【飲食店DX総論】「モバイルオーダー導入」はDXではない。すかいらーく、トリドールの事例に学ぶ、勝ち組経営者が実践する“本当のデータ活用”
- 三輪大輔

- 2025年1月7日
- 読了時間: 10分
更新日:8 時間前
三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
飲食店DXの事例を探しているなら、すかいらーくとトリドールの取り組みは外せない。両社は単なるモバイルオーダー導入ではなく、データを起点に経営そのものを変革してきた。本記事では、飲食店DXの成功事例とその本質を整理する。
すかいらーく・トリドールが実践する「本当のデータ活用」とは
飲食店がDXを推進することは、もはや特別な取り組みではなくなった。モバイルオーダーやタブレット型POSレジ、予約管理の自動化など、デジタルツールの導入は急速に進んでいる。しかし、ツールを導入しただけで「DXを推進している」と語る経営者もまだまだ多い。現場を取材していると、導入そのものが目的化し、本来の変革にまで踏み込めていないケースも散見される。

私自身、2021年12月に『「改革・改善のための戦略デザイン 外食業DX」』を刊行し、外食業におけるDXの必要性と構造について整理するとともに、数多くの飲食店のDX推進事例を掲載し、その最前線を伝えた。あれから数年が経過し、デジタルツールの普及は確実に進んだ。それでもなお、DXの本質は十分に共有されているとは言い難い。DXが単なるIT導入やデジタル化の言い換えとして扱われ、言葉だけが先行している場面も目立つ。
その結果、外食大手と中小個店の間だけでなく、同じ外食産業の中でも取り組みの差が拡大している。この差は資金力や投資額の違いではない。DXに対する理解の差であり、突き詰めれば「データをどう捉え、どう活用しているか」の差である。
実際、業績を伸ばしている外食企業を見ると、その共通点は明確だ。すかいらーくホールディングスはデジタルを活用しながら現場オペレーションと顧客体験を磨き上げ、快進撃を続けている。また、トリドールホールディングスも、CIO(最高情報責任者)とCTO(最高技術責任者)を配置し、データ活用のその先までを見据えた体制を構築している。
これらの企業が示しているのは、DXの本質が「ツールを入れること」ではなく、データを起点に、意思決定やビジネスモデルを変えていくことにあるという事実である。実際にその詳細を具体的に見ていこう。
飲食店DXの事例① すかいらーくの「店舗中心経営」とDX
飲食店DXの代表的な事例として挙げられるのが、すかいらーくホールディングスの取り組みである。同社は単なるデジタルツール導入ではなく、「店舗中心経営」を軸に、人材投資とDXを組み合わせた経営改革を進めてきた。
すかいらーくの特徴は、人をコストではなく「付加価値を生む原動力」と位置付けている点にある。人的資本への投資を積極的に行い、従業員満足の向上を通じてサービス品質を高め、顧客満足・客単価向上へとつなげる。この好循環を経営の核に据えている。
その一方で、効率化できる業務は徹底的にDXで改革している。2020年から2023年にかけて全店舗のPOSレジを刷新し、約2,400店舗にテーブル決済とセルフレジを導入。さらに、2021年11月頃からネコ型配膳ロボットの本格導入を進め、2022年12月には全国2,100店舗での展開を完了した。
「ベラちゃん」の愛称で親しまれる配膳ロボットは、人手不足の補完にとどまらない。新設店舗ではロボットとスタッフの協働を前提とした店舗設計を行い、業務効率化と顧客体験の向上を同時に実現している。
加えて同社は、「マネジャー経営力の醸成」「採用・育成・定着の推進」「生産性向上」という三つの柱を掲げ、一店舗を一企業と捉える運営体制へと移行した。DXで効率化を進める一方、付加価値を生む領域は人が担う。この「効率化と高付加価値の両立」こそが、すかいらーくの飲食店DXの本質である。
飲食店DXの事例② トリドールの「心的資本経営」とAI活用戦略
飲食店DXの事例として、トリドールホールディングスの取り組みも象徴的である。同社は「心的資本経営」という独自の経営思想を掲げ、従業員の“心の幸せ”と顧客の“心の感動”を同時に高めることで持続的成長を実現している。
同社はこの循環を「ハピカン繁盛サイクル」と名付けた。働く人の幸福がエンゲージメントを高め、それが「食の感動体験」を生み出す。結果として顧客ロイヤリティが向上し、売上が伸び、再び従業員へ還元される。この循環を経営の中核に据えている。実際、同社は従業員離職率を前年比12.9%改善、顧客からの称賛件数を24.5%増加させ、2025年3月期連結売上収益は2,682億円と過去最高水準を記録している。
しかし重要なのは、こうした思想の裏側で徹底したDXを進めている点にある。トリドールは2019年9月にDX着手を決定し、同年12月に「ITロードマップ」を策定。2021年には「DXビジョン2022」、2022年には「DXビジョン2028」を打ち出し、段階的に基盤整備を進めてきた。
具体的には、AI需要予測による売上計画策定の省力化・食材・包材の発注自動化、従業員ワークスケジュールの自動化、クラウド型タブレットPOS導入などを実施。FLマネジメントをAIで効率化することで、従業員がお客様と向き合う時間を創出している。
同社は「手づくり」「できたて」という体験価値を守るため、あえて非効率な製麺工程を店舗で行うなど逆張りの経営を貫いてきた。一方で、DXにより効率化できる領域は徹底して省人化する。この“二律両立”こそが、トリドールの飲食店DXの本質である。
「DXビジョン2028」では、下記の4つの整備を掲げ、感動体験を支える経営基盤の構築を進めている。
ビジネス基盤
AI活用
データマネジメント基盤
情報セキュリティ基盤
飲食店DXを成功させる5つのポイント
