飲食店の倒産は過去最多へ。103万円の壁、カード手数料の苦境に「TOKYO DINING COLLECTIVE」が示す、声を数字に変える政策提言
- 三輪大輔

- 5 日前
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更新日:5 時間前
三輪大輔|外食ビジネスアナリスト
帝国データバンクによると、2025年の飲食店経営事業者の倒産は900件となり、前年の894件を上回って過去最多を更新した。食材費や光熱費の高騰、賃上げによる利益圧迫に加え、中小・零細の飲食店を中心に、倒産・廃業の件数は高止まりすると見られている。
業態別に見ても、厳しさは表れている。東京商工リサーチによると、2026年1〜4月の「居酒屋」倒産は88件となり、前年同期比54.3%増と急増した。1989年以降、1〜4月としては最多を更新している。
コロナ禍が明け、街には人が戻った。繁華街には活気が生まれ、インバウンド需要も回復している。外から見れば、外食産業は苦境を抜け出したようにも見える。しかし、現場の経営環境は決して楽になっていない。原材料費、人件費、光熱費、物流費は上がり、人手不足も深刻化している。客足の回復だけでは吸収しきれない負担が、現場に重くのしかかっている。
しかも、いま飲食店が直面している課題は、個々の店の努力だけでは解決しにくいものが多い。年収の壁をめぐる制度改正、特定技能人材の受け入れ、クレジットカード手数料、食品消費税ゼロが議論される中での外食の扱い、ナフサ問題や中東情勢も含む原材料・資材・物流コストの上昇。現場では一つの店舗経営の問題としてつながっているが、制度上は複数の領域にまたがっている。
そうした中、東京の飲食業界に新たな連携の場が生まれた。それが一般社団法人TOKYO DINING COLLECTIVEだ。同団体は、東京の飲食業界に関わる経営者、料理人、生産者、関連企業などが集い、業界の発展と次世代の挑戦を支えることを目的に設立された。食団連東京支部の役割も担いながら、現場の声を集め、学びの場をつくり、政策提言につなげていくことを目指す。
設立イベントは、代表理事による基調スピーチ、来賓祝辞、パネルディスカッション、副代表理事によるマニフェスト発表という流れで進行した。基調スピーチでは、代表理事の吉田将紀氏が、外食産業を「最も人に近い産業」と位置づけた。来賓祝辞では、自由民主党の辻清人氏、文部科学大臣の松本洋平氏らが登壇し、コロナ禍で外食産業の声を政治や行政に届ける受け皿の必要性が浮き彫りになった経緯を語った。
また、パネルディスカッションには、株式会社バルニバービー代表取締役会長CEO兼CCOの佐藤裕久氏、Will stage株式会社代表取締役の高橋英樹氏、株式会社ワンダーテーブル代表取締役会長の秋元巳智雄氏が登壇した。食団連の立ち上げの背景、外食産業がこれまでまとまらなかった理由、103万円の壁など制度が動いた事例について議論が交わされた。
さらに、TOKYO DINING COLLECTIVE副代表理事で、株式会社エー・ピーカンパニー代表取締役社長の横澤将司氏によるマニフェスト発表では、外食産業が一次産業を支える出口であり、食料安全保障にも関わる存在であること、そして現場の声を「数字」に変える必要性が強調された。
登壇者の立場はそれぞれ異なる。しかし、そこで共通していたのは、外食産業が抱える課題は、もはや個々の店舗の努力だけでは解決できないという認識である。
コロナ禍で露呈した、外食産業の「声」の弱さ
外食業界は、これまでも大きな危機を経験してきた。リーマンショック、東日本大震災など、時代ごとに、経営環境を大きく揺さぶる出来事はあった。ただし、それらの影響は地域、業態、立地によって濃淡があったのも事実だ。
一方で、コロナ禍は違った。営業自粛、時短営業、酒類提供の制限。政治と行政の判断によって、外食産業全体の営業そのものが大きく左右された。感染拡大を防ぐために、社会の動きを止める必要があるという理解はあった。飲食店側も、社会の一員として協力しようとした。
しかし、飲食店はビジネスでもある。営業ができなければ売上は消える。売上が消えれば、社員の生活を守れない。資金繰りを計算し、数カ月後の倒産を覚悟した経営者も少なくなかった。個人で借入を背負い、なんとか会社や店舗を残した経営者もいた。
