渋谷・円山町で進む再開発。ラブホテル街はどう変わる? 新宿・池袋との違い

更新日:17 時間前
三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
東京を代表する繁華街である渋谷、新宿、池袋では、いずれも大規模な再開発が進んでいる。
渋谷では「100年に一度」と呼ばれる駅周辺の再開発が続き、新宿でも駅東西を含めた再編が進む。池袋でも西口約4.5ヘクタールを対象とした市街地再開発が計画されるなど、三つの街はいずれも大きな転換期を迎えている。
ところが、街を歩いてみると大きな違いに気づく。渋谷では、かつてラブホテルや風俗店、夜の飲食店が集まっていた道玄坂から円山町にかけて、一般ホテルや新しい飲食店が増え、街の雰囲気が変わり始めている。一方、新宿には今も歌舞伎町という日本有数の歓楽街があり、池袋でも北口周辺にはホテル街や夜型の飲食店が広がっている。
同じように再開発が進んでいるにもかかわらず、なぜ渋谷では歓楽街の変化が目立ち、新宿や池袋ではその姿が比較的強く残っているのだろうか。
円山町で進む「街の用途」の変化
象徴的なのが渋谷・円山町である。
円山町は大正から昭和初期に花街として栄え、その後はラブホテル街、歓楽街として発展してきた。渋谷駅から徒歩圏という極めて恵まれた立地にありながら、道玄坂を上った先にあることやホテル街としてのイメージもあり、渋谷の中では独特な空気を残してきた。その環境が、小さなバーや飲食店、クラブなどを育ててきた面もある。
ところが近年、その景色が変わり始めている。10月1日には円山町に「VADE HOTEL SHIBUYA」が開業し、その1階にはMOTHERSが手掛けるオールデーダイニング「CHICAMA 円山町」がオープンした。朝7時からモーニングを提供し、カフェからディナーまで利用できる店舗である。かつて「夜の街」という印象が強かった円山町に、朝から利用できる飲食店が登場したこと自体、街の利用時間や来街者が変わってきたことを象徴している。

もちろん、一店舗の開業だけで街全体の変化を説明することはできない。重要なのは、その背景に土地利用そのものの変化があることだ。
ラブホテルは「建て替えればいい」わけではない
円山町の変化を考える上でもう一つ重要なのが、ラブホテルに対する規制である。渋谷区は2006年、「渋谷区ラブホテル建築規制条例」を制定した。安全・安心なまちづくりや生活・教育環境の向上を目的としており、新たなラブホテルの建築を厳しく規制している。一般ホテルなどを建設する場合にも、事前に区長の同意が必要となる。
ここに円山町特有の事情がある。建物は永遠には使えない。老朽化すれば改修や建て替えが必要になる。しかし従来と同じラブホテルとして新しく建て直すことには高いハードルがある。一方、渋谷駅周辺の再開発が進み、土地の価値が上昇すれば、一般ホテル、住宅、オフィス、飲食店など別の用途で土地を活用する選択肢が強くなる。
つまり、単純に「ラブホテルの人気がなくなったから減る」という話ではない。再開発によって土地の価値が上がれば、「この土地を何に使うのが最も収益性が高いのか」という判断そのものが変わる。そのタイミングで建物の老朽化や規制が重なれば、街は少しずつ別の用途へ置き換わっていく。
一度一般ホテルやマンション、商業施設へ転換された土地が、再びラブホテルへ戻る可能性は高くない。だからこそ、円山町の変化は不可逆的に進む可能性がある。
新宿も池袋も再開発している
ここで重要なのは、新宿や池袋で再開発が行われていないわけではないという点である。新宿駅東口では現在も地区計画の変更など、段階的なまちづくりが進んでいる。2026年にも新たな地区計画変更が行われており、新宿駅周辺も都市更新のただ中にある。
それでも、歌舞伎町は巨大な歓楽街として存在している。理由の一つは、再開発の中心と歓楽街との位置関係だろう。新宿駅周辺から歌舞伎町へは一定の距離があり、さらに歌舞伎町自体が飲食、娯楽、宿泊、ナイトビジネスなどを集積した巨大な商圏として成立している。歓楽街そのものが一つの目的地になっているのである。

