同じ値下げでも意味が違う? くら寿司、鳥貴族、安楽亭に見る外食業界の値付けの三極化

外食企業の値付けが激しく動いている。
くら寿司は、最低価格を115円から110円へ引き下げる一方、サーモンや生えびなど33品目を120円へ値上げした。安楽亭は食べ放題のスタンダードコースを4048円から3608円へ引き下げ、グランドメニューも75品目以上を値下げした。一方、鳥貴族は10月から全品均一価格を390円から410円へ引き上げる。
同じ原材料費や人件費の上昇に直面しながら、値上げする企業、値下げする企業、商品ごとに価格を上げ下げする企業に分かれている。これは外食の値上げ路線が終わったという話ではない。各社の競争力の差が、値付けに表れ始めたのである。
110円のはま寿司、高付加価値のスシローに挟まれたくら寿司
くら寿司は9月4日から、最低価格を115円から110円へ引き下げた。「ねぎまぐろ」など37品目が対象となる。一方、これまで115円だったサーモン、生えび、赤貝など33品目は120円へ値上げした。安さを印象づける商品を下げながら、需要が見込める商品は値上げして採算を調整する改定である。
この背景には、回転寿司市場におけるくら寿司の立ち位置がある。はま寿司は、ゼンショーグループの調達、製造、物流網を背景に、税込110円の商品を主力価格として維持している。一方、スシローはフェア商品や高価格帯の商品を強化し、「多少高くても食べたい」と思わせる商品力によって客単価を引き上げてきた。
これに対して、くら寿司の最低価格は115円だった。110円のはま寿司より高い一方、スシローほど高付加価値へ振り切れているわけでもない。ビッくらポン!や人気IPとのコラボなど独自の強みはあるものの、価格面では両社の間で中途半端に見えやすくなっていた。
業績にも厳しさが表れている。2026年10月期第3四半期累計は、連結売上高が前年同期比4.4%増となった一方、営業利益は45.2%減、経常利益は37.7%減だった。国内事業に限ると、売上高は1.2%減、経常利益は40.8%減となっている。直近の5~7月期だけを切り出すと、経常利益は前年同期比78.6%減。売上高営業利益率も前年同期の3.6%から0.6%へ低下した。
つまり、利益に余裕があるから値下げするわけではない。はま寿司に対抗できる110円という入口価格をつくり、価格イメージを立て直す必要があったと考えられる。ただし、全部の商品を110円へ戻せば、利益はさらに圧迫される。そこで集客力のある最低価格商品を110円へ下げる一方、サーモンなど33品目を120円へ引き上げた。
くら寿司の価格改定は、はま寿司との価格差を埋めながら、スシローのように一部商品では付加価値に応じた価格を取る戦略である。単純な値下げではなく、二つの競合に挟まれた価格上の立ち位置を修正する取り組みといえる。
安楽亭の値下げは客数防衛の意味が強い
これに対して、安楽亭の値下げは対象が広い。9月17日から食べ放題のスタンダードコースを税込4048円から3608円へ約11%値下げし、グランドメニューも肉、大皿、定食、サイドメニューなど75品目以上を改定する。
ところが、2027年3月期第1四半期の連結営業利益率は約3.1%にとどまる。売上高は前年同期比0.1%減、営業利益は18.1%減、経常利益は26.5%減だった。主力の安楽亭・七輪房業態も売上高が10.6%減少している。値下げできるほど、利益に余裕があるわけではない。
焼肉食べ放題では、焼肉きんぐが3000円台の価格帯で大きな存在感を持っている。安楽亭の改定は、この価格帯に合わせ、減少する客数を食い止める狙いが強いと考えられる。くら寿司が一部商品を値下げするのに対し、安楽亭は食べ放題から定食、単品まで広く価格を見直す。安楽亭にとっては、価格イメージそのものを変えなければ、比較の対象にすら入れないという危機感があるのだろう。同じ値下げでも、その意味はかなり違う。
鳥貴族はなぜ値上げできるのか
一方、鳥貴族は全品均一価格を390円から410円へ引き上げる。運営するエターナルホスピタリティグループの2026年7月期は、売上高が前期比10.6%増の512億5400万円となり、過去最高を更新した。一方、営業利益は10.4%減の27億9700万円、最終利益は23.4%減の13億1800万円だった。売上は伸びているものの、原材料費や人件費、出店費用の増加によって利益が圧迫されている。今回の値上げには、伸びている売上を利益へ結びつける狙いがあると考えられる。
鳥貴族もコスト上昇から逃れられない。しかし、安さだけでなく、国産鶏肉、店内串打ち、大ぶりな焼き鳥、お通し代なしといった価値を積み重ねてきた。鶏料理への集中によって仕入れや在庫管理を効率化し、2階や地下の店舗も活用して家賃を抑える。均一価格を支える仕組みも築いている。
2017年に税抜280円から298円へ値上げした際には客数が減少したが、近年の価格改定では大きな客離れが起きていない。「安いから鳥貴族へ行く」だけではなく、「鳥貴族の商品を食べたい」という来店理由が強くなったためだろう。
値上げできるかどうかを決めるのは、原価の上昇幅だけではない。値上げ後も選ばれる商品とブランドを持っているかである。鳥貴族の410円への改定は、客数を維持できるという判断に基づく、利益回復のための値上げといえる。
外食の値付けを分ける三つの力
現在の外食企業は、大きく三つに分かれ始めている。
一つ目は、高い生産性によって低価格や主力商品の価格を維持できる企業だ。仕入れ、製造、物流、店舗運営を効率化し、コスト上昇を内部で吸収する。
二つ目は、付加価値とブランドによって値上げできる企業である。鳥貴族のように、価格が上がっても来店客が納得できる理由を持つ。
三つ目は、どちらの戦略も難しく、値下げによって客数を取り戻そうとする企業だ。競合がつくった価格帯に合わせなければ、選択肢に入れなくなっている。
そして、この三つの方向を商品単位で組み合わせているのが、くら寿司である。全部を一律に動かすのではなく、集客商品は下げ、利益を確保できる商品は上げる。価格を商品ごとに使い分ける戦略だ。
今後の外食では、「値上げしたか、値下げしたか」だけを見ても、企業の狙いは分からない。見るべきなのは、どの商品を下げ、その損失をどの商品で回収するのか。値上げ後も客数を維持できるのか。価格を据え置くための生産性があるのか、である。コスト高が続く中で、全面的な値下げは大きな危険を伴う。客数が増えなければ、売上が戻っても利益は残らない。価格以外の来店理由をつくれなければ、再び値下げを迫られる可能性もある。
外食の値付けは三極化している。しかし、本当の分岐点は値上げか値下げかではない。自社で価格を決められる企業、商品ごとに価格を設計できる企業、競合の価格に合わせざるを得ない企業。その違いが、これまで以上に露骨になっている。値上げ一辺倒の時代が終わり、外食各社の競争力が値付けに表れる。現在起きているのは、価格競争の再燃というより、企業の実力による選別の始まりなのである。


