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サイゼリヤはなぜ安い? 好業績を支える「製造直販」と低価格戦略の懸念点【外食企業の現在地】

執筆者の写真: 三輪大輔
三輪大輔
1 日前
読了時間: 8分

更新日:1 時間前

                         三輪大輔|外食ビジネスアナリスト


物価高が続き、外食業界では値上げが珍しくなくなった。その中で、サイゼリヤの存在感が際立っている。ミラノ風ドリアをはじめ、数百円台の商品を数多くそろえ、1000円前後でも複数の商品を組み合わせて楽しむことができる。


しかも、安いだけではない。業績も好調だ。2026年8月期第3四半期までの業績は増収増益となり、国内だけでなく海外事業も含めて成長が続いている。低価格を維持しながら利益も伸ばしている点に、サイゼリヤの強さがある。


物価高の中でも低価格を強みに成長を続けるサイゼリヤ。写真は都内の店舗(撮影筆者)
物価高の中でも低価格を強みに成長を続けるサイゼリヤ。写真は都内の店舗(撮影筆者)

では、なぜサイゼリヤは、なぜ安いのだろうか。その答えの一つが、同社が掲げる「製造直販」にある。


サイゼリヤの強さを支える「製造直販」

サイゼリヤは、自ら素材開発や原料調達を行い、加工、配送、店舗での提供までを一連の流れとして手掛ける仕組みを「製造直販」と呼んでいる。


国内に5工場、海外に2工場を持ち、店舗で使用する食材を自社工場で加工する。店舗には調理しやすい状態で食材を届けることで、調理時間を短縮し、保管や片付けの負担も減らしている。一般的な飲食店であれば、食材メーカーや卸売企業から食材を仕入れ、店舗で調理して販売する。しかし、サイゼリヤはそのさらに川上まで入り込む。


一見すると、自社工場や物流機能を持つことは負担にもなる。設備投資が必要になり、工場の人員や在庫も抱えなければならない。販売量が少なければ、設備が余ってコスト増につながる可能性もある。つまり、「自社でつくれば安くなる」というほど単純ではない。


サイゼリヤの場合、それを可能にしているのが圧倒的な販売量だ。長期間販売している定番商品が多く、店舗の販売データから必要量を予測できるため、産地や工場で計画的に生産できる。同社も「必要な量を、必要なタイミングでつくる」計画生産によって、生産、加工、保管、配送、店舗での提供までのムダを減らしていると説明している。


大量に売れるから工場を効率よく稼働できる。そして工場や物流を効率化できるから低価格で販売でき、その価格がさらに多くのお客様を呼ぶ。この循環が、サイゼリヤの低価格を支えている。


「安い食材を探す」のではなく、食材からつくる

その考え方は、野菜にも表れている。サイゼリヤでは、契約農家と野菜の規格や購入量を決め、年間を通じて安定的に出荷できる仕組みをつくっている。


興味深いのは、規格について「サイズや見た目」よりも鮮度を重視していることだ。見た目を理由に産地で捨てられてしまう野菜を減らすことで、食品ロスの削減にもつなげている。

また、サイゼリヤは自社農場でも野菜の研究や生産に取り組んできた。


単純に市場からその時々で安い食材を仕入れるのではない。「どうすれば品質の良いものを、必要な量だけ、安定して使えるのか」。そこから逆算して、生産方法や物流まで考える。サイゼリヤの低価格は、仕入れ担当者が安い商品を探してくるだけで成り立っているわけではないのである。


加工食品でも同様だ。サイゼリヤでは、自社工場でスープやサラダ、ソースなどを製造している。海外工場でも食材を加工し、店舗へ供給する。ワインについても、単に輸入業者から完成品を仕入れるだけではない。現地のワイナリーと協働してハウスワインを開発し、サイゼリヤ指定の畑で収穫されたブドウを使用する。必要分をその都度ボトリングし、定温コンテナで日本へ輸送している。1996年からイタリアより直接輸入しているという。


ここにも、「価格と品質をできるだけ自分たちで管理する」という製造直販の思想が表れている。


サイゼリヤには、とにかくムダが少ない

サイゼリヤを見ていると、「大きくコストを削減する」というより、細かなムダを一つずつなくしている印象が強い。食材は必要量を予測して計画生産する。工場では店舗で使いやすい状態まで加工する。野菜は見た目だけで排除しない。店舗での作業も極力少なくする。さらに、使用済みの食器や調理器具などのリサイクルにも取り組んできた。


一つ一つは小さな改善に見えるかもしれない。しかし、1000店舗を超える規模で展開するチェーンでは、1店舗で1日数十円、数百円の違いでも、年間では大きな金額になる。逆に言えば、サイゼリヤほどの規模になると「小さなムダを放置しないこと」そのものが競争力になる。安いからムダを削るのではなく、ムダを徹底して削ってきたから安くできる。この順番が重要だ。


安さだけではない。一店舗の売上を最大化する

サイゼリヤの強さは、食材や製造コストを抑えることだけではない。店舗そのものを、どれだけ効率よく使うかという視点も重要だ。


近年は「朝サイゼ」の展開を広げており、朝食の時間帯まで利用機会を広げている。もともとサイゼリヤは、ランチだけでなく、カフェ利用、夕食、ワインを使った「ちょい飲み」まで幅広い需要を取り込んできた。朝食が加われば、朝、昼、カフェ、夕食、ちょい飲みと、一日の幅広い時間帯で集客できる。