このときに露呈したのが、外食産業の声を政策に届ける仕組みの弱さだった。外食産業は、長く自由な産業として発展してきた。個店の創意工夫、料理人の腕、経営者の勘、現場の粘り。それらが日本の外食文化を豊かにしてきたことは間違いない。一方で、その自由さは、業界全体として声を束ねにくいという弱さとも表裏一体だった。
なぜ外食産業はまとまらなかったのか
設立イベントのパネルディスカッションでは、「なぜ今まで外食産業はまとまらなかったのか」という問いが投げかけられた。その答えは、ある意味で明快だった。

コロナ禍までは、まとまる必要がなかったのである。飲食店経営者の多くは、一国一城の主として店を営んできた。自分の店を磨き、商品を磨き、接客を磨き、地域の客に支持されることで生き残ってきた。経営者同士の横のつながりはあっても、業界全体で政治や行政に働きかけるという意識は、決して強くなかった。
外食産業がまとまりにくかった背景については、会の途中で行われたパネルディスカッションでも指摘があった。外食産業は中小企業や個店が圧倒的に多く、コロナ禍以前は政治に頼るよりも、自分たちの情熱やセンスで商売をしてきたという趣旨の発言があった。外食産業には80万件規模の飲食店舗がある一方、大手企業といっても業界全体に占める割合は数%に過ぎないという指摘も出ている。
これは、外食産業の強さでもあった。政治に頼るのではなく、自分たちの情熱とセンスで商売をしてきた。店の魅力を高め、現場の努力で道を切り開いてきた。だからこそ、日本の飲食店は自由で、多様で、奥深い文化を育ててきた。だが、その構造は同時に、業界全体の代表を見えにくくしてきた。外食産業は巨大産業でありながら、業界としての「顔」が見えにくかったのである。
巨大産業でありながら、政治に届きにくかった
TOKYO DINING COLLECTIVEの設立イベントで、代表理事を務める吉田将紀氏は、外食産業を「最も人に近い産業」と表現した。

人を育てる。地域をつなぐ。文化を伝える。経済を回す。飲食店は、日常の中でそれらを同時に担う。単に食事を提供する場所ではなく、人生のさまざまな場面を受け止める場所であるのだ。また、吉田氏は外食産業について、市場規模約24兆円、店舗数全国約50万件、雇用数約411万人、労働人口カバー率7%という数字にも触れた。数字だけを見ても、外食産業は日本を支える重要な産業である。
しかし、これほどの規模を持ちながら、外食産業は政治や行政に対して、必ずしも強い発信力を持ってきたわけではない。この問題を、政治の側から語ったのが、自由民主党の衆議院議員で、環境副大臣を務める辻清人氏である。
辻氏は設立イベントの祝辞で、コロナ禍の際に飲食業界を支援したいと思っても、「大きな受け皿、入口がわからない」という課題があったと語った。タクシー業界や医療業界には、それぞれ政治家が相談できる受け皿となる団体がある。一方で、飲食業界には多くの団体がありながら、これだけ世界から注目される産業であるにもかかわらず、もう少し一本化してほしいという思いがあったという。
この発言は、外食産業が抱えてきた課題を端的に示している。政治は、現場の声がなければ動きにくい。行政も、業界の実情が整理されていなければ制度設計に反映しにくい。飲食店側に困りごとがあっても、それが個別の声にとどまっていれば、政策課題として扱われにくい。
コロナ禍で食団連が生まれた背景には、こうした問題意識があった。そして今回、東京という国内最大級の外食市場でTOKYO DINING COLLECTIVEが設立されたことは、その流れをさらに進める動きといえる。
松本洋平氏が語った、店舗ごとの支援という転換点
設立イベントには、文部科学大臣を務める松本洋平氏も出席し、祝辞を述べた。

松本氏は、コロナ禍における外食産業との関わりについて語っている。当時、松本氏は経済産業副大臣を務めており、新型コロナウイルス感染症対策に関わる立場にあった。緊急事態宣言によって経済活動が大きく制限される中で、企業の手元流動性を確保するため、持続化給付金、実質無利子・無担保融資、雇用調整助成金などの制度整備に関わったという。
ただし、外食産業には別の事情があった。店舗を複数展開する企業にとって、企業単位の支援だけでは十分ではない。店舗ごとに売上が落ち、店舗ごとに家賃や人件費が発生する。企業として支援を受けても、多店舗展開の実態に合わなければ、現場の苦しさは解消されにくい。
そこで、外食産業の関係者が議員会館を訪れ、店舗ごとの支援の必要性を訴えた。松本氏はその話を受け、同僚議員と相談し、麻生太郎氏を会長とする外食産業を応援する議員連盟の設立につながった経緯を語った。
