サガミ「二代目長助」が挑む飲食店のAI無人決済。十割そばを日常食にする次世代セルフ業態の現場
- 三輪大輔

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三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
AIという言葉を見聞きしない日はない。生成AIをはじめ、画像認識や需要予測など、外食業界でもAIを活用したさまざまなサービスが登場し、導入が進みつつある。
しかし、人の仕事をAIが代替できるかというと、まだその段階には到達していないのも事実である。外食業界では配膳ロボットや調理ロボットなども導入されているが、それらの多くはAIが現場の状況を判断しているというより、あらかじめ決められた動作や工程を自動化しているものに近い。
では、AIを実際の店舗運営に組み込み、人が行ってきた作業を変えていくと、飲食店はどう変わるのだろうか。その現場を見るために訪れたのが、株式会社サガミホールディングスが展開するセルフ式そば業態「十割そば 二代目長助」の日進店だ。

サガミが育てる次の業態。主役は本格的な十割そば
サガミホールディングスといえば、主力業態「和食麺処サガミ」を中心に、東海地方を代表する和食レストランチェーンとして知られている。1970年に名古屋市で設立され、55年以上にわたり、郊外型ロードサイドの大型和食店という独自のポジションを築いてきた。
メインブランドの和食麺処サガミは、そば、うどん、和食、なごやめしなどを提供するフルサービス型のレストランである。家族利用はもちろん、法事や祝い事、地域の集まりなど、日常からハレの日まで利用シーンは幅広い。さらに同社グループでは「味の民芸」や「どんどん庵」「ぶぶか」なども展開し、和麺を軸に多様な業態を手掛けている。
そのサガミが、現在、新たな成長業態として育てようとしているのが十割そば 二代目長助に他ならない。同店はセルフサービスの本格そば専門店で、愛知県、岐阜県を中心に展開。そばや揚げたて天ぷら、丼ものなどを提供している。
店を訪れて、まず目を引くのが壁にずらりと並んだそばの注文札だ。客は食べたいそばの札を取り、トレイにのせて店内を進んでいく。その途中には天ぷらやおにぎりなどが並び、好きな商品を取っていく。
同店の一番の売りは十割そばだ。そばというと、二八そばを思い浮かべる方も多いだろう。二八そばは、そば粉八割、小麦粉二割で作られることが多く、つなぎを使うことで麺としてまとまりやすい。一方、十割そばはそば粉だけで作るため、そば本来のうまみや風味を味わえる反面、一般的には切れやすく、食感がぼそぼそしやすいという難しさがある。
そこで二代目長助では、押し出し式の製麺を活用している。従来のようにこねて、のして、切るのではなく、圧力をかけて麺を押し出す。そのため、十割そばでありながら、つながりやすく、なめらかな食感を楽しめる。