2026年1月から導入店舗を拡大している「朝サイゼ」。朝食からランチ、カフェ、夕食、ちょい飲みまで、幅広い時間帯の需要を取り込む狙いがある。
2026年1月から導入店舗を拡大している「朝サイゼ」。朝食からランチ、カフェ、夕食、ちょい飲みまで、幅広い時間帯の需要を取り込む狙いがある。

これはマクドナルドにも通じる強さだ。新しい店舗を増やすだけでなく、既存の一店舗を長い時間稼働させることで、一店舗当たりの売上を高めることができる。飲食店では、家賃や設備費など、客数にかかわらず発生する固定費が大きい。そのため、同じ店舗を朝から夜まで有効活用できれば、固定費をより多くの売上で吸収できる。


立地についても、サイゼリヤはかなりシビアに見ている。知名度の高い繁華街や一等地だから出店を続けるのではなく、収益性が合わなければ撤退する。一方で、ビルの上層階や商業施設内など、必ずしも目立つ立地でなくても、十分な集客が見込め、採算が立つ場所には出店する。


重要なのは、立地の「華やかさ」ではなく、そこでどれだけ売上をつくり、利益を残せるかだ。朝、昼、カフェ、夕食、ちょい飲みまで幅広い時間帯で集客し、一店舗を長く稼働させることで、立地コストを吸収していく。


さらに、既存店の改装やリニューアルによって、店舗の使いやすさや居心地を高めていけば、同じ立地でも売上を伸ばせる余地はある。「安く仕入れる」「効率よくつくる」だけではなく、一つの店舗、一つの時間帯、一つの設備をできるだけ使い切る。ここにも、サイゼリヤの「ムダを減らす」という考え方が表れている。


「1000円でこれだけ」がSNSで拡散されてきた

さらにサイゼリヤの場合、低価格そのものがマーケティングになっている点も見逃せない。


サイゼリヤは、XやInstagramを前面に出して販促する企業ではない。それなのに、SNSでは非常に強い。「1000円でこれだけ食べられた」「ワインまで頼んでこの値段」「1000円でどんな組み合わせをつくるか」といった投稿が、企業発信ではなく利用客側から次々と生まれてきたからだ。


単に「ミラノ風ドリアが300円」というだけではない。300円、400円の商品をいくつか組み合わせ、テーブルいっぱいに料理を並べる。その写真を撮れば、「これだけ食べて、この価格」というお得感が一目で伝わる。限られた予算の中でメニューを組み合わせること自体が、一つの楽しみになっている。


つまりサイゼリヤは、SNSマーケティングに力を入れているからSNSに強いのではなく、ファンが発信したくなる価格と体験をつくってきたからSNSに強いのである。企業が「安い」と訴えるのではなく、利用客自身がその価値を発見し、発信してくれる。サイゼリヤは、価格やお得感に対して非常に誠実な企業だと私は感じている。


ただ値段を安く見せるのではなく、「この金額なら、これだけ楽しめる」という期待を裏切らない。その積み重ねが利用客からの信頼となり、口コミやSNSで共有され、さらに人気につながってきたのではないだろうか。


もちろん。追加する該当箇所だけ、流れがつながるようにまとめるとこうです。


低価格は、もはやサイゼリヤの「ブランド資産」

ここまで来ると、サイゼリヤにとって低価格は単なる販売戦略ではない。ブランドそのものになっている。


普通の飲食店であれば、原材料費や人件費が上昇した際、50円や100円の値上げによって吸収することもできる。しかし、サイゼリヤの場合は少し事情が違う。仮に各商品を数十円ずつ値上げしただけでも、「1000円で楽しめる内容」が変わってくるからだ。これまで1000円で4品頼めていたものが、3品しか頼めなくなるかもしれない。それは単に100円値上がりしたという話ではない。利用客が感じてきた「サイゼリヤならこれだけ楽しめる」という価値そのものを変えてしまう。


しかも、現在はSNSがある。「前は1000円でこの組み合わせだった」「前より選べるメニューが少なくなった」「以前ほどお得ではなくなった」といった変化も、すぐに比較され、可視化される。低価格を守り続けてきたからこそ、それがサイゼリヤへの強い信頼となった。一方で、その信頼が大きいほど、値上げした際の印象も大きくなる。ここはサイゼリヤの低価格戦略が抱える一つの懸念点だろう。


値上げしないことではなく「どうすればこの価格を守れるか」

もちろん、原材料費、人件費、物流費、エネルギー価格が上昇する中で、すべての商品価格を永遠に維持することは難しい。サイゼリヤも今後、必要に応じて商品や価格を見直す可能性はある。


ただ、同社の取り組みを見ていると、「原価が上がったから、いくら値上げするか」という発想だけではないことが分かる。その前に、どこにムダがあるのか。生産方法を変えられないか。物流を効率化できないか。店舗作業を減らせないか。食材のつくり方から見直せないか。そうした改善を積み重ね、「どうすればこの価格で提供できるのか」を考えてきた。

サイゼリヤの強さは、単に安いことではない。


安さを実現する仕組みを長年かけてつくり、その安さに対する信頼をブランドへと育ててきたことにある。そして今後は、その信頼を守りながら、どこまで物価高に対応していけるのか。そこが、サイゼリヤの次の注目点になりそうだ。

 

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