これは非常に重要な話である。外食産業の声が政治に届いたことで、制度設計の考え方が変わったからだ。企業単位ではなく、店舗ごとに支援する。これは外食産業の実態を理解していなければ出てこない発想である。つまり、現場の声が届けば、制度は変わり得る。
松本氏は、今回の東京支部設立についても、東京の外食産業が抱える課題を東京の現場から議論し、それを政治や政府に伝えることには大きな意義があると述べている。東京の外食産業が元気になれば、日本全体が元気になる。東京の魅力を高めることは、全国にも波及していくという趣旨である。東京の課題は、東京だけの課題ではない。東京は日本最大級の外食市場であり、世界と接続する都市でもある。そこで見える課題や解決策は、全国の外食産業にも波及し得るのだ。
コロナ後も、食団連の役割は終わらなかった
食団連は、コロナ禍をきっかけに存在感を高めた。だが、パネルディスカッションでは興味深い話も出ていた。コロナが収束した時点で、食団連の役割は一度終わったのではないか、解散する選択肢もあったというのである。確かに、コロナ禍においては、飲食店への支援、営業時間短縮、酒類提供制限、給付金、協力金など、緊急対応が中心だった。危機が過ぎれば、役割は終わったように見える。
しかし、振り返ってみると、外食産業にはさらに大きな課題が山積していた。外国人就労、クレジットカード手数料、消費税、労働時間、社会保険、食材価格、一次産業との関係。それぞれの問題は、関係する省庁も制度も違う。現場では一つの店舗経営の問題としてつながっているが、行政上は複数の領域に分かれている。
パネルディスカッションでも、食団連は一度役割を終えたようにも見えたが、外国人就労、クレジットカード手数料、消費税、労働時間など、省庁をまたぐ課題が山積していることに気づいたという経緯が語られている。だからこそ、食団連は危機対応の団体で終わるわけにはいかなかった。むしろ、コロナ禍は、外食産業が政治や行政に声を届ける必要性を可視化したにすぎない。本当の課題は、その後に残った。TOKYO DINING COLLECTIVEは、その流れの中で生まれた東京の拠点である。
103万円の壁、カード手数料、外国人材。制度が現場を左右する
飲食店は、自由な商売に見える。店をつくる。料理を出す。接客を磨く。地域の客に愛される。そうした現場の努力によって成り立つ商売であることは間違いない。
しかし、実際には、飲食店ほど制度の影響を受ける産業も少ない。最低賃金が上がれば、人件費が変わる。社会保険制度が変われば、アルバイトやパート従業員の働き方が変わる。特定技能をはじめとする外国人材制度が変われば、採用の可能性が変わる。キャッシュレス手数料が高ければ、利益率が削られる。消費税率が変われば、価格設定にも影響する。観光政策が動けば、インバウンド需要の流れも変わる。
たとえば、103万円の壁や106万円の壁は、飲食店の現場に直結する。アルバイトやパート従業員が年収調整を行えば、シフトに入れる時間が限られる。人手不足に悩む店舗にとっては、日々の営業そのものに影響する問題である。これは個店の努力だけでは解決できない。
パネルディスカッションでは、103万円の壁をめぐり、関係者がかなり前から動いていたことも語られた。時代や物価の上昇率を踏まえ、どの水準が妥当なのかを計算し、政治家を通じて要望してきたという。そこに国民民主党の玉木雄一郎代表がこの問題を政治的なテーマとして掲げ、風が吹いた。もちろん、政治の動きだけではない。現場側も実態を数字としてまとめていたことが大きかった。
ここに重要な教訓がある。制度は、声だけでは動きにくい。しかし、声が数字になれば、政治は動く可能性がある。クレジットカード手数料も同じである。辻氏は祝辞の中で、飲食業界のクレジットカード手数料について言及した。飲食業界では平均で3%程度とされ、他業界と比べても高い水準にある一方で、その実情は政治家や行政側にも十分知られていなかったという。
飲食店は利益率の低い商売である。原材料費、人件費、家賃、光熱費が重くのしかかる中で、決済手数料は利益を確実に削る。キャッシュレス化は顧客利便性を高めるが、その負担を誰がどのように担うのかという議論は避けられない。
外国人材も同様である。採用、在留資格、教育、定着支援、地域での生活。現場では一つの人材課題としてつながっているが、制度や省庁は複数にまたがる。飲食店が外国人材に頼らざるを得ない局面は広がっているにもかかわらず、制度設計が現場感覚とずれていれば、採用も定着も難しくなる。外食産業は、政治に従属する必要はない。しかし、政治と無関係ではいられない。
