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【アルバムレビュー】MUSEが戻ってきた。新作『The Wow! Signal』が示す3人の進化

  • 執筆者の写真: 三輪大輔
    三輪大輔
  • 2 日前
  • 読了時間: 7分

                         三輪大輔|外食ビジネスアナリスト


「MUSEが戻ってきた」。そう言ってもいいのではないだろうか。それくらい、新作『The Wow! Signal』がいい。2022年の『Will of the People』以来、約4年ぶりとなるアルバムだ。発売されてから、かなり聴いている。


『Will of the People』で見せた、MUSEの圧倒的な攻撃性

前作『Will of the People』も、決して弱いアルバムではない。むしろ改めて聴くと、その攻撃性の高さに驚かされる。特に「Kill Or Be Killed」をはじめ、メタル、ハードロックへ大きく振った楽曲は強烈だ。マット・ベラミーのギター、クリス・ウォルステンホルムのベース、ドミニク・ハワードのドラム。それぞれの演奏力の高さが前面に出ており、3ピースのロックバンドとして、この方向だけでも十分に成立している。自分もこのアルバムは好きだ。



ハードロック、エレクトロニック、シンセポップ、オーケストレーション。巨大なステージと結びついた大仰な世界観。これまでMUSEが20年以上かけて試してきた要素を、自分たち自身でもう一度組み立て直したような作品でもあった。


前作はセルフプロデュースだった。自分たちだけでMUSEとは何なのかを突き詰め、これまで築いてきたものを一度総括したようにも聞こえた。だからこそ、聴き終えたときに思った。この先、MUSEはどこへ行くのだろう。それだけ完成されていたし、自分たちの持つ武器を一度全て確認したような作品だったからだ。


セルフプロデュースを経て、再び外部の耳を入れた理由

ところが4年後、『The Wow! Signal』でMUSEは強力な一枚を叩き込んできた。今回はDan Lancaster、Aleks Von Korffという、MUSEをよく知る外部のプロデューサーを制作の中心に迎えている。完全に外から来た人間に音を委ねたというわけではない。Lancasterは前作の制作にも関わり、その後はツアーにも参加した。Von Korffも以前からMUSEのレコーディングに携わってきた人物だ。つまり、MUSEの内側を理解しながら、それでも3人とは違う耳を持つ人間を入れた。この距離感が良かったのではないかと思う。


自分たちだけで一度MUSEを突き詰めた前作を経て、今回は少しだけ外から自分たちを見る。その結果、MUSEというバンドの輪郭が、もう一度はっきりしたように感じる。昔に戻ったわけではない。『Origin of Symmetry』や『Absolution』をもう一度つくったわけでもない。これまで20年以上で獲得してきたものを全て持ったまま、もう一度、3人で音を鳴らすところへ戻ってきた。


そう考えると、前作『Will of the People』も必要な回り道だったのだと思えてくる。攻撃性を研ぎ澄まし、演奏力を前面に押し出し、自分たちの武器を一度すべて確認する。その過程を経たからこそ、今回はそこからもう一度、世界を大きく広げることができたのではないか。年齢とキャリアを重ね、音には確かな円熟味が増した。それでも、3人で演奏することを楽しむ姿勢は変わらない。そこがいい。


宇宙を描きながら、人間を描く『The Wow! Signal』

MUSEはそもそも、一曲一曲が強いだけのバンドではない。アルバムという単位で、一つの世界をつくることに長けている。今回の『The Wow! Signal』も、まさにその系譜にある作品だ。


タイトルの由来となったのは、1977年に観測された正体不明の強い電波信号「Wow!シグナル」。もし、あの信号が本当に地球外生命から送られたものだったとしたら。宇宙には人間以外の知的生命が存在するのか。自分たちは孤独なのか。それとも、まだ知らない何かと、いつかつながることができるのか。そんな宇宙の神秘や未知との遭遇を思わせる、スペース・オペラ的な世界がアルバム全体を覆っている。ただし、描かれているのはSFだけではない。宇宙や未知の存在をメタファーにしながら、その奥には孤独や喪失、誰かとつながりたいという極めて人間的な感情がある。


その中心にあるのが、先行シングルとして発表された「Be With You」だ。荘厳なオルガンから始まり、電子音が加わり、やがて巨大なスタジアムロックへと変貌していく。一曲の中に、MUSEがこれまで積み上げてきたものが凝縮されている。そして興味深いのは、これほど宇宙的な音を鳴らしているのに、曲の根底にあるのは「誰かと一緒にいたい」という、とても小さく人間的な感情であることだ。宇宙の果てを見ようとしながら、そこで描かれているのは人間そのもの。『The Wow! Signal』という作品の魅力は、そこにある。



