フードコートはなぜ進化しているのか? 「フードコート3.0」時代、商業施設は「第2の路面店」になる
- 三輪大輔

- 8月6日
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更新日:12 時間前
三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
最近、ショッピングモールのフードコートを訪れて、「ずいぶん進化した」と感じることはないでしょうか。
かつてはハンバーガーやラーメン、うどんなど、手軽に食べられる定番チェーンが並ぶ場所というイメージが強くありました。しかし現在は、その風景が変わり始めています。例えば、これまでロードサイドや駅前などを中心に展開してきた牛角や大戸屋などが、フードコートに対応した店舗を展開しています。「牛たん・とろろ・麦めし」で知られるねぎしも、フードコートへの出店に踏み出しました。

一方、東京・新宿の「reDine 新宿」のように、複数店舗の商品をモバイルオーダーでまとめて注文でき、配膳まで行う新しいフードホールも登場しています。「GURUNAVI FOODHALL WYE」では、全国の人気店のレシピを活用し、その店が出店していない地域でも名店の味を提供する取り組みを進めています。
こうした変化は、単なるフードコートの高級化やグルメ化ではありません。フードコートが担う役割そのものが変わっているのです。その歴史を振り返ると、現在の変化を「フードコート3.0」と呼べる大きな転換点に差しかかっていることが見えてきます。
フードコート1.0――全国チェーンを「集める」
現在のようなフードコートが一般化する以前、総合スーパーの飲食といえば、イトーヨーカドーの「ポッポ」に代表されるような、施設側が自ら運営する軽食店が大きな役割を担っていました。買い物の途中にラーメンやたこ焼き、ソフトクリームなどを食べる。物販が主役で、飲食は買い物を補完する存在だったといえます。

大きな転機となったのが、2000年に施行された大規模小売店舗立地法です。郊外を中心に大型ショッピングモールの開発が進み、商業施設そのものが大型化していきました。施設が大きくなれば、訪れる客層も広がります。子どもはハンバーガーが食べたい。父親はラーメン、母親はうどんが食べたい。こうした異なるニーズを一つの直営店だけで満たすことは難しくなります。
そこで、マクドナルドなど全国的な知名度を持つチェーンを集め、共通の客席を設ける現在のフードコートが広がっていきました。家族それぞれが好きな料理を選びながら、同じテーブルで食事ができる。店舗側にとっても客席を共用できるため、効率的に営業できます。いわば「フードコート1.0」です。
この時代のキーワードは「集積」です。全国チェーンを一カ所に集めることで、「選べる」「早い」「便利」という価値を生み出しました。
フードコート2.0――店と空間を「編集する」
ところが、ショッピングモールが全国へ広がるにつれて、新たな問題が生まれました。どの施設へ行っても、似たようなチェーンが並ぶようになったのです。
有名チェーンを揃えれば一定の安心感はあります。しかし、競合するショッピングモールにも同じ店が入っていれば、「わざわざその施設へ行く理由」にはなりにくい。さらにECの普及によって、衣料品や生活用品は店舗へ行かなくても購入できるようになりました。人口減少が進む中、商業施設同士の競争も激しくなっています。
そこで施設側が力を入れ始めたのが、ネットでは代替しにくい「食」と「体験」でした。変わったのは、単に入居する店舗のグレードではありません。「何店舗集めるか」から「何を、どのように集めるか」へ。フードコートをつくる発想そのものが変わったのです。
地域の人気店や専門店、ミシュランガイドに掲載されるような店を誘致する。地域性を打ち出す。ファミリーが過ごしやすい席をつくる。一人客が利用しやすい空間を設ける。食べるものだけではなく、「誰が、誰と、どのように過ごすのか」まで設計するようになりました。
この流れの中で存在感を増したのが、「フードホール」や現代的な「横丁」です。昔ながらの横丁が持っていた、小さな専門店が集まり、酒を飲み、店をはしごしながら長く滞在する楽しさ。それを現代の商業施設の中で再編集する動きが広がりました。虎ノ門横丁のように名店を一カ所に集める施設や、博多駅周辺の「駅から三百歩横丁」、新大阪駅周辺の飲食ゾーンなども、こうした流れの延長線上にあります。