外食10%、小売8%という不都合な現実
制度の影響という意味で、消費税の問題も避けて通れない。食品小売は軽減税率で8%、外食は10%である。同じ「食」を扱っていても、制度上は区分がある。もちろん、軽減税率の導入には一定の考え方がある。しかし、外食側から見れば、この2%の差は小さくない。
外食は、食材を仕入れ、調理し、接客し、空間を整え、衛生管理を行い、街に明かりを灯す。食事を提供するまでに、多くの人手と手間がかかる産業である。にもかかわらず、制度上は小売より高い税率が課されている。もし、この2%分が軽くなれば、何ができるのか。価格を維持できるかもしれない。従業員に還元できるかもしれない。採用や教育に投資できるかもしれない。設備投資に回せるかもしれない。
株式会社エー・ピーカンパニー代表取締役社長の横澤将司氏も、外食は10%、スーパーは8%であり、日々2%の差の中で競争を強いられていること、その2%を従業員に還元できれば飲食業は人気職種になり得るという趣旨の問題提起をしていた。

「安くておいしい外食」を支えてきたのは、現場の努力だけではない。食材を仕入れ、調理し、接客し、清掃し、店を開け続ける人たちの労働である。その労働に還元する余地が制度によって変わるなら、それは単なる税率の話ではない。外食産業の持続可能性の話である。
外食は一次産業を支える出口である
外食産業の重要性は、都市の飲食店だけで完結しない。外食は、農業、畜産、水産、食品加工、物流、酒類、調味料、器、厨房機器、決済、人材サービスなど、数多くの産業とつながっている。飲食店が仕入れる食材は、生産者にとって重要な販路であり、外食の需要は一次産業を支える力にもなっている。
設立イベントで、横澤氏は、外食産業が一次産業を支える存在であることを強く訴えた。スーパーなどの一般流通では拾い上げにくい価値を、料理人の創意工夫によって一皿の価値へと変える。形の悪い野菜、市場には出回りにくい魚、こだわりの食材。そうしたものを価値に変えるのが外食の役割である。
家庭の食卓では安さが重視されやすい。一方で、飲食店は品質やこだわりで食材を選ぶ。生産者が誇りを持って再生産できる価格で買い支える販路として、外食が担う役割は大きい。
登壇者は、外食は一次産業にとって生命線であり、飲食店が弱れば農業や漁業の販路にも影響する、それは食料安全保障の問題でもあるという趣旨で語っていた。
これは単なる飲食業界の問題ではない。食料安全保障の問題でもある。外食の需要が弱れば、農業、漁業、畜産、酒蔵、食品加工、物流にも影響が及ぶ。逆に、外食が元気であれば、国産食材の出口が広がり、生産者の販路も守られる。外食は、消費の末端ではない。食産業全体を支える出口である。
インバウンドを支えるのはホテルだけではない
インバウンド政策においても、外食はもっと正当に位置づけられるべきである。訪日客にとって、日本の食は大きな目的の一つである。寿司、ラーメン、焼鳥、天ぷら、居酒屋、カフェ、ファインダイニング、町場の個店。訪日客が日本を好きになる瞬間の多くは、飲食店の中で生まれている。
にもかかわらず、観光政策ではホテル、交通、観光施設に支援が向きやすい。もちろん、それらが重要であることは言うまでもない。しかし、インバウンドの魅力を語るなら、外食は周辺産業ではなく、中心的な体験価値を担う産業の一つである。横澤氏も、インバウンドを呼ぶ主役が外食であるにもかかわらず、補助金はホテルや交通に寄りやすく、外食は後回しにされてきたという趣旨の指摘をしている。
東京が世界と戦う都市であるなら、食の魅力は欠かせない。松本氏も祝辞で、東京の魅力を高めることは全国にも恩恵を及ぼすという趣旨を語っていた。東京の外食産業が元気になれば、日本全体が元気になる。これは決して大げさではない。
東京は、日本の食文化が世界と接続する窓口である。だからこそ、TOKYO DINING COLLECTIVEが東京の外食産業の課題を集め、政策につなげていくことには意味がある。
必要なのは、声を数字に変えること
TOKYO DINING COLLECTIVEの意義を考える上で、最も重要な言葉は「声を数字に変えること」ではないか。
外食産業には、現場の苦しさがある。人手が足りない。人件費が上がる。食材が高い。家賃が重い。カード手数料が利益を削る。外国人材を採用したくても制度が複雑である。従業員にもっと還元したいが、原資が足りない。
