カフェ業界はなぜ二極化するのか。「居心地」「専門性」「持ち歩く」の新競争
- 三輪大輔

- 2 日前
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更新日:1 日前
三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
最近、『スタバ疲れ』『カフェ難民』といった言葉を聞く機会が増えた。しかし、これらは単なる流行語ではない。背景をたどると、カフェ業界で進む二極化と、日本のカフェ市場が長年進めてきた『居心地競争』、足元のコーヒー豆高騰という構造変化が見えてくる。
現在のカフェ市場では、大きく二つの異なる競争が進んでいる。一つは、大手チェーンによる「居心地」の競争。もう一つは、中小店や新興ブランドによる「専門性」の競争だ。さらに最近では、そのどちらとも異なる「テイクアウト」を軸にした新勢力も存在感を高めている。
なぜ、カフェ市場はここまで複雑になったのか。その出発点の一つが、禁煙化だった。
禁煙化で変わった「喫茶店の役割」
かつて喫茶店は、単にコーヒーを飲むだけの場所ではなかった。新聞や雑誌を読み、友人と話し、仕事の打ち合わせをし、ときにはたばこを吸いながら長い時間を過ごす場所だった。
特に喫煙者にとっては、「コーヒーを飲める場所」であると同時に、「たばこを吸える場所」でもあった。しかし、健康意識の高まりや法改正によって禁煙化が進み、喫茶店を選ぶ理由の一つだった「喫煙できる」という価値は急速に薄れていった。
そこで大手カフェチェーンが強めていったのが、喫煙に代わる新しい滞在価値だった。スターバックスは「サードプレイス」を掲げ、自宅でも職場でもない第三の居場所として店舗を位置づけた。コメダ珈琲店は、ゆったりした座席と食事を組み合わせ、長時間くつろげる空間をつくった。コナズ珈琲は、ハワイを感じさせる内装や料理によって、日常から少し離れた時間を提供する。喫茶室ルノアールも、都心の駅前を中心に、商談や待ち合わせなどで落ち着いて過ごせる場所として独自のポジションを築いている。
形は違っても、共通しているのは「コーヒーを何円で売るか」ではなく、「そこで、どのように過ごしてもらうか」を競っていることだ。禁煙化によって喫茶店の従来の役割が薄れる中、大手カフェチェーンは「居心地」を新しい商品に変えてきたのである。
「居心地競争」の成功がカフェ難民を生んだ
ところが、居心地を追求した結果、新たな問題も起き始めた。客が長く滞在するようになれば、当然ながら席の回転率は下がる。特に都心のスターバックスなどでは、パソコンを広げて仕事をする人、勉強をする学生、本を読む人、友人と長時間話す人の姿が珍しくない。カフェが、ある意味では図書館やコワーキングスペースのように使われるようになった。

これは、カフェチェーンが「居場所づくり」に成功した証拠でもある。一方で、少し休みたいだけの人が席を確保できないという状況も生まれた。カフェはたくさんあるのに、いざ休憩しようとするとどこも満席。コーヒーを買える場所はあるのに、座れる場所がない。こうして都市部では「カフェ難民」と呼ばれる現象まで起こっている。
現在のカフェ不足とは、必ずしも店舗数の不足ではない。利用できる席の不足なのである。居心地競争が成功し、長時間滞在する人が増えた結果、カフェの供給量を店舗数だけでは測れなくなっている。
一方、中小店を直撃するコーヒー豆高騰
大手が居心地を磨く一方、中小の喫茶店を取り巻く環境は厳しい。現在、コーヒー豆だけではなく、牛乳、卵、パンなどの食材に加え、人件費、光熱費、テナント料も上がっている。大手であれば、仕入れ規模や商品構成、店舗運営の効率化などによってコスト上昇を吸収できる余地がある。しかし、小規模な個人店ではそうはいかない。