3人で音を鳴らす喜び――これこそMUSEだ

一方、「Cryogen」で強く感じるのは、MUSEという3ピースバンドそのものの格好よさだ。イントロのギターフレーズから、一気に引き込まれる。



MUSEには昔から、実際にギターを持って弾いてみたくなるリフが多い。「声に出して読みたい日本語」ではないが、「ギターで弾いてみたいメロディック・リフ」とでも言いたくなる。代表的なのが「Plug In Baby」だろう。流麗なギターリフが鳴った瞬間、一気に曲に火がつく。ライブでは、あのイントロだけで観客のスイッチが入り、会場全体の温度が上がる。MUSEを象徴するライブアンセムの一つだ。



「Hysteria」では、ベースが主役になる。クリス・ウォルステンホルムによる強烈なベースリフだけで曲が始まり、それだけで十分に成立している。そこへライブではマット・ベラミーのギターが重なる。すると、一本のリフだったものが、突然巨大な音の塊へと変わる。ベースが前へ進み、ギターが横へ広げ、ドラムが全体を押し上げる。3人しかいないはずなのに、音のスケールはどこまでも大きくなる。


「Supermassive Black Hole」もそうだ。決して複雑ではない印象的なギターリフを繰り返しながら、ファンクやダンスミュージックのようなグルーヴをつくる。MUSEは超絶技巧のバンドと思われやすいが、必ずしも音数で圧倒するわけではない。短いフレーズ一つで曲全体を支配する。そこにもMUSEらしさがある。


「Cryogen」には、その魅力がしっかり戻ってきている。特に好きなのが後半だ。ギターによるコードのカッティングをきっかけに、ベースとドラムが絡み始め、3人の掛け合いへと変わっていく。ここが最高に格好いい。巨大なコンセプトを掲げたアルバムをつくっているはずなのに、そこで鳴っているのは、3人のミュージシャンが音で会話するという、極めて原始的なバンド演奏だ。


MUSEは3ピースである。しかし、その音を聴いて、たった3人で演奏していると感じる人は少ないだろう。シンセサイザーやオーケストレーションを大胆に使いながらも、その中心には、マットのギター、クリスのベース、ドミニクのドラムがある。3人しかいないからこそ、一人一人の演奏が大きな意味を持つ。その感覚が、今回はとても鮮明だ。


「Unravelling」が描く、崩れていく世界と人間の孤独

そしてもう一曲、強く惹かれるのが「Unravelling」である。「Be With You」が誰かとつながろうとする曲だとすれば、「Unravelling」には、世界や自分をつなぎ止めていたものが、少しずつほどけていくような感覚がある。


サウンドも壮大だ。MUSEがこれまで描いてきた終末的な世界観を思わせながら、今回はそれを外側から眺めているだけではない。その世界の中にいる一人の人間の不安や孤独まで、以前より近い距離で描いているように感じる。


宇宙を描きながら、人間を描く。巨大な物語をつくりながら、最後には3人の演奏へ戻ってくる。その二つが両立しているから、『The Wow! Signal』は強い。


『The 2nd Law』以来の衝撃

個人的に、MUSEのアルバムで最も好きなのは2012年の『The 2nd Law』だ。中でも「Madness」を初めて聴いたときの衝撃は大きかった。MUSEがこんな曲をつくるのか。そう思わされた。



今回、「Be With You」「Cryogen」「Unravelling」を聴いていて、久しぶりにそれに近い感覚を覚えている。長く活動しているバンドの新作を聴いて、まだこんな驚きを感じられるとは思わなかった。


前作で前面に出した攻撃性。初期から持ち続けてきた鋭いギター。電子音。巨大なオーケストレーション。スタジアムロック。SF的な世界観。そして、3人だけで音を鳴らす喜び。それらを全部持ったまま、MUSEは再び前へ進み始めた。


若い頃のMUSEに戻ったのではない。長いキャリアを重ねた3人だからこそ鳴らせるMUSEを、もう一度見つけた。前作が必要な回り道だったと言わんばかりに、強力な一枚を叩き込んできた。だからこそ、冒頭の言葉に戻る。


「MUSEが戻ってきた」。


『The Wow! Signal』は、そう言いたくなるアルバムだ。2025年には8年ぶりとなる来日公演を大阪、横浜で行ったMUSE。現時点で『The Wow! Signal』を携えた新たな日本公演は発表されていない。 それだけに、このアルバムの曲がライブでどのように鳴るのか、もう一度日本で確かめたくなる。


巨大なステージセットも、レーザーも、映像もいい。でも、最後に見たいのはやはり、マット・ベラミー、クリス・ウォルステンホルム、ドミニク・ハワードの3人が向き合い、楽しそうに音を鳴らしている姿なのだ。


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