しかし、個々の声だけでは政策は動きにくい。一店舗の困りごとは、陳情として扱われてしまうかもしれない。一企業の要望は、自社都合と見られてしまうかもしれない。だが、何千店、何万店の声が集まり、数字になれば話は変わる。どれだけの店舗が困っているのか。どれだけの雇用に影響しているのか。どの制度が、どの程度経営を圧迫しているのか。税率の違いが、賃上げや価格維持にどれだけ影響するのか。カード手数料が、利益の何割を削っているのか。年収の壁が、どれだけシフト運営に影響しているのか。それらが数字として示されれば、現場の声は政策課題になる。
設立イベントでも、感情だけでは政策は動かず、政策を動かす言語は数字であるという趣旨の発言があった。さらに、声を束ねて数字にすることが新しいスタートラインであり、数字を持った瞬間に無視できない産業へ変わるという考え方が示されている。外食産業に必要なのは、声を荒げることではない。声を集め、数字にし、社会に届く言葉へ変換することである。
まとまることは、個店の個性を消すことではない
一方で、外食産業がまとまることに対して、違和感を覚える人もいるかもしれない。飲食店の魅力は、個店の自由さにある。店主の思想、料理人の感性、地域との関係性、スタッフの空気感。そうした一つひとつの違いが、日本の外食文化を豊かにしてきた。だからこそ、業界団体や政策提言という言葉に、どこか堅苦しさを感じる人もいるだろう。
しかし、まとまることは、個店の個性を消すことではない。設立イベントで祝辞を述べたサイタブリアの石田聡氏は、飲食業界の地位向上や、働く人が幸せになれる職業にすることを考えながら店を続けてきたと語った。そのうえで、団体としてまとまることの重要性を認めつつ、個店が強くなることが大事であり、日本の飲食は宝であるという趣旨の発言もしている。
これは、外食産業の本質を突いている。外食産業に必要なのは、個店の力を弱めるための連携ではない。むしろ、個店が強くあり続けるために、制度や社会環境の問題については業界として声を上げる必要がある。個店の努力で変えられることは、店が変える。制度や社会構造に関わることは、業界として声を届ける。その役割分担が、これからの外食産業には必要になる。
外食は社会インフラであり、成長産業である
飲食業は、長く「水商売」と見られてきた側面がある。景気に左右されやすく、不安定で、個人の才覚に依存する商売。そうした見方は、今も完全には消えていない。
しかし、現在の外食産業は、それだけでは語れない。外食は雇用を支え、地域経済を支え、観光を支え、日本の食文化を世界に伝えている。農業、畜産、水産、食品加工、物流、酒類、厨房機器、人材サービスなど、多くの産業ともつながっている。訪日客にとっても、日本の食は大きな目的の一つであり、海外に進出する外食企業も増えている。 つまり外食は、文化であり、産業であり、雇用であり、観光資源であり、地域インフラでもある。これからの日本の成長を支える重要な産業の一つといっていい。
一方で、日本の外食が長く届けてきた「安くておいしい」日常は、いま瀬戸際に立っている。原材料費、人件費、物流費、光熱費が上がる中で、現場の努力だけで価格と品質を維持することは難しくなっている。価格転嫁をすれば客離れが怖い。価格を据え置けば利益が削られる。従業員に還元したくても、その余力がない。
この状況を放置すれば、個性ある店が消え、職人の技が受け継がれにくくなり、若い人が飲食業界を目指しにくくなるかもしれない。問題は、チェーン店か個店かではない。個店も、チェーンも、ファインダイニングも、居酒屋も、町場の食堂も、カフェも、それぞれが存在できる多様性こそが、日本の外食の強さである。
だからこそ、外食産業は自らの価値を社会に伝えなければならない。人手不足、外国人材、クレジットカード手数料、税制、社会保険制度は、個店だけでは変えられない。小規模・個店が多い業界だからこそ、個々の声は埋もれやすい。必要なのは、その声を集め、数字に変え、社会や政策に届く言葉へ翻訳することだ。

TOKYO DINING COLLECTIVEの設立は、東京の飲食店が集まる交流団体の誕生にとどまらない。外食産業が自由で多様な産業であり続けるために、現場の声を束ねる土台づくりである。 自由であるために、まとまる。 日本の外食産業は、いまその新しい段階に入ろうとしている。



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