特に昔ながらの喫茶店は常連客に支えられているケースが多く、原材料費が上がっても一気に100円、200円と値上げすれば、長年通ってきた顧客が離れる可能性もある。原材料費が上昇しても、常連客への影響を考えると大幅な値上げはしにくく、かといって価格を据え置けば利益率は低下する。こうした価格転嫁の難しさが、中小店の経営を圧迫している。
加えて、大手のように広い店舗を確保し、席間隔や内装、設備に大きく投資することも難しい。そのため、中小店は「居心地」で大手と競うのではなく、別の価値を磨く必要がある。
中小店は「専門性」で差別化
その答えの一つが、コーヒーそのものの専門性だ。豆の産地や農園、品種、精製方法、焙煎、抽出方法、バリスタの技術まで含めて、一杯の違いを明確にする店が増えている。
こうした流れの土台となったのが、いわゆるサードウェーブコーヒーである。コーヒーを単なる飲み物としてではなく、ワインのように産地や品種、生産者まで含めて楽しむ文化が広がり、「ここでしか飲めない一杯」に価値を感じる消費者も増えた。
小規模店にとっては、広さや価格で大手と競えなくても、扱う豆を絞り、焙煎や抽出を細かく調整し、生産背景まで伝えることで独自性を出せる。原材料価格が上昇する中、安さではなく品質や専門性で価格への納得感をつくることが、これまで以上に重要になっている。
アジア・中東から広がる新しいコーヒー文化
さらに近年は、スペシャルティコーヒーの発信地も変わりつつある。これまで日本では、米国や北欧、オーストラリアなど欧米圏のコーヒー文化から大きな影響を受けてきたが、近年はアジアや中東でも独自のロースターやバリスタ、カフェブランドが存在感を高めている。
例えば、モロッコ発の「Bacha Coffee」は、豪華な内装やパッケージを含めた世界観を前面に打ち出す。中国発の「M Stand」は「1店舗1デザイン」を掲げ、店舗ごとに異なる空間をつくる。一方、シンガポールの「ALCHEMIST」やインドの「Blue Tokai Coffee Roasters」は、豆の産地や焙煎、抽出技術など、スペシャルティコーヒー本来の専門性をより深く追求している。
興味深いのは、同じアジア・中東からの新勢力でも、進む方向が一つではないことだ。空間やデザイン、ブランドの物語まで含めて「体験」を売るブランドがある一方で、サードウェーブが重視してきた豆や生産者、抽出技術をさらに突き詰めるブランドも育っている。
「第4の波」という言葉にはまだ統一された定義はない。ただ、コーヒー文化の発信地が欧米中心から多極化し、日本にもアジアや中東から異なる価値観が流れ込み始めている。従来のサードウェーブを引き継ぎながら、専門性とブランド体験の両方向へ進化していると捉えることができる。
こうして、カフェ市場では空間やブランド体験を磨く動きと、一杯の専門性を深める動きが同時に進み、従来の「大手は居心地、中小は専門性」という構図も少しずつ複雑になっている。
「長く過ごす」とは逆方向へ進む韓国カフェ
ここで、別の方向から新しい勢力も入ってきた。韓国発の低価格・大容量カフェである。2026年8月には「Paik's Coffee」が東京・新橋に日本1号店を開業。すでに「マンモスコーヒー」が東京・虎ノ門へ進出しているほか、「fave COFFEE」も大阪や神戸に出店している。さらに、韓国最大級の「MEGA MGC COFFEE」も日本法人を設立し、日本進出を検討していると報じられている。

これらのブランドに共通するのは、大きなカップ、豊富なメニュー、手頃な価格、提供の速さだ。日本の大手カフェが広い客席や居心地を磨いてきたのに対し、韓国勢は小型店を中心に、通勤や仕事の途中で買って持ち歩く日常需要を取り込んでいる。
特に特徴的なのが、大容量を単なる「安売り」に見せない点だ。デザインや商品開発、SNSでの見せ方によって、「安くて大きい」を若い世代にも受け入れられるスタイルへ変えている。コーヒー以外のドリンクも充実しており、既存のカフェともコンビニとも少し違うポジションをつくっている。
日本の大手カフェが「長く過ごす」価値を磨いてきたのに対し、韓国勢が狙うのは「持ち歩く」需要だ。居心地競争によって都市部で席不足が起きる一方、コーヒー豆や人件費の高騰で国内チェーンの値上げが続く中、低価格・大容量のテイクアウト型には新たな成長余地がある。
コーヒーを売るのは、もうカフェだけではない
さらに重要なのは、カフェの競争相手がカフェだけではなくなっていることだ。代表的なのがコンビニである。コンビニへ行けば、手頃な価格で一定品質の挽きたてコーヒーを買える。しかも各社は、豆や抽出方法、コーヒーマシンにも投資し、品質を高めている。コンビニは「安いコーヒー」を売るだけではなく、専門店が磨いてきた品質の領域にまで入り始めている。
牛丼チェーンなどのファストフード業態でも、ドリンクメニューを強化する動きがある。ファミリーレストランも、ドリンクバーによって長時間過ごせる場所としてカフェと競合する。

外食業界全体で見ると、「食事をする店」と「カフェ」の境界は少しずつ曖昧になっている。消費者からすれば、コーヒーを飲むために必ずしもカフェへ行く必要はない。だからこそ、カフェにはさらに明確な存在理由が必要になる。
消費税減税がテイクアウト競争を変える可能性
さらに今後、カフェ市場に影響を与える可能性があるのが、飲食料品の消費税減税だ。仮に飲食料品の税率が引き下げられる一方、店内飲食が10%のまま維持されれば、テイクアウトとの税率差は現在より大きくなる。そうなれば、同じコーヒーを買うにも、「店内で飲む」より「持ち帰る」方が割安になる。
カフェ側も、これまで以上にテイクアウトを意識せざるを得なくなるだろう。コンビニコーヒー、韓国発の低価格・大容量カフェ、牛丼チェーンやファストフードのドリンク、ファミリーレストランの持ち帰り対応など、「客席を必要としないドリンク」の競争はさらに激しくなる可能性がある。
カフェ市場の競争は、店内の席を奪い合うだけではなく、街を歩く人の手元にある一杯を奪い合う競争へ広がっていく。
「長く過ごす」「一杯を極める」「持ち歩く」
大手は空間を磨き、中小店は一杯の専門性を高め、韓国系カフェやコンビニはテイクアウトの利便性を競う。現在のカフェ市場では、「長く過ごす」「一杯を極める」「持ち歩く」という三つの価値が並び始めている。
しかも、それぞれは独立した動きではない。居心地競争によって長時間滞在が増えれば席不足が起こり、テイクアウト需要が生まれる。コーヒー豆が高騰すれば、中小店は価格競争から離れ、専門性を高める必要が出てくる。さらにコンビニコーヒーの品質が上がれば、カフェには「わざわざ店に行く理由」が一段と求められる。
「スタバ疲れ」や「カフェ難民」の背景にあるのは、単なる流行の変化ではない。日本のカフェ市場では今、どこで、何を、どのように飲むのかをめぐる競争が始まっている。


