時間帯、その一方で需要が集中する場面に応じて価格を調整する考え方だ。
そのとき、価格を上げられる店と上げられない店の差は、さらに明確になる。深夜料金はコスト上昇への防衛策であると同時に、消費者がその店を選ぶ理由を持っているかどうかを企業に突きつける施策でもある。外食店には、値上げの説明だけでなく、料金が高くなっても選ばれるだけの来店動機をつくることが求められている。


