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スシローはなぜ京樽を売却するのか。吉野家からスシロー、そして「和食さと」へ。京樽が渡る理由

執筆者の写真: 三輪大輔
三輪大輔
8月7日
読了時間: 6分


回転ずし「スシロー」を展開するFOOD & LIFE COMPANIES(F&LC)が2026年8月7日、子会社の京樽を「和食さと」を展開するSRSホールディングスへ譲渡すると発表した。譲渡額は37億4500万円で、9月1日付で全株式を譲渡する予定だ。


京樽は、テイクアウト寿司「京樽」と、回転寿司「回転寿司みさき」などを展開する寿司事業会社である。今回のスシローによる京樽売却だけを見ると、F&LCによる事業ポートフォリオの整理、いわゆる「選択と集中」に映る。しかし、京樽がたどってきた歴史とF&LC傘下での5年間を見ると、それだけでは説明しきれない。


「回転寿司みさき」は、F&LCが京樽の買収後に「海鮮三崎港」から刷新したグルメ系回転寿司。首都圏の駅前や商業施設を中心に展開しており、SRSグループ入り後は「にぎり長次郎」「うまい鮨勘」とのシナジーも期待される。
「回転寿司みさき」は、F&LCが京樽の買収後に「海鮮三崎港」から刷新したグルメ系回転寿司。首都圏の駅前や商業施設を中心に展開しており、SRSグループ入り後は「にぎり長次郎」「うまい鮨勘」とのシナジーも期待される。

京樽は、吉野家ホールディングス、F&LC、そしてSRSホールディングスと、三つの大手外食グループを渡り歩くことになる。そして今回の譲渡は、F&LCの戦略だけでなく、現在のスシローがどこまで変わったのかを象徴する出来事でもある。


スシローによる京樽買収。吉野家から始まった再建

京樽は長く吉野家ホールディングスの傘下にあった。しかし収益面では苦戦が続き、2021年にF&LCが全株式を取得する。当時のF&LCにとって京樽には、自社にない事業基盤を手に入れる意味もあった。


スシローが郊外型の100円回転寿司として成長してきたのに対し、京樽はテイクアウト寿司という販売チャネルを持つ。さらに、当時の「海鮮三崎港」は駅前や商業施設など都市部にも強かった。つまり、スシローとは異なる顧客、価格帯、立地を持つ寿司事業を取り込むことができた。


F&LCは買収後、京樽とスシローを組み合わせたダブルブランド店舗も展開するなど、両ブランドを生かした新たな販売方法も模索している。2021年には「京樽」と「スシロー To Go」の商品を扱うダブルブランド店舗を展開していた。


ただし、買収後の道のりは決して平坦ではなかった。京樽は買収後も収益面で苦戦した。それでもF&LCは京樽を切り離さず、「海鮮三崎港」を「回転寿司みさき」へ刷新。商品開発や店舗運営、調達など、スシローで培ってきたノウハウを投入し、時間をかけて事業を立て直していった。


その結果、2025年9月期には売上高235億円、営業利益6000万円と黒字化した。F&LCは、買収したものの再建できずに京樽を手放すわけではない。苦戦していた事業を5年かけて黒字になるところまで持ってきた。そのうえで今回、SRSへ譲渡するのである。


スシローはなぜ黒字化した京樽を売却するのか

では、なぜようやく立て直した京樽を手放すのか。ここで重要なのが、この5年間でスシロー自身も大きく変化したことである。かつてスシローは「100円回転寿司」の代表格だった。しかし現在は100円均一ではない。価格帯を広げながら、付加価値のある商品も積極的に投入している。


店舗立地も変わった。郊外のロードサイドだけでなく都市部への出店を進め、駅前や商業施設でもスシローを見る機会が増えた。テイクアウトについても同様だ。スシローの通常店舗でも持ち帰り寿司を購入できる。


さらにF&LCは、スシローのテイクアウト専門店を展開してきた。ただ、2025年9月期に8店舗あったスシローのテイクアウト専門店は、2026年7月には1店舗まで減少している。小型のテイクアウト業態を大きな成長エンジンとして拡大するのではなく、スシロー本体を軸に成長する方向が鮮明になったとも見える。