従来のフードコートが「食事を済ませる場所」だったとすれば、フードホールでは「そこで食べ、飲み、過ごすこと」自体が目的になります。つまり、フードコート2.0のキーワードは「編集」です。店を編集する。地域性を編集する。空間を編集する。そして利用シーンまで編集する。施設側が飲食を一つのコンテンツとして捉え、「その施設ならではの食体験」をつくり始めたのです。
フードコート3.0――店と仕組みを「再設計する」
そして現在、さらに次の変化が起きています。
2.0までの進化を主導してきたのは、主に商業施設側でした。魅力的な店を探し、誘致し、空間をつくる。ところが現在は、飲食企業側もフードコートを重要な出店先として捉え、自分たちの業態そのものをフードコート向けに再設計するようになっています。
象徴的なのが、これまでフードコートでは営業しにくいと考えられてきた業態の参入です。
例えば焼肉です。一般的な焼肉店では各テーブルにロースターを設置し、客が肉を焼きながら食事をします。一定の客席面積が必要で、滞在時間も長い。従来型のフードコートとは決して相性の良い業態ではありません。しかし牛角は、焼肉を丼や定食などの形で提供することで、フードコートでも展開できるモデルをつくりました。
大戸屋のような定食業態にも同じ変化が見られます。さらに、これまでフードコートとは距離のあった専門店も参入し始めています。「牛たん・とろろ・麦めし ねぎし」は、フードコートへの出店という新たな一歩を踏み出しました。
重要なのは、有名チェーンが単に「フードコートにも店を出した」ということではありません。商品、メニュー、厨房、サービス、人員配置などを見直し、従来の店舗を小さくして持ってくるのではなく、フードコートで成立する店へつくり替えていることです。
再設計しているのは飲食店だけではない
さらに3.0では、施設や運営事業者側も仕組みを変えています。
その象徴の一つが、東京・新宿の「reDine 新宿」です。複数の飲食店が厨房などを共有するシェア型の仕組みを取り入れ、注文はモバイルオーダー。異なる店舗の商品をまとめて注文でき、料理の配膳や食器の回収まで行います。従来のフードコートでは、客が各店舗に注文し、ブザーを持って料理を受け取りに行くことが一般的でした。それを、注文、厨房、配膳まで含めて再設計しているのです。出店する飲食店側にとっても、厨房設備やホール機能などを共有できれば、従来型の店舗を一からつくるより投資負担を軽くできます。
「GURUNAVI FOODHALL WYE」も興味深い存在です。全国の人気店をそのまま誘致するのではなく、そのレシピやノウハウを活用することで、離れた地域でも各地の料理を楽しめる仕組みをつくっています。
つまり3.0では、「どの店を入れるか」だけではなく、「どうすればその店や料理をここで成立させられるか」まで踏み込むようになったのです。飲食企業は業態を再設計する。施設や運営事業者は出店・注文・厨房・サービスの仕組みを再設計する。双方からフードコートそのものをつくり替える動きが始まっています。これが「フードコート3.0」です。
なぜ今、「再設計」が必要なのか
背景には、施設側と飲食企業側、それぞれが抱える課題があります。
商業施設側は、人口減少やECの普及、施設間競争の激化によって、「買い物をする場所」というだけでは来店する理由をつくりにくくなっています。だからこそ、食を強化したい。しかも、どこにでもある店を並べるだけでは差別化できないため、これまで商業施設に出店してこなかったブランドや業態まで取り込みたい。
一方、飲食企業を取り巻く環境も変化しています。建築資材や厨房設備、施工費、人件費などが上昇し、ロードサイド店や路面店を一からつくるための投資負担は重くなっています。人手不足も深刻です。もちろん、建築費の高騰だけがフードコート3.0を生んだわけではありません。しかし、より小さな面積、少ない人数、抑えた投資で出店できるモデルを開発する必要性を高め、その動きを加速させる要因にはなっています。
施設側は「もっと魅力的な飲食店に入ってほしい」。飲食企業側は「もっと効率的に店舗を増やしたい」。双方の利害が一致したことで、フードコートの「再設計」が進んでいるのです。
1.0「集積」、2.0「編集」、3.0「再設計」
ここまでの変化を整理すると、フードコートの進化は三つの段階に分けることができます。
フードコート1.0は「集積」。
全国チェーンと共通客席を組み合わせ、利便性と選択肢を提供しました。
フードコート2.0は「編集」。
名店や専門店、地域性、横丁、酒、空間などを組み合わせ、施設独自の食体験をつくる「フードホール化」が進みました。
そしてフードコート3.0は「再設計」。
これまでフードコートでは成立しにくかった店や料理まで取り込むために、飲食企業は業態を変え、施設・運営事業者も厨房や注文、サービス、出店の仕組みそのものを変え始めています。
「集める」から「編集する」へ。そして「成立するようにつくり変える」へ。フードコートは、そこまで進化してきたのです。
そして商業施設は「第2の路面店」へ
そして私は、このフードコート3.0の先に、さらに大きな変化が起き始めていると考えています。それは、商業施設そのものが外食企業にとって「第2の路面店」になりつつあることです。
その兆候は、すでにフードコートの外にも見え始めています。例えば、ロードサイド型ファミリーレストランを代表するロイヤルホストも、商業施設という新たな立地へ出店しています。丸亀製麺を展開するトリドールホールディングスも、新しいカフェブランド「NOSE COFFEE」を商業施設で展開しています。
従来、外食チェーンが成長するための王道は、駅前や繁華街に路面店を出すか、幹線道路沿いにロードサイド店を増やすことでした。しかし、出店コストが上昇し、消費者の行動も変化する中、その常識も変わり始めています。商業施設なら、すでに人が集まっている。駐車場やトイレなどのインフラもある。ファミリー、一人客、若者、高齢者など、さまざまな客層との接点を持つこともできます。そして何より、施設側も「食」を強化したいと考えている。だからこそ、フードコートだけではなく、レストラン、カフェ、新業態などを含め、商業施設全体が外食企業にとって新たな成長の舞台になり始めています。
フードコート3.0とは、単にフードコートが豪華になったという話ではありません。「集積」から「編集」、そして「再設計」へ。その進化によって、これまで商業施設に入ることが難しかったブランドや業態まで、出店できる可能性が広がっています。
そして、その変化はフードコートという枠を越え始めました。これから外食企業にとって重要になるのは、「どの街に路面店を出すか」だけではないのかもしれません。「どの商業施設で、どんな店をつくるか」。フードコート3.0の先で、商業施設は外食企業にとっての「第2の路面店」へと変わり始めています。


