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外食産業の今後はどうなる? インフレ・人口減少・人手不足で進む5つの変化

執筆者の写真: 三輪大輔
三輪大輔
4 日前
読了時間: 9分

更新日:10 分前

                         三輪大輔|外食ビジネスアナリスト


外食産業は今後どうなるのか。


原材料費や人件費、光熱費、物流費の上昇が続く一方、消費者の生活には物価高が重くのしかかっている。さらに日本では人口減少が進み、飲食店では人手不足も深刻になっている。

外食産業を取り巻く環境は、決して楽観できるものではない。


ただし、だからといって「人口が減るから外食市場も縮小する」と単純に考えることはできない。実際には、外食企業の価格戦略、人材戦略、店舗運営、M&A、海外展開など、経営のあり方そのものが大きく変わろうとしている。これまで外食産業を取材してきた中で見えてきたのは、大きく5つの変化である。


1.インフレ下で進む「価格の三極化」

今後の外食産業では、単純に値上げが続くのではなく、「値上げ」「価格据え置き」「値下げ」の三極化が進んでいくと考えている。


一つ目は、ブランド力や商品力を背景に値上げできる企業だ。多少価格が上がっても客数が大きく落ちないブランドであれば、原材料費や人件費の上昇を価格へ転嫁しやすい。価格ではなく、商品や体験そのものを理由に選ばれている企業は、このグループに入る。


二つ目は、価格を据え置く企業である。ここでは企業規模やサプライチェーンの力が重要になる。調達、製造、物流などを自社やグループ内で広く持つ企業は、コスト上昇の一部を吸収しやすい。値上げをしないこと自体が競争力になるため、あえて価格を据え置く戦略も成立する。


そして三つ目が、値下げである。物価高によって消費者の節約志向が強まる中、競争の激しい市場では、値下げや低価格商品の投入によって客数を取りにいく動きも起きている。


つまり、コストが上昇しているからといって、すべての企業が同じように値上げするわけではない。ブランド力がある企業は値上げする。サプライチェーンや規模の力がある企業は据え置く。そして、競争にさらされる企業は値下げに動く。インフレであるにもかかわらず、外食市場では一部でデフレ的な競争が起こる。今後は企業ごとの強みや競争環境によって、価格戦略の差がさらに広がっていくだろう。


2.外食消費はK字型へ。「一点激安」と高価格店が同時に伸びる

価格の三極化と並行して、消費者の外食行動でも「K字型」の分化が進んでいる。物価高で家計の負担が増え、日常の外食では価格への目線がこれまで以上に厳しくなった。


その象徴ともいえるのが、「一点激安主義」である。すべての商品を安くするのではない。秋刀魚10円、ハイボール100円といった目を引く価格の商品を用意し、来店のきっかけをつくる。全品を値下げすれば利益を圧迫するが、対象を絞ればコストを抑えながら強いお得感を打ち出せる。インフレが続いても、低価格への需要がなくなるわけではない。生活防衛意識が強まるほど、「この商品は明らかに安い」と感じられる分かりやすさは武器になる。


その対極では、高価格の外食も支持を集めている。一人3万円、5万円する寿司店でも、人気店は予約が取りにくい。価格が高くても、料理人の技術や希少な食材、その店でしか得られない体験に価値を感じれば、消費者はお金を使う。


日常では節約する。しかし、使いたい場面ではしっかり使う。こうした消費行動が、外食でも鮮明になってきた。苦しくなるのは、その間に位置する店舗である。特別に安いわけではない。かといって、高い価格を納得させるほどの専門性や体験価値があるわけでもない。それでも原材料費や人件費の上昇によって、価格だけは上がっていく。そうなれば、消費者は「なぜこの店に、この金額を払うのか」をこれまで以上に厳しく見るようになる。


低価格帯では、お得感をどこまで分かりやすく示せるか。高価格帯では、その価格でなければ得られない価値をつくれるか。外食消費のK字化が進むほど、中間価格帯にはこれまで以上に明確な来店理由が求められる。


3.省人化の次はAXへ。人手不足対策は「採用」から「定着・待遇」へ

外食産業では、人手不足への対応としてDXや省人化が急速に進んできた。モバイルオーダー、セルフレジ、配膳ロボット、自動発注、予約管理システムなど、少ない人数でも店舗を運営できる仕組みはすでに広がっている。


そして今後は、その先に「AX(AI Transformation)」の動きも本格化していくだろう。DXが業務のデジタル化や効率化を進めるものだとすれば、AXはAIを前提に業務そのものを組み替えていく考え方である。


AIによる需要予測や自動発注、電話予約対応、シフト作成、採用支援、口コミ分析、教育支援など、これまで人が判断していた業務の一部をAIが担う領域は広がっている。重要なのは、「人を減らすためにAIを使う」だけではない。AIやデジタル技術に任せられる業務を増やし、人は接客や調理、教育、店舗マネジメントなど、人にしかできない仕事へ集中する。そうした役割分担を再設計することが、今後の店舗運営では重要になる。


ただし、DXやAXを進めても、人手不足そのものがなくなるわけではない。そこで企業は、採用手段も広げてきた。タイミーに代表されるスポットワーク、従業員から知人を紹介してもらうリファラル採用、退職者を再雇用するアルムナイ採用、特定技能を活用した外国人材の採用など、人を確保する入口は増えている。


求人広告のあり方も変わった。以前は掲載料を支払っても応募が来るとは限らず、採用できるかどうか分からない面が強かった。しかしIndeedなどの求人検索サービスや運用型の採用支援が広がり、企業側も応募状況を見ながら採用活動を改善しやすくなっている。


