マクドナルド鎌倉店はなぜ木造に? 既存店改装と1兆円に迫る店舗戦略

鎌倉の街に現れた白い「M」の看板。2026年9月18日にオープンした「マクドナルド鎌倉常盤店」は、鎌倉市の景観条例に配慮した外観と、建物の躯体に国産木材を100%使用したことが話題になった。国内のマクドナルドで、躯体に国産木材を100%使った初めての店舗だ。

一見すると、街並みに合わせたデザインが目を引く象徴的な環境配慮店舗である。しかし、店を訪れて気になったのは看板の色や木の温かみだけではなかった。ドライブスルーは2レーンで、デリバリー専用の部屋も備える。目を引く外観の裏側には、増え続ける注文を効率よく処理するための店舗設計がある。


この新店舗から考えたいのは、二つのテーマだ。一つは、木造化と景観への配慮が持つ意味。もう一つは、既存店の改装を含めたマクドナルドの店舗投資である。そこには、1兆円に迫るチェーン全体の売上高を支える「稼ぐ店舗」の設計が見えてくる。
建物の木造化が注目される三つの背景
木造建築への関心が高まっているのは、外食業界だけではない。商業施設やコンビニエンスストアでも、木材を使った建築が進んでいる。背景には大きく三つの理由がある。
一つ目は、脱炭素への対応だ。木は成長する過程で二酸化炭素を吸収し、伐採後も建物として使うことで、その炭素を建物の中に貯蔵できる。店舗の省エネだけでなく、建築に使う材料を見直すことも、環境負荷を考える取り組みになる。
二つ目は、国内林業に新たな需要をつくることだ。戦後に植林されたスギやヒノキは利用期を迎えている。木を伐採して建材として使い、再び植えて育てる循環をつくるには、国産材を継続的に使う需要が欠かせない。大手企業の店舗建築は、木材の供給や加工、施工を担う地域の事業者を支えることにもつながる。
三つ目は、店舗の魅力を高めることだ。木の質感は空間に温かみをもたらし、地域の景観にもなじみやすい。鎌倉店では、木材の活用と景観条例への配慮が重なり、一般的な店舗とは異なる外観そのものが店の個性になっている。

環境配慮と店舗生産性をどう両立するか
鎌倉常盤店で興味深いのは、木造化や景観への配慮だけでなく、店舗運営の効率も同時に追求している点だ。2レーンのドライブスルーやデリバリー専用スペース、セルフオーダー機などを備え、店内飲食以外の注文にも対応する。

日本マクドナルドホールディングスによると、2026年6月末時点で、モバイルオーダー、デリバリー、タッチパネルなどデジタル経由で注文する顧客の割合は約70%に達している。注文チャネルが増えるほど、重要になるのは「注文を受けること」より、その後の調理や受け渡しまで含めて滞りなく処理できる店舗設計だ。
鎌倉常盤店は、地域の景観に合わせた木造店舗であると同時に、こうした注文構造の変化にも対応した新しい店舗モデルと見ることができる。
既存店のリモデルも成長戦略の柱
新店を出すだけでなく、既存店のリモデルを大規模に進めていることも、マクドナルドの店舗戦略を考えるうえで重要だ。
同社は2025〜2027年の3年間で、1,000店舗以上をリモデルする計画を掲げている。2025年には220店を改装し、2026年は350〜400店を予定。2026年上期の実績は189店だった。決算説明会資料では、リモデル前後でお客様満足度が向上したことも示されている。

改装は、古くなった内装を新しくするだけではない。注文や受け取りのしやすさを高め、クルーの動線やレイアウトを改善し、顧客体験と働きやすさを一緒に見直す投資だ。全国に広がる店舗網を活用しながら、一店ごとの売上高や収益性を高めていく取り組みでもある。
2026年上期の既存店売上高は前年同期比5.9%増となり、43四半期連続で前年を上回った。この伸びをリモデルだけの効果と見ることはできない。商品、価格、販促、デジタル化、店舗運営など、複数の施策が重なった結果だ。ただし、3年間で1,000店以上を改装する計画や、改装前後のお客様満足度の向上からは、既存店を磨くことを成長戦略の重要な柱に据えていることが分かる。
木造店舗を一店限りで終わらせない
マクドナルドの木造化で注目したいのは、環境配慮だけでなく、標準化を進めている点だ。
林野庁の資料によると、2018年まで同社のドライブスルー店舗はほぼ全てが鉄骨造だった。その後、地域材を使った木造店舗のモデル化・キット化を進め、一般流通するスギやヒノキを使った標準モデルを整備。2023〜2025年には、木造店舗を計127店建設した。
同社は年間約150店舗を建設する見通しを示し、そのうちドライブスルー型が6〜7割を占めるとして、ドライブスルー店舗で木造化を推進している。これは、今後建設する全店舗が木造になるという意味ではない。木造店舗を各地で建てやすくするモデルや施工方法を整え、主要な店舗タイプの一つに広げようとしていると捉えられる。建築日数の短縮や、現場に近い地域からの木材調達も今後の課題に挙げている。
鎌倉店は、国産材の活用や景観との調和を実現しながら、ドライブスルーやデリバリーの注文を処理する機能も備えている。木造化を一店限りの特別仕様にせず、地域に合った店舗を効率よく建てられる仕組みにできるか。そこが、環境への取り組みを継続可能な店舗戦略にするうえで重要になる。
全店売上高は約9,000億円、1兆円が視野に
マクドナルドの売上規模を語るときは、連結売上高と全店売上高を分けて見る必要がある。2025年の連結売上高は4,166億円。一方、直営店とフランチャイズ店の売上を合計した全店売上高(システムワイドセールス)は8,886億円だった。
4,166億円も正しい売上高だが、チェーン全体でお客様が店舗で使った金額を表す数字ではない。フランチャイズ店舗の売上高全額は、マクドナルド本体の連結売上高には含まれない。チェーン全体の販売規模を見るうえでは、全店売上高の方が実態をつかみやすい。
2026年の全店売上高予想は9,480億円で、1兆円に迫る。そこへ向かう成長を支えるには、新店を出すだけでなく、既存店の改装で一店ごとの力を高めることが欠かせない。鎌倉店のように、地域の景観や木材利用に配慮しながら、複数チャネルの注文を処理できる新店を開発することも、その一環だ。
鎌倉店一店の売上が、チェーン全体の規模を大きく変えるわけではない。しかし、地域に合わせた木造店舗を、運営効率を保ちながら建てるノウハウが蓄積されれば、今後の出店に生かせる。新店の開発と既存店のリモデルを両輪に、一店ずつの魅力と生産性を高めていく。白い「M」の看板は、環境配慮と成長を結び付けるマクドナルドの店舗戦略を映している。


