くら寿司は110円値下げで復活できるか。 スシロー・はま寿司との競争から見る回転寿司の価格戦略
- 三輪大輔

- 2 時間前
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三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
回転寿司チェーン「くら寿司」が、9月4日から最低価格を115円から110円へ値下げする。原材料価格や人件費、エネルギーコストの上昇を背景に、外食業界ではここ数年、値上げが当たり前になってきた。その中で最低価格を引き下げる今回の決定は、かなり目を引く。
ただし、くら寿司が全面的な値下げに踏み切ったわけではない。これまで115円で販売していた「サーモン」「生えび」「赤貝」など33品目は120円へ値上げする。一方で、最低価格を110円へ下げ、110円の商品を計37品目まで揃える。つまり今回の改定は、単なる値下げではない。「どの商品を上げ、どの商品を下げるのか」を選別し、価格帯そのものを組み直す価格戦略なのである。
くら寿司は増収でも利益が減っている
では、なぜくら寿司は今、最低価格を下げるのだろうか。
2026年10月期中間期の売上高は1252億5300万円で前年同期比6.5%増だった。一方、営業利益は24億7600万円で14.7%減。売上は伸びているものの、利益は前年を下回っている。さらに直近では、国内既存店の客数が前年を下回る月も続いている。
もちろん、前年の大型コラボの反動など特殊要因もあるため、単純に「値上げで客離れが起きた」と結論付けることはできない。それでも、回転寿司にとって客数は極めて重要だ。高単価商品を増やして一人当たりの売上を高めても、来店そのものが減れば店舗全体の売上や収益には限界がある。その意味で、最低価格を110円へ戻した今回の決定には、価格イメージを改めて強める意味もあるだろう。
スシローとはま寿司が伸びる中、くら寿司はどこへ向かうのか
今回の価格改定を考える上では、回転寿司業界全体の動きも見ておきたい。
最大手のスシローを展開するFOOD & LIFE COMPANIESは、2025年9月期に売上収益、利益とも過去最高を更新した。2026年も国内スシローの既存店売上は前年を上回る月が多く、海外出店も加速している。
スシローの特徴は、単純な低価格競争だけに頼っていないことだ。高価格帯の商品や期間限定フェアなど、付加価値のある商品を積極的に投入し、客単価を上げながら支持を広げている。
一方、はま寿司は「100円寿司」のイメージを残してきた。税込110円の商品を維持しながら出店を拡大し、ゼンショーホールディングスの2026年3月期では「グローバルはま寿司」の売上高が3202億円、営業利益が267億円まで拡大した。売上高ベースでは、くら寿司を上回ったとも報じられている。
つまり現在の回転寿司市場では、スシローが「付加価値」、はま寿司が「価格競争力」という分かりやすい強みを持っている。その間で、くら寿司の立ち位置はやや分かりにくくなっていたのではないだろうか。
くら寿司には「ビッくらポン!」や豊富なサイドメニュー、無添へのこだわりなど独自の強みがある。一方で価格面では、110円を守るはま寿司より高く、付加価値戦略ではスシローが存在感を高めている。今回、最低価格を110円へ戻す背景には、こうした競争環境もあると考えられる。
回転寿司から「100円」の印象が薄れた
かつて回転寿司といえば、「一皿100円」が分かりやすい価値だった。しかし原材料価格の上昇や円安、人件費の増加によって、その前提は崩れた。スシローは最低価格を120円台へ引き上げ、くら寿司も115円からの価格設定となっていた。
一方、はま寿司やかっぱ寿司は110円の商品を残している。ここでくら寿司が110円へ戻る。わずか5円の違いに見えるが、消費者に与える印象は必ずしも5円分とは限らない。「110円から食べられる」という最低価格は、その店全体の価格イメージをつくるからだ。
今回くら寿司が値下げするのは、全商品の利益を削って安売りをするためではない。入口となる価格を下げる一方、値上げできる商品は値上げする。ここに今の外食業界における「値決め」の難しさが表れている。
値下げしながら増収増益のジョイフル
この価格戦略を考える上で興味深い企業がある。ファミリーレストラン「ジョイフル」だ。
ジョイフルは2026年4月、人気商品など7品を値下げした。7月のグランドメニュー改定でも、原材料費や物流費の高騰を理由に一部商品を値上げする一方、税込500円のワンコインランチは据え置き、人気3品を値下げしている。つまりジョイフルも、「全部を値上げする」「全部を安くする」のではない。上げる商品、価格を守る商品、下げる商品を分けている。
そして、この価格戦略を進める中で業績は好調だ。2026年6月期は売上高727億2600万円で前年比4.6%増、営業利益46億1000万円で43.9%増。主力のジョイフル業態でも既存店客数は年間で5.5%増、客単価も2.7%上昇した。値下げを実施しているにもかかわらず、客単価まで上昇しているところが興味深い。
ジョイフルもかつては大幅赤字だった
現在は好調なジョイフルだが、数年前まで状況は大きく異なっていた。2020年6月期には営業損失37億8500万円、純損失93億2300万円を計上。翌2021年6月期も営業損失33億7300万円と、本業では厳しい状況が続いていた。コロナ禍で多数の不採算店舗を閉鎖するなど、ジョイフルは大規模な事業再構築を進めた。
そこから業績を立て直し、現在は再び出店にも動いている。さらに約75億円を投じて愛知県豊橋市に新工場を建設する計画も進めるなど、低価格を支える生産体制への投資も続けている。
だから、現在の値下げだけを見て「安売りで客を集めている」と考えると、ジョイフルの強さを見誤る。収益構造を立て直した上で、客を呼ぶ商品は価格を抑え、必要な商品は値上げし、その中で客単価も高める。値下げは戦略の一部分に過ぎないのである。
商売は「値決め」で大きく変わる
外食では、値上げすると一人当たりの売上は増える。しかし、価格を上げすぎれば客数が減る。逆に値下げすれば客数が増える可能性はあるが、利益率は低下する。だから重要なのは、「値上げするか、値下げするか」という二者択一ではない。何を値上げし、何を据え置き、何を値下げするのか。さらに、その価格でどれだけ客数を増やし、一回来店当たりの売上をつくるのか。まさに商売における値決めである。
ジョイフルは、このバランスを改善しながら赤字から復活し、現在は客数と客単価の双方を伸ばしている。くら寿司が今回行うのも、考え方としては近い。最低価格を110円まで下げて集客力を高める一方、33品目は値上げして収益を確保する。
くら寿司は価格戦略で再浮上できるか
現在の回転寿司市場を見ると、各社の立ち位置は以前より鮮明になっている。スシローは価格だけではない付加価値を高めながら成長し、はま寿司は110円の商品を残すことで価格競争力を維持してきた。対するくら寿司は、売上高こそ過去最高を更新しているものの、直近では利益と客数に弱さが見える。そう考えると、今回の価格改定は単なる5円の値下げではない。くら寿司が自らのポジションを改めて明確にするための価格戦略とも見ることができる。
これまで外食業界では、コスト上昇を価格へ転嫁できる企業ほど強いと考えられてきた。しかし消費者の節約志向が強まれば、今度は「どこまで値上げできるか」だけではなく、「どの商品なら値下げできるか」まで競争になる。ジョイフルの好調が示しているのは、安さそのものの強さではない。値上げ、据え置き、値下げを組み合わせながら、客数と利益のバランスを取ることの重要性だ。
くら寿司は今回の価格戦略をきっかけに、スシロー、はま寿司との競争で再び存在感を高めることができるのか。次の決算だけでなく、9月以降の客数や客単価の変化にも注目したい。