それでも人が足りない。そうなると次に重要になるのが、「どう採用するか」ではなく、「採用した人にどう長く働いてもらうか」である。教育、キャリア形成、職場環境、従業員同士の関係性、マネジメントなど、辞めさせない組織づくりの重要性はさらに高まる。近年、人的資本経営への関心が高まっていることとも無関係ではない。


そして最終的には、待遇の問題から逃れることはできない。賃金、休日、福利厚生、キャリアアップの機会などを含め、「この会社で働きたい」と思ってもらえる条件を整えなければ、人材を確保することは難しくなる。大手外食企業では、店長や現場社員の待遇を大幅に引き上げる動きも出ている。


今後の人手不足対策は、省人化や採用強化だけでは完結しない。DXやAXによって業務そのものを見直しながら、採用の入口を広げ、入社した人が長く働ける組織をつくる。そのうえで、待遇も改善していく必要がある。


こうした複数の取り組みを同時に進められる企業ほど、人材確保では優位に立ちやすい。今後の外食産業では、「人とテクノロジーをどう組み合わせるか」が、企業競争力を左右する重要な要素になっていくだろう。


4.「人」と「資本」の両面からM&Aと集約が進む

人手不足は、外食産業のM&Aとも深く関係している。これまでM&Aは、成長戦略やブランド獲得の側面から語られることが多かった。しかし今後は、人材確保という意味でも重要性が増していくだろう。


中小企業や個人店では、ブランドや商品に魅力があっても、人を採用できないことによって店舗運営が難しくなるケースが増える。特に大手企業が賃金や福利厚生、教育制度を充実させれば、働き手は条件の良い企業へ流れやすくなる。すると、人材を確保できる大手企業と、人材を確保できない中小企業、という差が広がる。


さらに人手不足だけではない。原材料の仕入れ、物流、システム投資、店舗開発、マーケティングなど、外食企業には以前より大きな経営資源が必要になっている。単独でそれらすべてに対応することが難しくなれば、資本力のある企業グループに入るという選択肢が現実味を帯びる。


一方、大手企業の側から見れば、魅力的なブランドを買収することで、新しい成長機会を得ることができる。調達、物流、システム、採用、教育などの共通基盤を提供することで、単独では成長が難しかったブランドを再び拡大させることも可能になる。


つまり今後のM&Aは、「資本力のある企業がブランドを集める」だけではなく、「人を採用できる企業に店舗やブランドが集まる」という側面も強くなる。人手不足が進む。中小企業が採用しにくくなる。大手企業は待遇を改善し、人材を集める。さらに大手企業がブランドを買収する。こうした循環によって、外食産業の集約はさらに進んでいく可能性がある。


ブランドは残っても、経営主体は変わる。今後の外食産業では、こうしたケースがさらに増えていくだろう。


5.成長の舞台が「国内出店」から川上・海外へ広がる

これまで日本の外食企業は、国内で店舗数を増やすことで成長してきた。しかし人口減少が進む日本で、同じモデルを永遠に続けることは難しい。そこで今後重要になるのが、「川上」と「海外」である。


まず川上では、食材の生産や加工、物流など、外食企業が調達段階まで関与する動きが進んでいる。原材料価格が大きく変動する時代では、店舗運営だけでなく、食材をどう安定的に確保するかも競争力になる。自社で製造機能を持つ。生産者との関係を強化する。物流を効率化する。こうした取り組みによって、価格や供給の安定性を高めることができれば、価格競争にも強くなる。


そして、もう一つの成長先が海外である。回転寿司、ラーメン、牛丼、焼肉、うどんなど、日本発の外食ブランドは世界各国に進出している。もちろん海外展開は簡単ではない。人件費や賃料、食文化、商習慣、物流など、日本とは異なる課題が多い。それでも、国内市場だけで大幅な店舗増を続けることが難しくなる中、海外を成長戦略の中心に据える企業は増えていくだろう。


今後の外食企業は、国内で何店舗持っているかだけではなく、どの国で展開しているか。どこまで調達や製造を押さえているか。どれだけ複数の成長源を持っているか。によって競争力が分かれていく。


外食産業は「企業の体力差」が広がり、寡占化が進む

外食市場そのものがなくなるわけではない。人が食事をし、人と会い、時間を過ごす場所として、外食の需要はこれからも残る。ただ、勝ち方は大きく変わる。これまでは、立地と商品力があれば成長できた企業も多かった。しかし今後は、それだけでは足りない。価格を維持する力、人を採用する力、テクノロジーへ投資する力、ブランドを育てる力。企業としての総合力がより問われるようになる。その差は、すでにさまざまな場面で表れ始めている。


大手企業は、賃金を引き上げ、教育制度を整え、DXやAXへの投資を続けることができる。

調達や物流でも規模のメリットを生かしやすい。さらにM&Aによって、新しいブランドや成長機会を取り込むこともできる。


一方、中小企業や個人店では、商品に魅力があっても、人手不足やコスト上昇が経営の重荷になりやすい。成長余力が乏しくなれば、単独経営を続けるより、大手企業の傘下に入る選択肢も現実味を帯びる。


こうした動きが積み重なれば、外食産業では寡占化がさらに進んでいく。回転寿司や牛丼のように、すでに大手チェーンへの集約が進んだ業態だけではない。ラーメン、居酒屋、専門店など、これまで中小企業や個店が多かった市場でも、再編の波は広がる可能性がある。


今後の外食産業で問われるのは、市場が成長するか、縮小するかだけではない。その成長を誰が取り込むのか。外食市場に成長余地が残っていても、その果実がすべての企業に均等に行き渡るわけではない。企業間の体力差が広がるほど、ブランド、人材、店舗、資本は、より強い企業へ集まりやすくなる。外食産業は、成長と再編が同時に進む時代に入っている。



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