実際に食べてみても、十割そばに抱きがちなぼそぼそとした印象はない。そばの風味を感じながら、するすると食べられる。この食感をセルフ式の店舗で気軽に楽しめるところに、二代目長助の商品としての面白さがある。
十割そばを日常食にするため人件費を抑え商品へ投資
ただ、十割そばは原材料の選定やブレンド、製麺の仕組みにどうしても手間とコストがかかってしまう。さらに同店では石臼挽きのそば粉を使い、店頭でもそば粉を挽いているのでなおさらだ。そこで日進店では、商品価値を高める一方で、会計業務の効率化にも取り組んでいる。
この背景について、サガミホールディングス取締役執行役員の川口奈央氏はこう話す。
「私たちは十割そば 二代目長助を、いつでも気軽に日常使いできる存在にしたいという思いを持っています。今回の取り組みも、その実現に向けた一つの挑戦です。これまで当社では、和食麺処サガミなど、接客力の高さを活かしたフルサービスの店舗を中心に展開してきました。一方で、十割そば 二代目長助で同じようにフルサービスを行うと、そばそのものに原価がかかっている分、価格が上がり、お客様に気軽に利用していただきにくくなってしまいます。それは私たちの本望ではありません。
そもそも、小麦粉などのつなぎを一切使わないそば粉100%の十割そばは、食物繊維やルチンなどの栄養も含まれており、体にやさしい選択肢として期待できる商品です。だからこそ、少し特別な日のごちそうだった本格的な十割そばを、どうにかして毎日食べていただけるものにしたいと思っていました。
ただ、そのネックになったのが、人件費です。人手不足の影響もあり、人件費は今後さらに上がっていくでしょう。そうなるとフルサービスの業態では価格の維持が難しくなってしまう可能性があります。十割そば 二代目長助でお客様に届けたい価値は、受注や会計の丁寧さではなく、あくまで十割そばそのもののおいしさです。だからこそ、受注や会計のような作業はテクノロジー化を進め、その分、業態の本質であるそばに投資していく必要があると考えました」
商品を取る人まで認識する、AIと重量センサーの会計
その考えを具体化したのが、日進店に導入された全自動会計システムだ。AI自動認識による無人決済を実現しているのは、株式会社TOUCH TO GOが提供する「TTG-SENSE」。同システムは、AIカメラと重量センサーを組み合わせて、商品を取った人と商品の動きをひも付けて認識するという特徴を持つ。
客がそばの注文札や天ぷらを取ると、その場所に設置されたセンサーが重量の変化を検知。同時に、天井に設置されたAIカメラがその重量変化を起こした人物を認識し、レジ前のエリアに入ると、購入する商品と合計金額をレジに表示させる。

実際に店内を見上げると、天井には複数のAIカメラが設置されている。普段なら意識せずに行う「札を取る」「天ぷらを取る」という動きを、重量センサーとAIカメラが追っているわけだ。

この仕組みのベースは、無人コンビニなどで使われている技術だ。ただし、コンビニと飲食店ではオペレーションが異なる。特に違うのが、複数人の商品を一人がまとめて会計する場面だ。例えば、家族連れやグループ客の場合、それぞれがそばの注文札や天ぷらを取り、最後に代表者がまとめて支払うことがある。コンビニの無人決済では、一人の客が商品を取り、そのまま会計するケースが中心だが、飲食店では複数人が取った商品を一つの会計にまとめる場面が少なくない。そのため、開発段階では複数人で取ったものを合算しようとした時に、エラーが出ることがあったという。
さらに、そばの注文方法にも課題があった。セルフ式のそば業態では、客が天ぷらなどを取ったあと、そばの種類をスタッフに伝えることも多い。しかし、二代目長助 日進店では、受注から会計までの流れをできるだけ自動化するため、そばの注文札を取る方式を採用している。
ところが、そばの注文札は、天ぷらと違って一度取ったものを戻したり、同行者に渡したりする動きが起こりやすい。客にとっては自然な行動でも、重量センサーとAIカメラで認識するシステムにとっては、誤作動の要因になり得る。そのため、開発段階では注文札の重量変化をどう読み取るか、AIカメラが人物をどう認識するかの精度を高める必要があった。
年配客にも広がった利用。セルフ化が進んだ社会背景
では、客はこのシステムをどう感じているのだろうか。現場で検証を進めてきた、同社業態開発事業本部の阿曽俊介氏はこう話す。
「もっと大きな拒絶感が出るかと思っていましたが、思ったより受け入れていただけました。特に年配の方は敬遠されるかと思っていましたが、むしろ面白く感じていただけたところがあったのだと思います。
背景には、コンビニやスーパーでセルフレジが普及し、お客様側のリテラシーが上がっている影響も大きいでしょう。モバイルオーダーやセルフレジが一般化して、自分で画面を操作して支払うことへの抵抗感は、以前より下がっているのではないでしょうか。そうした社会全体の変化も、今回の仕組みを受け入れていただけた理由の一つだと感じています」
店内には全自動会計システムの利用方法も大きく掲示されている。初めて利用する客でも、メニューを選び、そば札を取り、天ぷらやおにぎりを選び、レジへ向かう一連の流れを確認できる。