ここまで見てきたように、飲食店DXの本質は単なるITツールの導入ではなく、経営の意思決定や組織のあり方を変えることにある。では、実際に飲食店がDXを成功させるためには、何が重要なのか。以下に、すかいらーくとトリドールの事例から導き出せる共通ポイントを整理する。
1ツールの導入を目的にしない
DXはモバイルオーダーやPOS刷新そのものではない。導入後のデータ活用まで設計することが前提となる。
2人材投資とDXを両立させる
すかいらーくやトリドールが示すように、効率化と人的資本への投資は対立しない。付加価値を生む領域は人が担う。
3全社的なロードマップを持つ
トリドールの「ITロードマップ」や「DXビジョン2028」に見られるように、段階的な計画が不可欠である。
4データを現場判断に接続する
AI需要予測やPOSデータは、最終的に店舗オペレーション改善や商品戦略に反映されなければ意味がない。
5経営思想とデジタル戦略を一致させる
DXは理念と切り離して進めるものではない。経営の方向性と一致して初めて競争優位を生む。
DXはIT化やデジタル化の言い換えではない
DXの本質がITツールの導入ではないとすれば、ではDXとは何を指すのか。そう疑問に思う方もいるだろう。そもそもDXとは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略である。直訳すれば「デジタルによる変革・変容」だが、この「変革」の部分が十分に理解されていない。
近年、タブレット型POSレジやモバイルオーダー、シフト管理、予約台帳、受発注システムなど、飲食店の運営を支えるデジタルサービスは急速に普及した。かつては高額だったPOSレジも、今では比較的リーズナブルな価格で導入できるようになり、導入のハードルは大きく下がっている。その結果、「ガチャレジをタブレット型POSレジに切り替えた」「紙伝票をやめてモバイルオーダーを導入した」といった変化をもって「DX化した」と捉えるケースが増えた。
さらに、スタッフ間の連絡をチャットツールで行い、WEB予約を自動で席配置に反映させるなど、業務プロセスそのものをデジタルに移行している店舗も増えている。しかし、結論から言えば、これらはいずれもDXではない。
DXの前段階にある二つのステップ
DXを正しく理解するためには、その手前にある二つの概念を整理する必要がある。それが「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」である。
デジタイゼーション
アナログデータのデジタル化を指す。紙の伝票をデータ入力に置き換える、ガチャレジをPOSレジに切り替えるといった取り組みがこれに当たる。
デジタライゼーション
業務プロセスそのものをデジタル化することを指す。モバイルオーダーで注文から会計までを一気通貫で処理する、予約管理を自動化するといった取り組みが代表例だ。
これらはDXを実現するための重要なステップではあるが、それ自体がDXではない。あくまでDXに至るための土台に過ぎない。
DXの定義と、そこに含まれる本質
DXについては明確に一つの定義があるわけではないが、2018年に経済産業省が示した定義は、一つの指針となる。要点を整理すると、DXとは、データとデジタル技術を活用し、ビジネスモデルを変革し、競争上の優位性を確立することである。ここで重要なのは、デジタル技術そのものではなく、「データの活用」が中核に据えられている点だ。
デジタイゼーションやデジタライゼーションは、部分最適に過ぎない。DXは、組織全体や事業構造にまで影響を及ぼす全体最適の取り組みである。
飲食店にとっての競争上の優位性とは何か
では、飲食店にとっての競争上の優位性とは何か。それは「顧客体験価値の創出」に他ならない。コロナ禍以降、価格や立地だけで選ばれる時代は終わりつつある。来店前から退店後までを含めた体験全体が評価され、その積み重ねがリピートやブランド形成に結び付く。
以上を踏まえると、DXは次のように定義できる。
デジタルトランスフォーメーション顧客体験価値を高めるための、事業やビジネスモデルの変革
DXの本質は、データをどう使うかにある
DXを実現するために必要なのは、ツールの導入そのものではない。重要なのは、そこから生まれるデータをどう扱うかである。
具体的には、下記の一連の流れがあって、はじめてDXを推進しているといえる。
・デジタルツールを導入する
・来店履歴や購買データを蓄積する
・データを分析し、サービスや業務を見直す
・その変化をビジネスモデルにまで落とし込む
・組織や企業文化がそれを支える状態をつくる
例えばPOSレジであれば、導入して終わりでは意味がない。売れ筋商品、客単価、来店頻度といったデータを分析し、メニュー改善や新商品の開発、場合によっては新業態の検討につなげていく。同時に、そうした取り組みが現場で定着するよう、組織や企業文化を変えていくことも欠かせない。
まとめ
DXは流行語ではない。また、IT化やデジタル化の別名でもない。デジタルツールによって得られたデータを起点に、意思決定や事業のあり方そのものを変えていく取り組み。それがDXの本質だ。
DXへの理解の差は、すでに業績や競争力の差として表れ始めている。いま問われているのは、「DXに取り組んでいるかどうか」ではなく、DXをどう理解し、どうデータを活用しているのかにあるといっても過言ではないだろう。
現場でDX推進を加速させる実践論【飲食DXの伴走者】
DDXは、自社だけで完結させようとすると、必ずどこかで行き詰まる。SaaS型のサービスを的確に活用し、データを価値に変える仕組みを持つパートナー(伴走者)を知ることが、変革への近道だ。以下では、飲食店のDX推進を支える各種サービスについて、現場での使われ方という視点から整理する。
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