池袋も興味深い。池袋駅西口では約4.5ヘクタールを対象とした大規模な市街地再開発が計画され、駅直上西地区を含めて、オフィスや商業、宿泊、歩行者空間などを再編する構想が進んでいる。豊島区は、駅周辺を歩行者中心の都市構造へ転換し、「国際アート・カルチャー都市」の形成を目指している。
それでも、ホテル街や夜の飲食店が多いエリアは駅北側に広がっている。もちろん今後、西口再開発の影響が北側へ広がる可能性はある。しかし現時点では、再開発の中心と歓楽街が完全に重なっているわけではない。この距離の違いは大きい。
渋谷は「歓楽街を失う」のか
こう考えると、渋谷、新宿、池袋の違いが見えてくる。
再開発が行われれば、自動的に歓楽街がなくなるわけではない。再開発の中心がどこにあるのか。歓楽街との距離はどの程度なのか。その土地でどの用途が高い収益を生むのか。そして既存の歓楽街が、どの程度強い商圏を形成しているのか。こうした条件によって、再開発後の街の姿は変わる。

渋谷の場合、駅周辺から道玄坂、円山町まで街が連続している。そのため駅前で始まった都市更新や地価上昇の影響が、歓楽街まで届きやすい。さらにラブホテルの新設規制も加わる。結果として、既存ホテルの更新期を迎えるたびに、一般ホテルや住宅、飲食など別の用途へ転換する選択肢が浮上する。
ただし、これを「円山町らしさが失われる」とだけ見るのも違うだろう。街の個性とは、ラブホテルや歓楽街が残ることだけで決まるものではない。「CHICAMA 円山町」のような新しい飲食店や一般ホテルが増えれば、これまで円山町を訪れなかった人が足を運ぶようになる。朝や昼にも人が動き、これまでとは異なる飲食需要も生まれる。渋谷は歓楽街としての円山町をそのまま維持するのではなく、別の魅力を持つエリアへ更新し始めているともいえる。
これは東京だけで起きていることではない
そして、こうした動きは東京だけのものではない。以前、筆者は渋谷・円山町、福岡・春吉、広島・薬研堀、名古屋・女子大小路を取り上げ、中心部の再開発が周辺の「トレンドエリア」を変え始めていることを書いた。
これらのエリアには共通点がある。中心商業地に近いにもかかわらず、ホテル街や歓楽街として独自の用途を持ってきたことで、大規模資本の介入が比較的少なく、古い建物や小規模な飲食店が残ってきたことである。
福岡・春吉は、その代表例だ。春吉は天神と中洲の間に位置する。福岡では「天神ビッグバン」による大規模な都市更新が現在も続き、2026年にも新たなオフィス・商業施設が竣工するなど、天神の景色そのものが大きく変わっている。その変化が中心部だけで完結するとは考えにくい。天神に隣接し、中洲の対岸に位置する春吉のようなエリアにも、不動産投資や宿泊、飲食の需要が波及していく。

広島でも、流川・薬研堀という巨大な歓楽街を抱えながら、広島駅や都心部の再整備が進んできた。歓楽街がすぐになくなるわけではないが、都心の価値が上がれば、その周辺にある古い雑居ビルやホテルの使われ方も少しずつ変わっていく。
つまり今、全国の主要都市で起きているのは、単純な「歓楽街の衰退」ではない。都市中心部の価値が上がることで、これまで歓楽街やホテル街だった土地に、新しい用途との競争が生まれているのである。
歓楽街も街とともに変わっていく
かつて歓楽街やホテル街には、都市の中で重要な役割があった。夜の娯楽を受け止める場所であると同時に、相対的に低い家賃や古い建物が残ることで、小さな飲食店や新しいプレイヤーが挑戦できる場所でもあった。一方で、再開発によって道路や建物が整備され、安全性や利便性が高まり、幅広い人が街を利用できるようになることにも大きな価値がある。
どちらか一方が正しいわけではない。興味深いのは、同じ東京の巨大ターミナルでも、その答えが異なっていることだ。新宿は歌舞伎町という巨大歓楽街を抱えながら都市更新を進める。池袋も駅前を大きく再編しながら、北側にはホテル街や歓楽街が残っている。
一方、渋谷では再開発の波が円山町まで届き、土地の用途そのものが変わり始めている。そして福岡や広島を見れば、同じような問いが全国の都市にも広がっていることが分かる。歓楽街が残ることだけが街の個性ではない。変わることで生まれる新たな魅力もある。
渋谷、新宿、池袋がそれぞれ異なる方向へ進んでいるように、都市は同じ姿を目指す必要もない。これから主要都市の再開発がさらに進む中で、歓楽街がどのように残り、あるいは新しい街へと更新されていくのか。その違いを追っていくことで、それぞれの都市が持つ個性も、より鮮明に見えてくるはずだ。