一方で、スシロー本体が都市部へ進出し、価格帯を広げ、テイクアウトにも対応するようになった。買収した2021年には補完関係が大きかったスシローと京樽だが、この5年間で両者がカバーする市場には重なる部分も増えてきたのである。


京樽売却の背景にある「世界のスシロー」

そして、もう一つ大きな変化がある。海外事業だ。F&LCの海外スシローは急速に拡大している。2025年9月末に227店舗だった海外店舗は、2026年6月末には304店舗、7月末には315店舗まで増えた。中国や東南アジアを中心に売り上げが伸び、F&LCは2026年9月期の業績予想も上方修正している。


国内で京樽をさらに成長させる選択肢も当然あっただろう。しかし、限られた人材や資金をどこへ投入すれば、企業全体をさらに成長させられるのか。その答えが、国内で京樽を抱え続けることよりも、スシローを世界で成長させることだったのではないか。


京樽が悪いから売るのではない。京樽を再建する一方で、スシローがそれ以上の速度で成長し、F&LCという会社そのものが次のステージへ進んだのである。


京樽売却はSRSにとって大きなメリット

一方、京樽を受け取るSRSホールディングスにとって、今回の買収には大きなメリットがある。


SRSと聞くと「和食さと」のイメージが強いかもしれない。しかし同社は現在、寿司事業を成長分野の一つに位置づけている。中期経営計画「SRS VISION 2030」では、「グルメ寿司チェーン圧倒的No.1の実現」を重点戦略に掲げている。すでに「にぎり長次郎」「うまい鮨勘」など、グルメ系回転寿司を展開しており、そこに「回転寿司みさき」が加わる。


しかも、既存ブランドとみさきでは得意とする立地が異なる。SRSの既存ブランドがロードサイドを中心としているのに対し、みさきは首都圏の駅前や商業施設への出店を得意としている。SRS自身も首都圏の店舗網拡充を今回の買収目的として挙げている。


さらに手に入るのは回転寿司だけではない。知名度の高いテイクアウト寿司「京樽」が加わることで、中食市場にも事業基盤を広げられる。京樽が持つ製造工場についても、寿司事業だけでなく「和食さと」をはじめとするグループの和食事業向け商品の製造拠点として活用する方針だ。


SRSから見れば、店舗数を増やすためだけの買収ではない。首都圏、駅前・商業施設、中食、製造機能という、自社に不足していたピースをまとめて手に入れられる。しかも、その京樽はF&LCが5年かけて再建し、黒字化させた事業である。受け取るSRS側のメリットはかなり大きい。


スシローの京樽売却に感じるリーディングカンパニーの矜持

興味深いのは、SRSが寿司市場で存在感を高めれば、広い意味ではスシローにとって競争相手が強くなることだ。


F&LCは、収益面で苦戦していた京樽を時間をかけて立て直した。その事業を、自ら「グルメ寿司チェーン圧倒的No.1」を目指す企業へ渡す。もちろん、企業経営である以上、今回の判断は経済合理性に基づくものだ。「敵に塩を送る」と表現するのは少し違うだろう。それでも、今回の決断には国内回転寿司業界を牽引してきたリーディングカンパニーとしての余裕と矜持を感じる。自社で全てを抱え込む必要はない。自分たちが再建した事業を、その価値をさらに生かせる企業へ託す。そしてF&LC自身は、世界市場でスシローをさらに成長させる。


吉野家からスシローへ。そして今度は「和食さと」のSRSへ。同じ京樽でも、吉野家では事業ポートフォリオの一角となり、F&LCでは再建され、SRSでは寿司事業を拡大するための重要なピースになる。


事業の価値は、売上高や利益だけでは決まらない。誰が持ち、どのような戦略の中に置くかによって、その価値は変わる。スシローによる今回の京樽売却は「撤退」というより、一つの再建を終えた先にある、次の成長への決断なのだろう。


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