注文と同時に調理を開始。提供と会計もスピード向上
AI無人決済は店舗運営への効果も大きい。中でも特筆すべきなのが回転率の向上だ。十割そば 二代目長助では、客が入店してから天ぷらなどを選び、最後にそばを受け取る。うどんと違い、そばは伸びやすい。そのため、入口でそばを受け取るのではなく、天ぷらを取った後にそばを受け取る動線にしている。
このとき役立つのが、そばの注文札を取った時点で注文が確定するシステムだ。客がそばの注文札を取ると、その情報が厨房側に伝わる。厨房では、客が天ぷらを選んでいる間にそばの準備を進められるため、客が受け取り口に来た時には、ある程度商品を用意できている。提供までの待ち時間を短くできるわけだ。

厨房では押し出し式の製麺機から十割そばが直接ゆで釜へと落とされていく。十割そばを店内でスピーディに提供するための商品設計と、注文情報を先回りして厨房へ伝えるシステムが組み合わされている。
メニューではそばだけでなく、揚げたての天ぷらも選べるほか、手づくりの角煮を使ったそばも人気だという。本格的な十割そばを軸にしながら、選ぶ楽しさを加えているのもセルフ業態ならではだ。

会計の流れも改善された。日進店では、一人利用向けのレジと、家族連れやグループ客など複数人分をまとめて支払うためのレジを設けている。利用シーンに応じて会計の導線を分けることで、レジ前の滞留を抑えやすくなる。

もちろん、席数そのものが増えるわけではないため、客数が一気に大きく増えるわけではない。それでも、提供と会計のボトルネックが解消されれば、ピークタイムの機会損失を減らすことができる。セルフ業態において、これは大きな意味を持つ。
サガミの次を担う業態。十割そばをもっと身近に
十割そば 二代目長助は、サガミグループにとって、将来の成長を担う業態でもある。メインブランドの和食麺処サガミは、フルサービス型の和食レストランとして、これまで地域の幅広い需要に応えてきた。ただ、顧客のボリュームゾーンが、ファミリー層やシニア層を中心としているのも事実だ。
人口構成や外食利用の変化を考えれば、既存業態だけで将来の需要に応え続けることは難しくなる可能性が高い。となると、より日常的に利用しやすく、一人客や若い世代にも入りやすい業態が必要となる。その役割を担う存在として育てようとしているのが、十割そば 二代目長助だ。
出店立地についてもメリットは大きい。これまで同社は、和食麺処サガミや味の民芸など、ロードサイドで実績を積んできた。一方で、これらの業態はある程度の店舗規模や駐車場台数が必要になるため、出店できる立地は限られる。
しかし、十割そば 二代目長助は比較的小さな物件でも成立しやすい。コンビニ跡地のように、これまで主力業態では出店しにくかった立地も候補になり得る。実際、二代目長助ではコンビニ跡地への出店事例もあるという。これは、同社の出店戦略にとって大きな意味を持つ。
将来的には、駅前、街中、フードコートなど、駐車場を持たない立地への展開も視野に入る。ロードサイドで培ってきた出店ノウハウを生かしながら、二代目長助によって出店余地を広げていく。その点でも、同業態はサガミグループにとって新たな成長の選択肢になっている。
二代目長助 日進店の取り組みは、まだ完成形ではない。同店での検証を通して課題を洗い出し、改善を重ねながら、新しい業態として磨き込んでいく段階にある。その先にあるのは、十割そばをもっと身近な存在にすることだ。テクノロジーを活用し、人が担う作業と商品にかける価値の配分を見直す。この試みは、サガミグループが次の成長業態をつくるための、具体的な一歩といえるだろう。


